生と死
あるところに、とても腕の立つ医者がいた。彼は、今までに数千回の手術を成功させた、世界中から認められた名医だった。
そんな彼が、この世でもっとも嫌いな職業があった。それは、安楽死専門の殺し屋。殺し屋と言っても、そいつらは、依頼者を安楽死させる。たいがいの依頼者は、人生に絶望した人々で、殺してほしい、死にたいと思っている人たちだった。最近、こういうタイプの殺し屋が増えてきていると言う。
人の命を救うことが仕事の彼にとっては、とても許すことのできない存在だった。
そんな彼のところに、ある日、1人の少女がやってきた。その少女は、10さいで、大きな瞳が特徴的なかわいらしい女の子だった。
しかし、そんな彼女は、重い病気にかかっていた。しかも、その病気は、治療法がまだ無かった。しかし、そろそろその少女は、病気も末期で、余命も少なかった。
彼は、その少女を助けることを決意した、さまざまな研究で、治療法を必死にさがした。しかし、しばらくまったくと言っていいほど結果は出ず、彼も半分あきらめかかっていた。
そんな時、彼は少女から、とんでも無いことを聞いた。
「この前、知らない男の人が来て、言ったの。『お譲ちゃんを楽にしてあげる。今の生活は、もう終わりだ。そっちのほうがいいだろう?』って。」
少女は、その男が何を言ったのか分からなかったろうが、彼はその男の言うことがどういう意味なのかはすぐに分かった。
それが、あの、安楽死専門の殺し屋だ。
そのことを知ったとたん、彼は急にあせりだした。いつ、その殺し屋がやってくるかわからない。そして、まだ中途半端に出来上がっている治療法を、少女に試すことを決行すると言い出した。
少女の両親、医療関係者、その他は、彼を止めた。しかし、彼は、ついに少女の手術をしてしまった。なぜか、彼には自信があった。それは、自分が名医であると言うおごりからだったのかもしれない。
そして、手術がはじまり、ついに何事も無く手術は終了、したかと思われた。しかし、手術終了の直後、少女は突然血を吐き、体中に発疹が出てきて、なすすべもなく死んでしまった。
それから、彼の名医と言う称号は剥奪され、社会からの非難は想像を絶した。
そして、ある夜、彼が自宅のベットの中でうなされていると、インターホンが鳴った。彼は起き上がり、ドアまで歩いていった。
「誰だ。今、私は気分が悪いんだ」
低い男の声が返ってきた。
「兄さん、とても苦しいようですね。いい話があります。楽になれますよ。どうです……」
彼はドアを開け、目の前の男に静かにうなづいた。