2024/12/03_砂漠の大蛇と釣り人
「三題噺のお題メーカー」より、
うっかりメイは「土」「糸」「きわどい幼女」を使って創作するんだ!ジャンルは「大衆小説」だよ!頑張ってね!
[あらすじ]
旅人である主人公が干上がりかけた泉にたどり着くと、ひとりの少女に出会う。彼女は不安定な崖の上で糸を垂らして釣りのまねごとをしている。旅人の忠告を聞かずにいた彼女は大蛇に飲み込まれそうになったが、旅人がその正体を看破。大蛇は泉の精霊であり、僅かな水を求めて土で大蛇を象り、道行く人を襲おうとしていた。そこで旅人は自分の持っていた瓶に彼女を入れ、水の豊富な場所にもっていき、旅をつづけた。
夏のある日。午前中の涼しいと言われる時間帯でも外を出歩けば一時間と待たずに全身汗に包まれる、そんな盛夏の日だった。旅人は今日も行く当てもなく彷徨っていた。彼は能天気な男で、たどり着いた街で芸を披露するか、旅の中で目にした不思議な物事を人々に話しては僅かな路銀を稼いでは次の街を目指す、という暮らしをしていた。しかし、この日はそんな彼をもってしてもたまらない暑さだった。
どこかで日陰を探さなければ。
彼は性に合わず、焦りを覚えていた。昨日まで歩いていたのは短い草の生えた平野であり、疎らに生える木に登れば幾分か涼しさを感じた。しかし、今日はどういうことか岩石に覆われた全くの砂漠に出てしまい、木陰はおろか、大きな岩さえも見当たらない。そのため、照り付ける太陽の光を遮るものはどこにもない状況なのだ。どうしたものか。鍔の広い、光を遮る帽子を少し上げて視界を広げる。そんな途方に暮れかかっていた彼の眼に、何かが飛び込んできた。ずっと遠くに風にたなびく物が見える。それは光の加減で分かりにくいが、植物が群生しているように見える。蜃気楼ではないかと目をこするが、どうやら違うみたいだ。彼は逸る気持ちを抑えてその方向へ歩みを進めた。
近づくにつれ、それが夢幻の類の物ではないことが明らかになった。だが、それと同時に彼に落胆の気持ちをもたらす。そこはごく最近かわからないが、どの植物も枯れかけであり、全体的に緑ではなく茶色に染まってしまっていたのだ。草をかき分けた先にある泉にはもはやほとんど水がなく、茶色に濁った水たまりとしか言いようのない悲惨な状況になっている。そんな中、被っていた帽子が風で飛ばされたのか、勝手に脱げてしまった。
「うわ、なんだ?」
どこへ飛ばされたのかぐるりと見渡すが、見つからない。上を見上げると、どういうわけか宙に浮いている。鳥か? と思いながらも彼は足元から石を拾い上げて当ててみる。しかし、僅かに揺れただけで落ちてはこない。すると、頭上から楽し気な笑い声が聞こえた。その方向を見ると、崖の上にひとりの少女が立っていた。年は10にも届かなさそうな幼子である。片手には釣り竿らしきものを持っており、どうやら釣りをする要領で帽子をひっかけたらしい。
「おじたん返してほしい? ねえねえ、返してほしいの?」
彼女は帽子を被って再度笑う。旅人は内心ため息をつきつつも、彼女に尋ねる。
「やあ、この辺に村がないか知らないかな?」
「村? うーん、しらない」
彼女は帽子の鍔をいじりながら答える。本当に知らないのか、それとも構ってほしくてわざと知らないふりをしているのか。
「ふーむ、それならば交換条件だ。この髪飾りとその帽子、どちらがいい?」
行李から前に寄った村でもらった飾りのついた髪留めを少女に見せる。その効果はてきめんだったようで、彼女は目を輝かせて釣り糸を垂らして帽子を下ろしてくれた。彼は代わりに髪留めを釣り糸に括りつけてやる。
「さて、そこから降りてきてはどうかな。みるからに崩れそうだけど」
彼女が動くたびにパラパラと土塊がおちる。出っ張った部分の寿命はそう長くなさそうに見える。
「やだ」
「どうしてだい?」
「こうしないと、お迎えが来ないから」
彼女は髪の毛をまとめようとするが、なかなかうまくいかない。
「誰かと待ち合わせしてたのか」
「うん。パパがちょっと狩りに行ってくるから待ってて、って」
「どのくらい前から?」
「うーん、お日様が顔を出したくらいから」
「そうか……」
彼女は自分が捨てられたことをわかっていないようだ。おそらくこの子の父もそれをわかって彼女を置いて行ったのだろう。この周辺の環境の過酷さがよくわかる。
「しばらくしたらお日様がてっぺんに来て暑くなるからこっちにおいで」
「やだ。ここにいるもん」
彼女は頑としてそこを動かない。仕方ない。旅人は崖を利用して布を斜めに張り、即席のテントを作ることにした。日陰を遮れば風が通り、幾分か涼しい。近くの地面が湿っていることも幸いしているのだろう。しばらくすれば我慢できずに降りてくるだろう。
さて、暑さをしのぐ準備ができた丁度その時。外で甲高い悲鳴が聞こえた。あの少女の声だ。また何かやっているのだろうか。外に出ると、今度は彼女が空高く浮いている。
なぜかと空を見上げると、彼女の服を大きな蛇が咥えているではないか。その大蛇は彼女を振り回し、そのたびに悲鳴が漏れる。
「やめろ、やめるんだ!」
石を投げつけ、大蛇の気を引く。
『だれだ』
睨まれ、身がすくむ感覚を覚える。しかし、彼は負けじと声を張る。
「俺は放浪を愛する者だ。その子を離せ!」
『フン。一匹狼を気取る根無し草か。取るに足らん存在よ』
「俺のことはどうだっていい。その子をどうするつもりだ!」
『当然、贄として犠牲になってもらう。近頃は誰も通りかからず、腹を空かせておったからな』
「……違うだろ。お前はそんなことができる奴じゃない」
『何を馬鹿なことを』
旅人は近くの街で聞いた話を思い出した。悪戯好きの存在の話を。
「ここに人を襲う大蛇なんていない。いるのは道行く人を騙して池に落としてずぶ濡れにする精霊しかいない」
『知らんな』
「いいや。その証拠にお前は大蛇を装っているが、動きがぎこちない。それにうまく隠しているつもりかもしれないが、草が所々に生えているぞ」
『……き、気のせいであろう』
だが、大蛇は気になってしまったらしく、首を動かす。その拍子に曲がった部分が少女の体重に耐え切れなくなったのか、乾いた紙粘土のようにバラバラと砕けてしまう。
『しまった!』
その声を最後に大蛇が土から砂へと次第にまとまりを失っていってしまう。旅人は気を失ってしまった少女をテントに寝かせ、泉に向かう。そこには想像通り、小さな水を纏った泥がもぞもぞと動いており、近づいてくる彼に明らかな怯えを示していた。
『く、来るなぁ』
彼はそんな正体不明の存在の態度に苦笑いしつつも近づく。
『嫌だ! 来るな!』
そんなとき、彼は大きめの瓶を目の前に置いた。
『何、これ?』
「精霊とはいえ、ここからが干上がってしまうと存在が消える。違いますか?」
何も言わない相手に彼は続きを告げる。
「これで近くの水場まで運びます」
『そ、そんな。この場所を捨てて他所に行くなど』
「いいえ、一時的に避難するだけですよ。雨が降った時にまた連れ帰って差し上げますから」
『しかしそれでは精霊としての威厳が』
「人に悪戯してばかりのやつが威厳とは……まあ、そこまで言うなら見捨てても一向に構いませんけど」
『ま、待ってくれ』
踵を返す旅人を精霊が慌てたように引き留める。
『やはり、私を連れて行ってくれ』
こうして精霊は瓶に入れられ、運ばれた近くの村の井戸に一時的に住み着くことができた。その間、雨と養分を含んだ土に恵まれたその村は例年より豊作となり、精霊を称える祭りがおこなわれるようになったことは後々の話。
村を後にする二人の影。ひとりは旅人の青年で、もう一人は年端も行かぬ少女だ。
「さてどうしたものか」
村に預けられる人がいないか、村長などにもしかけてみたものの、やはり厳しいようだった。仕方なく、彼は彼女をつれて旅に出る。
「えとね、あたしね、海見に行きたいの」
「何? 海だと? どういったものか……ってそうじゃなくて、お前を預けられる所を探すからな。海は……そのついでに見れたら行くからな」
彼は少女に振り回されつつあるのに気づいていないようだ。彼らの旅はまだまだ続く。
やり始めてからストーリー考えて書いて、推敲して投稿まで2時間半かかった……
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