冬を告げる木枯らし
其の者は、冷たい体に太陽と月の色をした木の葉を纏い、祠の前に居た。其の者は塵一つない、綺麗な祠を見て嬉しそうにしている。
そんな其の者のもとに、幼子が現れた。
「あれ? だれかいるの?」
幼子は其の者をじーっと見つめる。やがて、其の者の正体に気がつくと、ニコニコとした笑顔で話しかけてきた。
「あ、かぜのおにいさんだ! おにいさん、きょねんみたいにこのどんぐりあげるから、またきれいなはっぱちょーだい」
幼子が強請ると其の者は何も言わず、夕焼けを吸ったような紅葉を渡す。紅葉は、まるで宝石のように美しく、されど太陽のように力強く、赤く光っている。
その紅の美しさに幼子は目を輝かせ、満面の笑みでお礼を言った。
「わぁ、すっごくきれい! きっとおかあちゃんもよろこんでくれる! ありがと、おにいさん!」
祠に背を向けて家へ帰って行く幼子を、其の者は暖かな眼差しで見送る。
そうしていると、其の者の元に髭を蓄えた老人驚いた様子で走って来た。その老人は一礼をして喋り始める。
「木枯らし様、もういらっしゃったのですか! 毎年毎年村の子にも良くして頂きありがとうございます。それではどうか今日は、我らの感謝の気持ちをお受け取り下さいませ」
其の者は冬を告げる風、木枯らしであった。木枯らしはその老人を一瞥したのち、風で静かに老人の頬を撫でた。老人は木枯らしに深く礼をして、祭りの準備をしに行った。
ここ、南東の村は木枯らしが最後に冬を告げに訪れる場所だ。だからこそ終着点であるこの村では毎年、木枯らしに感謝するための祭りが開かれているのだ。
村が赤く染まったころ、力強い太鼓の音と儚げな笛の音と共に舞いが始まった。村の誰もが木枯らしへの感謝を伝える為に舞っている。
その光景を、村はずれの祠から木枯らしが見物する。木枯らしは満足げに村人達を見つめていた。
やがて半刻が経った頃、舞いは終わり、辺りには余興が残るのみとなった。
祠に居る木枯らしに、村の人々が米やら餅やらを捧げる。「ありがとう」という言葉が添えられた供物を、木枯らしは村人の頭を撫でながら受け取った。
最後の村人が供物を捧げたのと同時に、木枯らしは一礼をして宙に浮かぶ。
そして、木枯らしは夕暮れと共に、感謝の気持ちを乗せたすこし暖かな風を吹かせて、南東の村を去っていった。




