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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
8/35

プレイエリアの外です


「……いや待て。お前ら、シャワーはどうしてんだ?川で水浴びか?」


「しゃわー…?」


「なんて言えば良いんだ……おいサンパチ」


<<類義語検索。湯浴み、行水>>


「あぁそれ。湯浴みだよ」


「…身を清める、か?それは村の外なんじゃ。里の名物じゃぞ」


「へー名物?良いじゃん行こうぜ」


「うむ、では行くとするか!マルチル、準備しておくれ」


「うん、族長」


興味があるので、ミユシスに現地まで案内してもらう。

マルチルは籠を背負ってついてくる。着替えでも入ってんのかな。

道中、マルチルについて聞いてみると。彼女はミユシスの護衛役…というよりお世話担当なのだという。

人手が足りない時は狩りにもいくが、あまりそういうのは得意じゃないんだって。

たしかに俺と最初に会った時も引け腰だったものな…きっと優しい性格なのだろう。納得。


相変わらず鬱蒼とした茂みの中、件の湯浴み場に至る道は踏み固められていた。

それだけ通行量が多く、頻繁に村人も通うのだろう。

暫く歩くと、湯気が立ち上る池。温泉があった。

フェンスで囲う、というような事はされていない。

なんというか、秘湯感が漂う。自然そのまま。


「おぉ、すっげぇ!天然の温泉だ!」


「ほー、そなたもオンセンと呼ぶのじゃな。知っておったのか」


「知ってるも何も……ん?」


ミユシスは明確に。コミュニケータ越しでなくとも"温泉"と発音した。

偶然の一致にしては妙にしっくり来る。


「わしも昨日はめんど…いや、忙しくて入りにこれなんだからな!丁度良いし入っていくのじゃ~」


「あ、族長待って…脱ぎ散らかさないでぇ~!」


ミユシスはシュルッと音を立てて、白い着物を何の躊躇もなく。俺の眼の前でポイポイ脱ぎ始めた。

いや別にぃ?幼女の裸なんざ見て喜ぶほど、俺はガキのつもりはないよ?


でも見ちゃうんだなぁ!!これがぁ!!


あー!!いけません族長様!男の前で、そんな!あー!族長様!あー!

うわぁー!肌白っ!うっひょー!

あっ、あっ、そんな所も隠さず…<<プレイエリアの外です>>

…おい邪魔するな!少し横から回り込めば<<プレイエリアの外です>>


「…なんなんだその変なマスク機能は!?なんで規制入るんだよ!」


<<青少年保護モード、作動中>>


何処の誰だよそんな無駄に超技術の隠し機能搭載したのは!?どうやって表示してんのこれ。

そもそもだな?男の前でそういう風に肌を見せるのは良くないぞってミユシスに教えてやるべきか?

…いや、それは俺達異星人のエゴかもな。


マルチルはミユシスが脱ぎ散らかした着物をせっせと拾っては折りたたむ。苦労人だなぁ…

それにしてもこの服…調査するにはいい機会だな。

そう思って俺はマルチルに少し貸してもらい、手に取ると。


「おいケン!ミコショーゾクは丁寧に扱うんじゃぞ!それはワシの大事なものなんじゃからな?」


「ミコ…ショーゾク?」


「それじゃよ!わしが着てた着物!」


族長様はほんとに大事なんじゃぞ!と素っ裸で怒るが…その割には雑な脱ぎっぷりでしたね。

いやそれよりも。何か引っかかるぞ。


「…おいサンパチ…なんかさっきからおかしくねぇか?」


<<下着まではギリセーフ。とコメント登録されています>>


「そこじゃねーよ!じゃなくて、巫女装束だ。データ検索しろ」


<<検索完了。巫女装束、名称と見た目がソル星系文化と一致します>>


「…だろ?俺もなんかの地球映画で聞いたことあんだよ。未開惑星にしては妙だよな…」


もしかして俺より先に、彼女達に接触したアースノイドが居るのか……?

人類語が一部伝わってるあたり、そんな気がする。

どこか村の中に他の情報が残っていないだろうか……


「おーいケン!はようお主も入らぬか」


「えっ!?ここって混浴なのぉ!?…そっかー、男居ないんだったな」


「こっちにきて背中を流すのじゃー」


「流してもよろしいんですかぁ!?」


脱衣シーンで肝心な所は見れずとも!これは、お手伝い!介助!ラッキースケベなどではなぁい!!

だったらもう何も恥ずかしくないし隠すもんもねぇよなぁ!?俺の勝ちだ、変な機能の開発者ぁ!!


俺はスポポポンと宇宙服とインナーを脱いで温泉に向かう。

一応、ネックレスタイプのコミュニケータも忘れない。サンパチ居ないと会話まだ出来ないからな。


だが、それ以外は一切いらん!前を隠すタオル?要らないね!ものすっごい隣でマルチルにガン見されてるが気にしないぜ!俺の体に恥ずかしくて隠すものなぞ存在しねぇ!

…決して!けっして女風呂を合法的に覗けるぜラッキーだとか!少女達の裸キマシタワーだとかそういう意図は無い!

混浴だからといって、彼女達の成長度合いの違いを観察しちゃうぞぉ?なんてそんなキモいおっさんみたいな事全然考えてないから!興味ないね!少女の裸、全然興味ないね!!

いやぁまいったなー!俺のそそり立つ威厳を見せつけられて少女達がキャーキャー言っちゃうんだろなー!でも混浴だしなぁー!


「……なんじゃ?それ。なんかお主の体の一部、モヤモヤしておるが…」


「…何!?」


俺は自分の身体を見下ろすと。股間に謎のブロックモザイク。


<<プレイエリアの外です>>


「これ俺にもなるのかよぉ!!」



・・・カポーン・・・



はい。大変素晴らしいお湯です。他に浸かってる娘達もチラホラいて、みんな俺のほうをチラチラ見てはくるものの…普通に温泉満喫してました。

でもですね?一方的に見られるのは不公平ではないですか?

俺はあくまで健全に、学術的な意味合いで良~く彼女たちを観察しようとしただけなんです。

でもそうすると何故か白い霧とか謎の光線が邪魔してくるんです。肝心な所はなーんにも見えません。

…ねぇ何なの?この邪魔なハイテク機能いる?全年齢版だから?もしかして課金なの??課金しないと外れないの???


……それは置いといて久々の風呂。しかも露天の天然温泉だ。非常に心地良い。

船の中にはシャワーだけでバスタブは無いからな。身も心も満喫させて頂いている。

名残惜しさなど無い。無いのだ……。


「ケンどうした?…そなた泣いておるのか?」


「泣いてなんかいねぇ…ちょっと感動と悔しさに打ちひしがれてるだけだ…」


「うむ…?大丈夫なんじゃな?」


「気にするな…男には色々あるんだ、掴めそうな夢が眼の前で脆く崩れ去ったりとかな…」


「ほーん。男って難儀じゃのぉ~」


温泉に浸かるミユシスは耳や尻尾がペタリとなって、長い髪もしっとりと濡れている。

俺にはそんな湯気を纏った彼女の姿がとてもグッと来た。お風呂中のケモミミロリ、最高ぅ。

…いや、そろそろ真面目に。もっと大事な事を聞いておかねば。


「なぁミユシス。巫女服とか…お前の先祖はそれを何処で知ったのか、わかるか?」


「むむ?いやわしも流石にそんな大昔の事は。ご先祖様からの伝統なんじゃよ、セン族の長は必ず着ねばならぬ」


「セン族?」


「ワシのような立派な尻尾を持った種族じゃな。代々、神に仕える種族なんじゃぞ」


まぁ今は濡れてぺっしょりとなっておりますが。

うーん、教会の神父みたいなのを生業にする一族なのだろうか?確かに普段からミユシスは熱心に神へ祈りを欠かさないが。


「昔はじゃな、国ごとに1つの種族がまとまって生活しておったらしいのじゃ。わし等セン族も色んな場所におったそうじゃの」


「へぇ、なるほど?だったらミユシスと同じセン族の子が他にも村に居るってことか」


「……いや。残念ながらわしはセン族最後の生き残り。姉上様もわしが100を過ぎた頃に……」


…兄弟が居たのか。


「姉上様はとても優しい人じゃった。他の村へ生き残りが居るかもしれぬと、伴も付けずに探し回って…」


ミユシスの顔に影が落ちる。聞いていて愉快な話じゃない。


「…とうとう、帰ってこなんだ。わしも何度も森に入って探したが…足跡すら見つけれずに、ふぐぅぅ…」


「…悪い。辛い事を聞いちまったな」


必死に泣くのを我慢するミユシスの肩を抱き寄せる。本当に余計な事を聞いちまった…。


「ミユシスは昔から…ずっとセン族の誇りを胸にこの村を守ってるんだな」


「ぐすっ、うむ。ここはわしの故郷であり、セン族最後の里なのじゃ。わしが居らねば皆が困る。じゃから…」


「あぁ、そうだな。ミユシスが居ないと駄目だ。…きっと姉ちゃんも草葉の影からお前を見守ってるさ」


こんな小さな体で頑張ってるんだなぁ…。

俺が何か支えになってやれればいいが。気合を入れて彼女たちの為に頑張らなければなるまい。

その為にはもっともっと情報が必要だ。俺はミユシスに寄り添いながら、もう少し話を続ける。


「…あー、もうちょっと聞いてもいいかな。つまり村に居る他の子達は別の種族なのか?」


「うむ…昔から仲が良かったバウ族の者達が今は多く住み着いておる。他にも流れてきたミャーオ族なんかもおるの」


「バウ族ってのは?キキルパ達がそうなのか?」


「そうじゃよ。耳はワシと似ておる者も居るが、尻尾が違うからすぐわかるじゃろ?」


「ほうほう…ということは、マルチル、は……」


俺は後から遅れてやってきた、ちょうどミユシスの隣で湯に浸かろうとしているマルチルの方を見る。

何気なしにマルチルの裸を見てしまった俺は固まった。


「…ケン?どうしたの?」


胸がデカい。


失礼、あまりの衝撃に雑な感想を述べてしまった。改めて言い直そう。


おっぱいが、でかい。


……馬鹿な、どういうことだ。なんだその異常な成長具合は。

マルチルはぱっと見だと身長140cmちょっとくらいだろう。まだまだ見た目年端もいかない少女だ。

にも関わらずなんだその胸はけしからん。ぽよんぽよんではないか。というか湯に浮いているではないか。

どうして気が付かなかった!こんなにも重要な事実に!!…俺としたことがこんな!こんな大事な事を


「あ、あんまり見ないでよぉ…恥ずかしいからぁ」


「…あ、いや!!なんでもない!!ご、ごほん!あー、マルチルもバウ族…で合ってるよな!」


「うん、そうだよ?」


「そもそもマルチルはキキルパの姉じゃぞ?」


「…えっ?マジで!?」


うっそだー。

だってキキルパはロリ巨乳じゃなくて、ふくらみかけちっぱいじゃん。

さすがにこれだけ胸囲の差があったら姉妹だなんてとても…おっと、いくらなんでも失礼。頭、飛ぶ。

そうだな、他にも違う所と言えば…


「…耳と尻尾の色違うのに?」


マルチルの耳と尻尾は茶色い。尻尾の毛先は少し白い。

でもキキルパの耳と尻尾は黒いのだ。毛先が白い所は同じ。


「姉妹でも色違いは割と普通じゃよ」


「へぇ~~~」


ミユシスの話をまとめると、この村には大まかにわけて3つの種族が暮らしているらしい。

彼女達は一人ひとりの容姿は当然違うが、おおざっぱに耳と尻尾で大別出来るのだという。

狐のような耳と尻尾のセン族。狼か犬のように見えるバウ族。そして何処か猫っぽいミャーオ族。

そういえばさっき温泉に浸かってた子も猫耳のようにみえたな…あ、いつの間にかもう居ない。


「最後にもう一つ聞きたいんだが…その、セン族は昔俺みたいな異星人と遭遇したって話は聞いた事ないか?」


「うーむ…そういう話は聞いたことがないのぅ」


「そう、か……」


たぶん俺の推測は間違ってない。

何者かがミユシス達の先祖に文化介入しているはずだ。

ただ、それがいつ頃の話で。どういう意図をもってやった事かまでは理解らない。


…どの道、その推測が当たっていたとしても。

この星に俺の同郷は。アースノイドはさすがにもう残っていないだろう。

つまりこの星には。

原住民の彼女達と。異星人の俺、ひとりだけだ。



***



皆が寝静まった夜。俺は船の上で星を眺めていた。

彼女達の生活様式は概ね理解した。疑問も当然いくつか生まれた。

でもこれ以上は何をどう調査を進めれば良いのか…俺には思いつかない。正直手詰まりだ。

俺に今できることは、ドローンの地表観測データ報告を待ちわびるだけ。

今まで何度も、廃墟の報告は聞いた。高度な通信施設なんかの情報はさっぱり無い。


なら俺がもうこれ以上、この星で出来ることは無いのかも知れない。

己の死を覚悟してでも彼女の願いを叶えてやるべきか。それとも調査の名目で帰還の望みを探し続けるか。


…帰還、出来るだろうか?

帰った所でまた安い給料でこき使われる仕事の日々。決して楽なものではない。

それでも俺の帰る場所は、あの星の海だと感じる。

コロニー生まれの俺に地平線の先が見えない惑星生活は…ちょっと広すぎたのかも知れない。


仮に帰れるとしてもだ。ミユシス達の事を放っておくわけにもいかない。

彼女達を一緒に連れて帰る?故郷の星を捨てさせてまで?

それとも呼び寄せた研究者に、彼女達をモルモットの如く検査させてでも生き永らえさせるのか…?

そもそも俺が彼女達を抱いても。異種族同士で子供を作れたとしても…上手く成長出来る確証なんて。ここには神頼みだけで医療設備すら無いんだぞ。

いや。子供以前に俺の存在自体が問題ではないのか?抗体の無い破滅的なウィルスを持ち込んだりしてしまった可能性は?

それが理由で彼女達が全滅なんて事になったら、俺は……ッ


不安と悪い考えが連続して俺を襲う。きっと孤独を拗らせて精神が少しまいっているのだろう。

もう親兄弟には会えない。ハイスクール時代から仲が良かった友人にも。会う度にお互い仕事内容を愚痴りあってた同僚にも。

白色矮星が迫りくるコクピットの中で、俺は死を覚悟したはずなのに。

まだ生きたい、家に帰りたい。でも帰れない、と。どんどん悪い方に考えちまう。


そんな不安が抑え込めず、半分絶望のような感情を俺が覚えた時だった。



<<報告。ドローンが新たな人工物を発見しました>>


「…今回も遺跡か?」


<<いえ、宇宙船らしきものです>


「……何だって!?詳細報告!!」


<<発見座標 35°39'41.24 N139°40'01.04"E>>


俺の目に装着していたスマートレンズ越しに、地図とピンが空中に浮き出るようにAR表示された。

そしてライブで流されるドローンが中継する上空映像から見えるのは、雪原に突き刺さったように横たわる。大きな船影。


<<地表付近に通信妨害電波があるため、高高度からのIR撮影のみとなります>>


「間違いなく、人工物…宇宙船だな。しかも船の機能はまだ生きてる可能性もある、か」


<<現地は気温-14度。降雪、北からの風8m>>


サンパチが解説している間に、どんどん映像は吹雪で白くなっていく。

そして画面は雲に覆われ、白い大地だけが映された。


「…よし、次の目標はあれだ。調査するぞ」


<<了解>>



次は墜落船の調査。新しい目標。

人間、必死に仕事をしている間は余計な事を考えなくて済む。この不安な気が紛れるならなんだってやるさ。


それに。

これは俺が子供の頃に夢見た、冒険の続きだ。

きっと何かが見つかる。俺や彼女達を救えるかも知れない、何かが。

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