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プロローグ
言いたかった、言えなかった。けどーー
あの夜、確かに好きだった。
本当はあのとき、 言えばよかったのかもしれない。
たった一言で、 なにかが変わっていたかもしれない。 ……でも、あの瞬間の私には言えなかった。
名前を呼ぶには近すぎて、 想いを告げるには、遠すぎた。
指先がふれただけで、心が痛かった。 沈黙が続くだけで、涙が出そうだった。
それでも私は、 “あの夜の空”を、まだ覚えてる。
星が音符のように瞬いて、 あなたの瞳がそのどこよりも眩しくて、 あの夜は、きっと、ひとつの旋律だった。
もう届かなくてもいい。 けれど、どうか―― あの夜の私が、あなたに触れようとしていたことを 忘れないでいてくれたら、それでいい。