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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
2章 旅人は語る
34/35

地球時代の遺物

一晩すぎて、旅の4日目。俺はベッドの上で目が冷めた。

隣ではライムがすぅすぅと寝息を立てている。あの後やっちまったのかって?

…さすがにやってません!個室なのにいつ覗かれるかかもわからない所でハッスル出来ません。俺は繊細。

窓の外を見るとまだ薄暗い…のではなく、ここが地下なのだと思い出した。

サンパチとの通信は…無理か、連絡するには一度外に出る必要があるだろう。


外界から隔絶された大都市。歴史からも隠れていた王国。

こんなに現代的…と言ったらおかしいな。文明が発達した国が隠れ怯えねばならぬほどに。

シマナガスという大災害は住民達にとってそれほどのトラウマなのだろうなと。俺は冷えた空気を吸いながら考えにふけっていると。


「んっ、んぅ~~~!おはようございます、艦長」


「おはようライム」


「んふふぅ~」


ライムはまだ寝ぼけているか、体も起こさずに俺に甘えてくる。

あっ、ダメですそんなにくっつかないでください。

そんな朝っぱらの寝起きで俺にくっつくと


「……むきゅっ!?」


…その、ね?男の子は毎朝股間がこう…血行が良くなるものでして。

ふふっ、いけない息子だ…朝からこんなバッキバキに勃たせて…


「~~~ッ!!/// 艦長のえっちぃ!!」


ボスッ!!


「ぐぉぇ!?」



・・・



「昨晩はお楽しみでしたのね…!?」


「なんの話だ…」


朝食。何もかも文明的なカルカーン王国では、村のような全員参加型調理大会は行われない。

食堂に案内され座った俺達のテーブルへ、キナコとは別のメイドさん達がお茶に食事にと次から次へと皿を運んでくる。座って待つだけとはなんと優雅な事か。


それで朝食の内容は…おぉ、オムレツだ!めっちゃ久しぶりに食えるぞテンションあがってきた!

ちなみに俺のは少なめにしてもらった。モンプッチやライムの眼の前には卵何個使うんだよって以前に、どうやってひっくり返したのか聞きたいレベルのジャンボオムレツ。

それとまた魚。昨晩もディナーで出てきたが、香ばしく焼いた赤身に塩が効いている。

この国ではあまりカルビーのような肉は食べないのだろうか?

忘れず積み上げられた、たっぷりのニャパティを添えて頂きます。

…新鮮なサラダとかも食いてぇなぁ。ケモミミはやはり肉食、ここにはパンあるだけマシ。


「…あなたそんな量で足りるんですの?朝はしっかり食べないとダメでしてよ」


「昨日も少し話したが、俺は宇宙人なんでな。君らの10分の1も食えば満足なんだよ」


「ふぅん?昨晩も見事だと思っていたけれど…あなた、お食事の作法は合格ね」


作法も何も普通にナイフとフォーク使って食ってるだけだ。そんな格式高いホテルディナーみたいなの行ったことも無い。

家族行きつけだった地元のレストランだって、半分バーみたいなもんだったしなぁ。


「…作法、か。君達こそ良くこれほどの文化を知っているな。これは全て元を正せば地球の文化だ」


カシャ、と食器の上にナイフとフォークを置いてモンプッチの食事が止まる。

俺の方をじっと見つめて…少し重そうに口を開いた。


「…あなた地球と言いました?まさかそこから来たんですの?」


「地球から?いや俺はもっと都会からだよ。地球人の末裔であることには違いないがね」


「言葉は?地球の言葉も理解りますの?」


「そりゃ当然。この翻訳機を挟んでない言葉は地球言語さ、少しコロニー訛りはあるが」


モンプッチは俺の言葉を聞いて、口に手を寄せて考える仕草をする。

そしてすぐに決断し、王様としての命令を放った。


「ケン、この後あなたに是非会ってもらいたい人物が居ますわ」


「はいよ。王の仰せのままに」



・・・



食後しばらくして。俺達は屋敷から出て、街中の別の施設へ。

工房通り、とでも言えば良いだろうか。

朝からエプロンなどを付けた職人のような格好のミャーオ族が沢山仕事をしている。

小さな金床で金属を叩く者もいれば。大きな木の板をノミのような道具で細かく削っている者もいる。

煙とかが充満しないか心配だが、煙突のようなものが都市の外壁へ伸びて排煙しているようだ。

独特の熱気を感じる。産業の熱と、人の熱。その両方が合わさって。


じっくり彼らの仕事を見てみたいが、案内されてる途中なので後ろ髪を引かれつつもスルー。

そんな職人街の端も端、小さな二階建ての建物に俺達は連れてこられた。


「コタロウ!起きてるんでしょ出てらっしゃい!!」


ドンドン、とモンプッチが扉を叩くと。

キィ…ッと小さく扉が開いて、猫耳だけがニュッと出てきた。


「ふひっ…ひめさま?なんです、かぁ」


「もじもじしてないで顔をお見せなさい。あなたにお客様ですのよ」


「きゃ、客ぅ?」


コタロウ、と呼ばれたのでてっきりオス猫が出てくるかと思いきや。

のそのそと出てきたのは普通に女の子だった。だってスカート履いてるし。

あまり手入れしてないのか毛がぴょんぴょん逆立つ毛並みで、長い前髪で顔もよく見えない。

ぶかぶかの長袖を羽織って、あまり目立つのが嫌そうな…そんな猫娘。


「お、お、お客さん……随分、変わった格好してるねぇ…?」


「…俺のことか?」


屋敷の中では宇宙服を半分脱いで楽な格好で過ごさせて貰ったが。

今は外を歩くのでちゃんとスーツは着込んでいるし、ヘルメットも背中のホルダーに掛かってる。

周りのクラシカルとはいえ普通の服着てるケモミミ達からすればそりゃ…浮いてるわな。


「と、隣の君も……見たこと無い種族だね?」


「あ、はい。私はミャーオ族ではないです」


「…良い。良いねぇ~。ふひ、小生俄然興味がそそられますぞ!んひひぃ」


「艦長、なんかこの人怖いですぅ」


ライムは俺にぴったりくっついてくる。俺もなんか苦手っす。


「何時までこんな所で立ち話させるつもりですの?さっさと中へ案内なさい!」


「ふひっ…しつれい、どうぞ中へ…さぁさぁ…」


不機嫌そうなモンプッチに叱られ、俺達はコタロウと呼ばれた彼女の家にお邪魔した。


・・・


室内は恐ろしく狭かった。腰掛ける場所も無い。ギリギリ床は見える。

それほどまでに生活空間を狭めている要因は大量の書籍。本、巻物…あと変な形のオブジェ。

ホコリが大量に舞っているのか、独特のすえた匂いがする。メット被っていいすか。


「そ、それで…?今日はどのようなご要件ですかぁ?」


「前に見せて頂いたあの古文書を。彼にお見せなさい」


「はいぃ…少々お待ちを…ふひっ」


コタロウはもそもそと本の山に登っていく。…よく崩れないな。


「なぁモンプッチ。ありゃ何だ…?」


「コタロウはちょっと頭がおかしい…コホン、いえ。我が国一番の研究者ですわ」


「研究?なんの?」


「古代の歴史ですわ。他にも発掘品とかも扱ってますわね」


「ふーん……」


しかし古文書って。ケモミミ達の技術で?村だとまだ紙すら作れないのにな。

思い返してみれば、村にはミユシスの家くらいしかそういった書物の類は無かった。

木簡だとか石版は確かあったが…というか村人が文字を書いて読むという習慣がないんだよな。

さすがにここみたいな都会だとありそうなもんだけど…住民の識字率ってどんなもんなんだろう。


「ありましたぞ?いやはや、姫様もこれをご指名とはお目が高い…」


「おべっかはいりませんの。それを彼に」


「えぇ、どうぞ御覧ください…あっ!直接さわっちゃダメですぞぉ!めくる時は小生が…ふひっ」


「う、うん…拝見しまっす…」


しかし…どう言えば良いのか。

眼の前にあるのは、どう見ても……地球の雑誌だ。

よくもまぁこんな古そうなものが残っているものだ。普通は劣化してボロボロになりそうなものだが…


「…ライム、どうだ?俺には地球時代の遺物に見えるが」


「…そうですね。地元で会おう、コンサート、ライブ…何の本なんでしょう?」


「うーむ……内容は全然頭に入ってこねぇな。地方で開かれたコンサートの話だよな?」


「…いえ、世界中を旅している本?ほら、全国でという文言が」


「む?難解だな…このチャリで来た、とは?」


「何でしょう?データ検索……あ、地球時代の乗り物みたいですね」


俺とライムはコミュニケータを使いながらあれこれ書かれた雑誌の内容を読み解いていく。

結局この雑誌は大した事の書かれていないゴシップのようだ。きっと当時の地球人達が暇つぶしに読んでいたのだろう。


「……あなた達、それが読めるんですのね?」


「まぁな。内容はいまいちピンと来ないが…」


「コタロウ!全部持っていらっしゃい!これは国の一大事でしてよ!」


「ふひっ!間違いないですな!あれもこれも…捗るぅ~~~!!」


「おい全部って……」


まさか。この本の山、全部。とかじゃないよな……?



――――7時間後



「……も、もう良いか?」


「何をおっしゃるケン氏!!まだたったこれだけですぞ!?」


コタロウはそう言うが。俺の前には山積みの本。

ファッション誌から料理本。写真集のような物から、はたまた怪しい内容の大人向けのまで…

うず高く積み上がった本の山。目の奥が痛い……


「…みきゅ。……むきゅぅ」


ライムはとうとう言語すら喋らなくなった。今も高速でページを捲りながら黙々とスキャンだけしていっている。

元AIでバイオコンピュータとかいう超高速処理できる脳みそもってるライムとは違って。

俺はただの凡人。こんなもん読み続けてれば頭もいてーし、肩もバッキバキになりました。腰もいてぇ。


「……あれ?モンプッチは?」


「ふひひ…姫様ならとっくに帰りましたぞ?あとは任せましたわ、と」


「丸投げかよ…結局何が知りたかったんだアイツは」


「それはもう!あまねく全て!古代の叡智でしょう!これほど…こっれっほっど!研究が進んだ事はありません!!」


本を読むのも疲れるが、コイツの相手をするのも疲れてくる。何なのその妙なテンション…キノコと話合いそう。

読んでる最中にこれは何あれは何と聞かれ続け。その度に俺の知識と照らし合わせて、ライムのデータとも比較しながら翻訳を続けた。

それをメモ帳にギャリギャリと「んほぉおー!昂ってきましたぞぉー!」とか言いつつコタロウがメモする。この作業を半日だぜ?

もう帰って良いかな……デスクワークっつーか変人と付き合う趣味は俺にねぇんだよ…


「そもそもだな、こんな大量の本をどっから持ってきた」


「ふっ…それは極秘ですぞ?さすがの小生もそれをケン氏に安々と教えるわけには」


「どうせ墜落船から持ってきたんだろ。よく無事で帰ってこれたな」


「な、何故船の事を!?あの古代ロマンの存在を何処で!!」


「何故も何も俺達はあの船の主と知り合いだぞ」


「にゃんとぉ!?こ、これは一大事……ひーめーさーまー!」


コタロウは転げ回るようにドアから出ていった。うん、やっと終われる…。


「……みきゅきゅ…」


「もう良いぞライム。そのへんにしておけ」


「きゃぴっ、おけまる~!マ~ジ疲れたしありえなくなーい?こんなんじゃオケオールいけないしー」


「…誰だお前!?正気に戻れ!」


「むきゅっ。失礼しました、読み込んでいたデータに少し引っ張られたようです」


「あくまでデータとして保存するんだぞ?変に応用しようとしなくていいからな?」


「かしこみ~、きゃぷっち冗談じゃーん!」


「やめてぇ!俺のライムはそんな事言わない!」


「ふふっ!面白いですね~、地球人って」

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