エルヴィス・ザナ・メッチャツオイのもどかしさ
もどかしい……。
俺、エルヴィス・ザナ・メッチャツオイは毎日そう思っていた。
娘であるリディールにつけている影の一人、レナから報告を受けるたびに俺は頭を抱えていた。
「今日も進展なしか……」
「はい。なぜ気づかないのでしょう。失礼ながら、リディール様は鈍感なのですか?」
「鈍感以外にあの子の鈍さを表現できる言葉はあるか?」
「ありません」
リディールはアルデーヌに好意を寄せられている。
アルデーヌもアピールを頑張っているようだが、リディールがそれに気づかないのだ。
「アルデーヌ様がグズグズしてると、フォーカス様に掻っ攫われる可能性もあるのでは?」
「だから困っているのだよ。フォーカスは一度はリディールと婚約破棄した身なのに、リディールが優しくするからガチ惚れしてるんだ。元々政略婚約だったのに……」
一時期はリリアーナに想いを寄せていると思っていたが、そうではなかったのだな。
俺的にはアルデーヌと結ばれてほしいが……。
「眉目秀麗、時期王立魔導士団団長候補、公爵家嫡男。完璧すぎるな」
「…………なぜアルデーヌ様はリディール様に想いを告げないのですか?」
「ああ、君がこの世界に召喚されたのはあれより少し後だったから知らないか」
俺がそう言うと、レナは首を傾げた。
レナは異世界からこの世界にやってきた転移者だ。
王都から少し離れた小さな村に現れたため、我が国が保護することになったのだ。
そして、何より仕事を求めていたから、レナにはリディールの影と言う仕事についてもらった。
「君は異端児という言葉を知っているか?」
「ええ。他の人にない力を持つ子供のことですよね?私の世界でよく本の登場人物に投げかけられていました」
どういう世界なんだ、それは。
そんなツッコミは置いておこう。
「アルデーヌは昔、異端児と呼ばれ、恐れられていた。十歳に開花するはずの魔力が、彼は四歳で開花してしまったのだ。小さな体に膨大な魔力が湧き上がったことにより、彼の魔力は近くにいた彼の母親を殺してしまった。それからは父親にも遠巻きにされ、屋敷の外れにある塔に幽閉されてしまった」
今思うと、俺が少し講義すれば止めれたかもしれないと、少し後悔してしまう。
俺も少しだけ、異端児に対する偏見を持っていたから、庇えなかったのだ。
「そんなアルデーヌと父親を和解させたのがリディールだ。あの子は和解させただけではなく、異端児に対する偏見と差別をなくすために奮闘した。今では十歳になる前に魔力開花してしまった子供が異端児と言われず、異端児が人を殺してしまったという事例もなくなった」
「それが、アルデーヌ様が一歩引く理由と関係が?」
根本的な関係かどうかと問われたらそうではないが、おそらくはこれもあるのではないかと思っている。
「アルデーヌは自己肯定感が低い。昔は散々言われていたから尚更だ。それに、恩人であるリディールに図々しく好きだなんて言えないんじゃないか?」
「なるほど、それで……」
正直、リディールも少しアルデーヌに好意を寄せているような節があるから、とっとと自覚してほしい。
が、正直リディールの対応は宙ぶらりんだから、その節があってるのかどうかはわからない。
「最近、またリディールの周りには人が増えなんだってな?」
「学園に行き始めれば普通ですよ。アバズーレ家のご子息とその婚約者様と友達になったそうですね。それと、フォーカス様は変わらずに絡んでおいでで、シシュナ王国の第三王女と第四王女ともお会いになったそうです」
「……かなり懐いているだろう?」
そう訊くと、レナは言いづらそうにしつつも「……はい」と答えた。
リディールは人に好かれやすい節があるからな。
懐かれてしまっても仕方ないと思うが……。
「ますますアルデーヌがアピールをする機会が減っていく……」
『バカりりあ』
レナが聞いたことのない単語を言った。
「今のはどこの国の言葉だ?」
「あ、聞こえてました?」
「ああ」
「私のいた世界の日本という国の言葉です」
「ニホン……?」
聞いたことない国だな。
あ、世界が違うから当たり前か。
レナの世界はこの国とは文化や常識が違うらしい。
だからこそ、彼女の言葉や価値観が少しずつ俺達の世界に新しい視点をもたらしてくれる。
そう言えば、リディールも今の発音に似た言葉を言っていたことがあったな。
確か、久しぶりに顔を合わせて、リディールにつけていたメイドを断罪した時。
なんで言ったかは分からないが、鮮明に発音まで覚えている。
「『惨めだな。需要のない顔面に自信があると言うのは』ってどういう意味かわかるか?なんだかニホンという国の言葉と似ているような気がするんだが」
レナの顔がどんどん青ざめていく。
多分意味がわかったのだろう。
どこでそんな言葉を覚えたのかと疑問に思ったが、この世界には過去に転移してきた者達の残した本などがある。
それを頑張って解読したのではないかと理解したから、特に気にならなかった。
「ええっと……。私の世界ではその言葉は…………強烈な罵倒です」
なるほど、リディールが無邪気に口にしていたそのフレーズも、転移者のレナには衝撃だったのか。
「……要するに、リディールは知らず知らずのうちに強烈なことを言っていたと?」
俺は少し笑いをこらえる。
「はい……」
「こちらの言葉に訳してくれないか?生憎、ニホンの言葉は勉強したことがなくてな」
「い、いえ!勉強なさらなくていいです!報告は済みましたので、私は帰らせていただきます!!」
レナは猛ダッシュで部屋から出ていった。
意味、知りたかったんだけどな……。
「でも、そうか、笑顔で暴言を吐いていたのか……」
でも、面白いことに気づいた。
リディールの強さこそ、アルデーヌを惹きつける一因でもあり、俺が影として見守る意味を深くしているのだ。
もどかしいが、嫌なもどかしさではなく、どこか楽しくもある感覚。
俺は少しだけ笑ってから、窓の外を見た。
「明日は進展あるといいな」
俺はペンを持ち、公務を再開した。




