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一時間で2000字を目途に書く  作者: うっかりメイ
9/10

2025/07/29_非活性の地

幽明界メイは「森」「タライ」「先例のない関係」を使って創作するんだ!ジャンルは「大衆小説」だよ!頑張ってね!

 暗い部屋の中、足を踏み出す。誰もいない空間に足の踏み場はない。外から聞こえる怒号と喧騒はこの分厚いコンクリートに阻まれてくぐもって聞こえる。

 ふと、足に何かが引っかかった。呼吸が荒くなる。そちらのほうを振り向いてしまう。外から断続的に差し込む光に照らされたそれはもはや原型を留めていない。鉄、コンクリート、骨の欠片が突き刺さり、もはや動いているのすら奇跡だ。

 押し込んでいた感情があふれる。抑え込めばその反動が大きくなるということを初めて知った。人さし指に力が入り、景色が変わる。制御できない力に押され、足がもつれる。マズルフラッシュの反動で押される方向は真後ろ。視界の真反対に倒れ込む。自分でも驚くほどの声が出てしまった。


「「うわ……うわああああああああ!!」」

 自分の叫びで飛び起きた。慌てて辺りを見渡す。周囲は明るく、見慣れない光景に見知らぬ少年……。思わず後退る。

「誰だ、お前?」

「お前こそ誰だよ」

 少年の不信感につい口調が強くなる。彼は鼻を鳴らし、身構えていた姿勢を真っ直ぐにする。

「オレは……オレ様はバロウズだ。ミガラシの国でリーダーを務めてる」

 彼の名前以外、さっぱりわからない。首を傾げていると、彼が近づいてくる。慌てて手元にあるはずの銃を抱き寄せるが、実際のところ何も握っていない。

「おい、オレ様が名乗ったんだからお前もそうするべきだろ?」

 だが、少なくとも敵意はなさそうだ。殺意があるとすれば名乗るほど悠長なことはしないはずだし、武器を手に襲いかかってくるはずだ。

「祭王国……ジャック」

「さい……? 聞いたことのないところだな」

 訝しげにこちらを見つめるバロウズ。

「僕もミガラシなんて聞いたことない」

「なんだとお……ま、見たところオレ様より小さいから無理もないか」

 なぜか一方的に下に見られてしまった。

「どこから来たかわからねえが、長老に聞けば何かわかるかもしれねえ。オレ様についてきな」

「う、うん」

 彼と分かれても行くあてがないことは事実だ。ついて行くことにした。


「これやるよ、ジェイ」

 彼の後ろについていると、長い棒を渡された。先が尖っている。

「これは?」

「ペンドローネの実をこれで取るのさ」

 彼の発したものがなんなのかわからないが、どうやら手伝わされるらしい。そもそも屈んで取ればいいのでは、と思ったが彼は口角を上げる。

「しゃがんで取ればいいとか思っただろ?」

「うっ」

「甘いなぁ。死ぬぜ、それじゃ。目線は常に上じゃなきゃ。いつ針葉が落ちてくるか分からないんだからよ」

 生憎この世界の常識を全く知らない。だからよく知っている目の前の少年についていったほうがよさそうだ。

「あと、これもいるな。ちゃんと紐で固定しとけよ」

 差し出されたのは金属製で大きなつばが付いている。さしづめ金ダライといったところか。少々重たいが、彼に倣って頭に被る。

 どれほど歩いたのか、先ほどまで山の稜線にかかっていた太陽が頭上で輝いている。不意に辺りが暗くなった。空を見上げるとありえない光景が広がっていた。

「な、なにあれ」

「見るのは初めてか?」

 どう見ても空から木が生えている。それも広葉樹の類ではなく、槍の穂先のように鋭い針葉樹だ。

「あれがペンドローネだ」

 不思議な感覚だ。鍾乳洞のような景色なのに光のせいで妙にクリアに見える。よく見ると根っこが細部まで見えない。地面であるかのように虚空に埋まっている。その隙間を太陽光が通り抜けているのだ。

「きれい……」

「は? あまり上を見るな。死ぬぞ」

 バロウズが不機嫌そうに返す。空の美しさを名残惜しそうに見ていると、彼が叫ぶ。

「バカ! こっち見ろ!」

 あまりの剣幕に慌てて彼の方を見る。直後、水が地面を打つ音が聞こえた。正確には水ではなく重たい金属の棒が土に突き刺さる音だ。当然それは頭にも振りかかり、金ダライを激しく叩く。バロウズを見ると一生懸命何かを叫んでいる。甲高い金属音が頭の中に響き、思わず聞き返す。だが、それがいけなかった。急に動いたからか、金属の帽子が不安定に傾く。その微妙な隙間から針が滑り込んでくる。一本どころか数十本も。腰や足の筋肉が裂け、血と共に貫通した葉が地面に突き刺さる。痛覚が脳を焼き、地面に膝をつく。しかし、追撃が止むことはなく背中や腕を破壊する。質量と高度を伴った硬質の葉は人体という脆い生体組織では受け止めきれず、身体を完膚なきまでに破壊しつくす。

 あの時見た無数の破片が突き刺さった顔が刹那によみがえる。

 あれは自分が投げ込んだ手榴弾によって壊滅した敵の塹壕内部にある詰所だった。命令されてやったとはいえ、自分が引き起こした過ちだ。その直後に味方の支援砲撃に巻き込まれて身体を吹き飛ばされたのをうっすらと覚えている。

 二度死ぬ。その事実を比較的すんなりと受け入れられたのはなぜだろうか。

 意識は唐突に途切れた。

全く大衆小説ではない気がする

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