待ち時間
迎えの黒い車を背後にし、待っていた。
そしたらやっと出て来た彼を見て、少しほっとする。
何もされていないようだ。
これで生徒全員が外に出たと思う。
もう真っ暗な中なのに彼だけは私をすぐ見つけることができた。
そう思ったのは目が合ったから。
それでもそれは何故? と聞いたことはないけれど、彼は言う。
「会ったか?」
ぶんぶんと首を横に振った。
きっと彼はあの方のことを言っている。
十二一族の次期当主である宮司楓真さん。
学校ではそう呼んでいるけれど、家に帰ったら様付けだ。
その上には彼の父である宮司澄成さんがいて、その上にはもう一人、宗家である『藤原の方』という方がいらっしゃるけれど、この方はあまり家にはやって来ない。
だからこそ、失礼のないように自分の立場は把握しているつもりだ。
十二一族の中でも上の位置になる十二の星座の一つ、蠍座。
これは十二の星座の中でも八番目になる。
蠍座だから目立っているのではなく、遺伝で目立っているのだと言ったけれど、こういう風に目立ちたいという欲望からそうなったのかもしれないと思ったことは確かにある。
十二一族は主を別として『十二の星座』と『十二支』と『和風月名』からなるその一族の代表となった三十六人をまとめて言うものだ。
皆の年齢ははっきり覚えていないが、次期当主である宮司楓真様の下には牡羊座の白浜千祥、牡牛座の金澤犀治、双子座の児森双花、蟹座の蟹江空巨、乙女座の外処綾女、天秤座の秤谷灯天、射手座の射場捺馬、山羊座の片山旦達、水瓶座の瓶内暁宝、魚座の沙魚川弘又と来て、その下には十二支の根子夜宙、丑久保旺望、寅丸佑雅、卯田珀兎、辰広偉央俐、巳波結彩、午来高和、日辻咲李、申原姫唯、高酉紘亮、戌井羽雲、亥野哩太と来る。
さらにその下には十二一族の中でも一番下だと言われることが多い和風月名となる正治律芹、梅沢創芽、藤生冴夢、四方卯紗、鶴皐早輝、無津呂風道、文屋初七、八巻百葉、長崎紅也、神戸明帆、霜村楽音、暮橋敦師となっている。
どれも小学校の頃に教えられる一から十二の順で並んでいる。
数字が小さい方がすごいと小さい時に十二一族の者は大人から教わり、それを疑いもしないで育てられる。
それが元になるからだ。
星座が一番最初に来るのも、それが大元だと十二一族の中では伝わっているからだ。
それだけで、敬われることもあまりなく、普通に生きている所もある。
それでもその中には一応の秩序もあり、まつわる話もある。
生き辛いと感じる人もいれば、そうではなくそんなの関係なく楽しく生きている人もいる。
そこは個人の性格によるかもしれないが、性別もその名前だけでは判断できなくなって来た現代。
困るのはどう見ても一クラス分はある血の繋がりがない人達を管理することだろう。
それでも彼、一月の正治律芹は冷静に言う。
「なら、良いんだ」
それだけで少し心が明るくなるのは何故だろう。
今日の帰り、こんなにお迎えの車を待たせるまでに遅いのはあの方に会って、話を聞いたんでしょう? と言えるわけもなく、自分の父母ではない雇われの運転手の五十代のおじさんにお待たせしましたと言って、出してもらった。
走る車の窓から見えるのはもう何もない。
山の中の夜はいつも暗闇に飲み込まれていて何も見えない。
明かりがあってもちっとも分からない時がある。
そのくらい真っ黒な中で何を考えているのだろう。
「今日のご飯はすき焼きだよ!」
「そうか」
本当かどうか確かめて来ない所を見ても、そんな事はどうでも良いと思っている。
それよりも大切な事はきっと十二一族の皆が一斉に集まる年に二回ある盛大な集まりだ。
今年の大晦日も集まるのだろうか。
そして、今年の強者と弱者が発表されるのだろうか。
時々、誰かが集まりはかったるいからと今の時代、スマホやパソコンがあれば顔を見せて話すこともできるのだからこういうのはなしにしようと言う時があるけれど、それはダメだと当主が言うからいつも却下になる。
大晦日ぐらいは良いのにな――と思うけれど、逆らうことなんてできないからそれに従うしかない。
翌日の正月は当主が住む宮司家に全員が集まる習わしがずっとあり、それが今でも守られている。
その日にはその年のやる事が発表される。
過去にはその一日、その場でもう決着がついてしまったものもあるらしい。
それはくじ引きで滑稽すぎてもうやらないとなったとか。
それ以外では何をやるだろう。
そして、宗家である藤原の方がいらっしゃるのもこの二日だけだ。
藤原の方は正治家と同じく、今年も参加しながら見守るのだろう。
それが役目であり、自分達のような楽しませる存在ではないのが羨ましい。
でも、律芹もそれなりに楽しませる努力をしなければならないから大変だろう。
「今年ももうじき終わるね」
「ああ、そうだな」
暗闇の中の言葉は静々と消えて行き、時間もそんな風にして流れて行って。
今年の強者と弱者が決まり、翌年になればすぐにその強者が決めた事を弱者は一年間やり続け、その間に次の強者と弱者を決める為に争うのだ。
けれど今の時代、魔法もそもそもない現代の日本でやれることは知れていて、すごろくを一年かけてやった時を思い出せば、今年のものは簡単だった。
自分は弱いけれどもビリにはならないことが確定しているのもあって、苑果は強者手前の所にいる律芹を見る。
けして律芹は強者にならない。
自分の役割を知っているからだ。
自分はそこまでの覚悟がないけれど、この十二一族から逃げたいと思わないし、やめたいとも思わない。
ただこの中に居て、それに従っているだけ。
それが一番楽ちんで平和だ。
今年の強者はきっと勉強が強い根子ちゃんか、冴夢ちゃんだろうと思う。
あとは大学生辺りか――。
車が完全に止まった。
家に着いたようだ。
この辺は学校とは違い、明るくて街中だ。
とても良い、安心する。
「お帰り」
と言ってくれたのは律芹の母だ。
「ただいま、おばさん」
そう言っても怒られないのは自分が幼い時から律芹のお母さんにお世話になっているからだろう。
自分の家とは正反対の家族仲が良い家で居心地がとても良い。
嫁に行きたいくらいだ。
そう思った途端、ちょっとは顔が赤くなったのだけど律芹は全然素っ気なく、興味もなさそうにご飯を食べて考える……と言って、さっさと家の中に入ってしまった。
もう! と思うのは自分だけだろうか。
こんなにも心の中は少しの怒りが芽生えているというのに。
それは必要ないのだろうか。
来年は何をするんだろう? 早く知りたいような知りたくないような夜だった。




