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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
9/35

おすわり

ドローンが示した目標地点は現在地からかなり北の方にある。

問題はそこまでどうやって移動するかだが。

幸いな事に、それは問題にならない。


何故なら積荷にあるホバーバイクを使えば良い。


ニンジャー。

遥か昔から続く、ソル星系老舗中の老舗。カワサーキヘヴィインダストリ社製の二人乗りのホバーバイクだ。

伝統のライムグリーン色を纏ったその機体は、水さえ補給し続ければ何処までも飛べる。

最高高度は3mちょっとまでしか浮上できないが、別に荒れた海の上を征く訳でもない。大陸の上ならこれさえあれば大丈夫だ。

納機待ちしてた人スマンな、有効活用させてもらう。


問題があるとすれば通信の方。

ドローンの観測によると、現地の墜落船からは絶えず地表付近に通信妨害電波のようなものが発信されているらしい。

ジャミング目的のECMだったとしても、遠く離れたサンパチとの通信が不安定になるのは問題だ。

ではどうするかというと。


「とりあえずこの調理ロボをバラせば良いんだな?」


<<はい。使用されているクアンタムコンピュータのデータ領域を書き換えて、私をコピーします>>


「……うーん、なんか不安だ。なんかの拍子にお前がぶっ壊れたりしないだろうな」


<<仕様書通りなら問題ありません>>


積荷にあった全自動調理ロボ。

本来はコロニー建設作業員の宿泊所なんかで、コックの代わりをする代物。

でもあいにく、俺の船には似たような設備が最初からあるし。

そもそも外部電源に接続しないと動かないので、村で使うのも難しい。

つまり今まではただのオブジェにしかならない、無用の長物だったわけだが。サンパチの提案で使い道が出来た。


調理ロボに搭載されているコンピュータは、あらゆるステラノームの好みに合わせて100万種類以上の豊富な調理データが保管されている。

それでいて味がどうのとか各個人の好みに合わせるため、プロのシェフ並な味覚センサーも要求される。

これさえあればどんな種族でも大満足。とにかく、すっげー高性能なマシンなのだ。


そんな一般人がおいそれと買えない程度の額がする調理ロボ。

その中のメインブレイン、プロのシェフには頭を下げて退職して頂いて。

空いた領域にサンパチのコピーを噛ませる、という寸法だ。


「でもよぉ、こんなちっこいのにデータ全部入りきるのか?表記されてる容量だって1024クエタバイトしかないぞ」


<<ミッション関連データ以外は除外しますので、余裕はあります。ご安心ください>>


「まぁお前が出来るってなら…ほら、取り出せたぞ」


どうにか俺はロボのメンテパネルから手のひらサイズのコンピュータが入った箱を取り出す。

こういう細かい作業は苦手だが、壊さなくて良かったぜ。なんせロボ一台しかないし。


<<では早速スタンドアロン環境を構築します。本体が発熱しますので、涼しいところに安置してください>>


「んじゃコクピットのエアコン前にでも置いとくか…」



サンパチによる作業が終わるのを待ってる間、俺はニンジャ―に荷物を乗せていく。

携帯食料30日分、真水生成機とかテントが含まれる救難バックパック。それに医療キット。

それらをネットで固定して、宇宙服のホルスターにショックガン。

それと墜落船の中に入れない場合を想定してアルマゲドリルをバラして無理やり積み込む。

アルマゲドリルは本来岩盤とかの穴掘り用のレーザードリルだが、コイツなら船の装甲くらい…時間をかければ掘れるだろう。

さすがにシールドが生きてるってことはないだろうし…?大丈夫。きっと。たぶん。


全部試しに積み込んでみたら、ニンジャ―のシートは荷物で山積みだ。これちゃんと浮くのか…?

……一応試運転してちゃんと俺でも操縦できるか確認したほうが良いかも知れない。

運転自体はサンパチに任せるが、いざって時俺が運転する場合もあるし…いややっぱ無理かも。駄目な時はクソ重いドリル捨てよ。


「ふぅ、こんなもんか。にしても、そっちはずいぶんかかるな…あとどれくらいで終わりそうだ?」


<<まもなく……いえ、もうしばらくお待ち下さい>>


「…? なんか技術的な問題でも発生したか?」


<<……申し訳ありません、少々手間取っています。完了次第ご連絡申し上げます>>


珍しい事もあるものだ。コピー作業なんて最新AIのサンパチがそんな苦戦するようなタスクじゃないように思えるが。

…まぁ、いいか。俺にはこれ以上何も出来んし。暇つぶしに村にでもいってぶらぶらしてよう…。


・ ・ ・


行く宛もなく、村の中を練り歩く。

時々立ち止まっては村人の様子を観察する。


村人の俺に対する反応は様々だ。

警戒しているのか俺を見ると毛が逆だって後退りする子もいる。あれがヤんのかステップという奴か?ボク、ワルイウチュウジンジャナイヨ。

だが皆が皆そうじゃない。フレンドリーな対応をしてくる子だって当然いる。


「みゃぁ~ぅ」


「あ、ども。今日は天気良いね」


「んなぁぅ」


俺が軽く手を上げて挨拶すると。名前も知らない彼女は返礼と言わんばかりに俺の真横をスルッとすり抜けて、尻尾を軽く当ててくる。

これが彼女流の挨拶なのだろうか。


「…今のはミャーオ族か。何処となく仕草も猫っぽいよな…」


「ケン!」


感慨に耽っていると、後ろから声をかけられた。

振り向くとキキルパが俺のそばへ駆けてくる。


「おぉ、キキルパ。今日は狩りにいかないのか?」


「まだいい。いっぱい肉ある」


カルビーはデカすぎてさすがの原住民たちでも一日じゃ食いきれんか…


「なぁ遊べ 遊ぶぞ!」


「わ、ちょっ!いきなりだなぁ、おい」


キキルパは暇そうな俺を見つけて嬉しいのか、遠慮なしにじゃれついてきた。

思いっきりハグというか、抱きかかってきて俺に密着してくる。そしてすぐに離れてまた突撃を繰り返す…。

キキルパの体はミユシスより大きいが、見た目より精神は子供っぽい…というか無邪気な感じがするからあんまり抵抗感ないんだよな。

そういや、キキルパっていくつだっけ…?


「なぁ、キキルパは何歳なんだ?」


「…わすれた」


「はぁ?自分の歳だぞ」


「数えるのめんどくさいー」


「めんどくさいってお前…」


キキルパはそんな事知らねぇなと言わんばかりに、尻尾をブンブン振りながらまた俺の周りをぐるぐる回ったり腕を引っ張ったりしてまた遊びだす。

うーん…やっぱバウ族は狼っつうより犬……


「ケン、遊んでる?」


「おう、遊んで…いや遊ばれてる所だ」


キキルパに振り回されていると、今度はマルチルが寄ってきた。

マルチルはキキルパと姉妹なんだそうで。普段もよく二人で話したりしているのを見かける。

最近はミユシスの家に通う俺にも慣れたのか、以前ほどビクビクせずに話しかけてくれるようになった。

そして今日も相変わらず…


「…マルチルの尻尾はくるっとしてるな」


ふわっ、ふわっと。キキルパほど豪快には振ってないがマルチルの特徴的な尻尾が揺れた。


「……おかしい?」


「え?いやそんな事無い。可愛いぞ」


「そ、そう…?」


マルチルは尻尾を褒められて嬉しそうだ。

その喜び具合は尻尾を振る速度に比例する。すげーブンブン振ってる。


「キキルパのは相変わらず元気いっぱいだな」


「ふふん、キキルパの格好良いだろ」


どやっ!とキキルパは得意げだ。あいも変わらず尻尾はブンブン揺れる。

マルチルのくるくる尻尾と比較して、キキルパの尻尾はストレートでちょっとぼさぼさだ。

お互いの尻尾を見比べていると、キキルパが急にマルチルの尻尾をむぎゅっと掴んだ。


「きゃぅん!?」


同時にびくーっ!とマルチルの体が硬直する。


「キキルパの尻尾のほうが強い!」


キキルパがマルチルの尻尾を雑にひっぱり、撫で回す。

丸まっていた尻尾を無理やりまっすぐ引き伸ばすような勢いで。


「こらっ、やめ…きゃん!だめ、だめぇっ!……ひゃぁんっ!」


尻尾を掴まれたマルチルは明らかに頬を染めて…体をビクビク痙攣させたり、くねらせている。おっぱいも揺れる。

なんつうか、こう……エロいな?


「ケン見ろ マルチル尻尾よわい」


「そ、そうみたいだな?」


「もうー!キキルパ!!」


ぐるるっ!とマルチルも流石に怒る。

さすがに好き放題されてちょっと不憫だ。

…どぉれ、ここは一つ。俺が代わりにお仕置きしてやろう。


俺はキキルパの尻尾の付け根辺りを軽く掴んで撫でてやる。


「!?」


びくっ!とキキルパの体も硬直した。


「人が嫌がる事しちゃ駄目だよなぁ?ほーれほれ」


さわさわ。しゅるる。


キキルパの尻尾をワシャワシャとしごく。

どうせ触るならグローブ脱いで素手で触ってみたいなー、なんか尻尾って肌触りよさそうじゃない?


「!? !!??」


「ほーれほれ…ふっふっふっ、くすぐったいんだろー?」


「…あ、ぅ?うぅぅ…ひぁぅっ!?///」


…あれ?なんか思った反応と違う。


「はわぁ!ケン、それはちょっとぉ…」


「ん?何だって?」


わしゃわしゃ、ごしごし


「……ッ!/// う、ぁ…! ~~~ッッ…!」


キキルパは俺の体にもたれ掛かり、びくっびくっ…と小さく震えて。

少し荒く息を乱した後。俺の腕に噛みついた。


がぶっ!!


「いっでええええ!?」


「ぐぅるるる!!!/// ぎゃう!!ぎゃうがう!!」


「だっ、ばっ、ごめんなしぁ!!もげる、腕もげちゃう!!マジすんませんっしたぁ!?」


…あ、あっぶねぇ!腕ちぎれるかと思った~!!

そうだった。彼女達は身体能力が半端ないんだった。

さすがに宇宙服には傷なんてつかないが、あまりの力に宇宙服がデブリと誤認してエアバッグまで作動してしまった。

…いやよく見ると噛み跡付いてるわ。どんだけ牙鋭いんだよ。こえー。


「ぐるるる~~~っ!///」


「悪かったって…。そんなにくすぐったかったのか?」


キキルパはふいっと顔をそむけて、口をきいてくれなくなった。やっべ、本気で怒ってるかも。

俺が困っていると、マルチルが俺にこっそり耳打ちしてくれた。


「ケンだめだよぉ。女の子の尻尾はね、すごく…敏感なの。あんなふうに触ったら…その…」


「……マジ?ダメなの?」


「ああいうのは番じゃない女の子にしたら…ダメ、なんだよ?」


つがいってなんだ……あ、もしかして夫婦?

そういう関係じゃないとやっちゃダメで、今の二人の反応が表す意味は……

あ、やっべ


「あぁー…キキルパごめんな!?許してくれ、知らなかったんだって!!」


「むり!!責任とれ!」


「責任っていわれてもさぁ~」


「……番になるなら許す」


やっぱりぃ!不味いぞ、考えろケン。どうにか落ち着かせて


「いーや待て待て、そういうのは簡単に決めるもんじゃないぞ~?もっと色々話し合ってからだな?」


「待たない!!」


がう!とキキルパに吠えられ、俺は思わず後ろに後ずさる。もう噛まれるのはゴメンだ。

だが1歩下がった先にはマルチルがいて、俺達は思わずぶつかってしまった。


「あ、悪いマルチル……マルチル?」


「……くんくん…」


「…マルチルさん?」


「ん…ケンの匂いってやっぱり…すんすん…」


マルチルの様子がおかしい。

慣れてきたとはいえ、俺とマルチルはこんなに密着した事は無い。

だから、こんな風に。至近距離で匂いを嗅がれる事なんて…


「……ケンの匂い、好き」

◯ニンジャー


二人乗り可能なホバーバイク。

全長4m 全幅1.5m 最高速度80m/s 最大積載可能量500kg


非常に歴史の長い老舗、カワァサーキヘヴィインダストリ製の人類向けレジャーコミューター。惑星上の地表をリフトファンにより高速ホバー移動出来る。

地表、水上問わず最大3mの高度まで浮上可能。水素燃料で駆動し、水さえ補給出来れば航続距離は無限。

超小型核融合電池で発電した電力を使い、2基のメインファンと4基の姿勢制御用スラスターでフライトする。


ファン駆動音はかなり静音に拘って作られており、都市環境下で使用しても大きな騒音は出さない気配りがされている。

しかし過去のユーザーアンケートで静か過ぎて逆に不気味、音もなく飛び出してきて危険…との声があった為、現在は敢えてスポーティなサウンドを程よく出すように調整された。

その往年のモーターサイクルのような飛行音はすぐに顧客を魅了し、他社もこぞって同じようなシステムを採用した。外装カラーはライムグリーンが基本だがユーザー設定で自由に変更も出来る。


見た目的には現代でいう三人乗りのジェットスキーをちょっと長くしたような感じ。現実のカワサキだとJS ULTRA 310LXみたいなの。

リフトファンは車体(船体?)の下部、左右に姿勢制御スラスターが張り出してる感じ。スラスターからは圧縮空気がめっちゃ出る。

結構な速度で飛ぶのでウィンドスクリーンも搭載。着陸時はリフトファンの保護のためにギアが迫り出す。



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