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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
2章 旅人は語る
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御冗談がお好きねぇ

俺達はモンプッチの案内で小さな森を抜けて、洞窟の入口までやってきた。

入口には木で出来た大きな扉で封鎖されている。ちゃんと守衛の人員も立ってる。

入口を守る大きな槍を持った守衛達は、モンプッチに気づくとビシッ!と背筋を伸ばす。なかなかに厳重だ。

モンプッチが扉の前に立つと扉が空いて、俺達は洞窟の中へ。

村で見かけた水を掛けると光る石で通路は照らされ、思っていたより足元は明るい。

進み続けると、狭いトンネルのような道が急に開けて。そこには驚く程広い空間が広がった。


「う、わぁ」


ライムも感嘆の声をあげる。無理もない、洞窟に入ったと思ったらそこは。

ドーム状の空間に築きあげられた、ケモミミの街だったのだから。


洞窟の中…巨大な地下空間だけあって、中は夜のよう。

でも所々に街灯が散りばめられていてやわらかな灯りに照らされ真っ暗ではない。

2階建ての箱のような家が道沿いにズラーッと並ぶ。脇道の先も建物がびっしり。

石作り…それとも先にライムが見つけたコンクリート製だろうか。頑丈そうな佇まい。

足元を見れば道路も小さな石を固めて舗装されており、道行く人は村と比較にならないほど賑やか。

家の軒先には露店のようなものがあり、住民たちが商売もしている。

そんな彼女達は皆猫耳。何処を見渡してもミャーオ族しかいない。これこそがカルカーン王国。


「な、なんじゃこりゃ…すっげぇなおい」


「ふん、田舎者には刺激が強すぎたかしら?まだここは街の入口でしてよ」


モンプッチは自慢げだが、その気持ちは理解る。村と比較すると大変に都会だ。

目貫通りと言えばよいのか、少し広めで大きめな道を俺達は案内されつつしばし歩く。


「姫様~お散歩かにゃ」

「姫様だ!」

「ひめさまひめさまー!」


「おぉ…人気あるなぁ姫様」


「ふんっ!当然ですわ~?私こそが王なのですから!」


モンプッチが通りかかるたびに、住民は足を止めて手を振ったり尻尾を振ったり。

律儀にモンプッチは皆に手を振って挨拶を返す。うーん、立派な王様。


「…なんで誰も王様って呼んでくれにゃいのかしら…ぶつぶつ」


本人は若干不満なようだが。十分為政者としてご立派ですよ、姫様。


・・・


歩く事さらに数分。一体この巨大な空間は何処まで続いているのか。

500mほどは歩いたか、と言った所で。今度は天井にぽっかりと穴が開いている。

そういえばここは洞窟、山の中だったな…と思い出す光景。

日差しが地面にシャワーのように降りかかり、その地面には沢山の花が。綺麗にトリミングされた草木と一緒に生えていた。

その中に、草で覆われたまた屋根付きの道。

緑のトンネルとでも表現しようか、オシャレな構造の道を進む。


「わぁ~!綺麗ですぅ!」


「庭師がいつも整えているのですわ。見事でしょう?」


「ほー…ガーデニングってやつだな」


「がーで…?田舎の言葉は難しいんですのね」


その緑のトンネルを抜けた先。とうとうお目当ての城が見えてきた。

城…というよりはお屋敷だろうか。

今まで見てきた住居は箱型だったが、眼の前に現れた山肌に埋まるように立てられたお屋敷は大変立派な物だった。この間俺達が作った保育園なんて比にならない重厚感。

窓の配置から3階建て、横に広い。この大きさなら相当な人数が収容できるだろう。

そんな大きなお屋敷の入口。重そうな雰囲気のドア前に、猫娘がまた一人。


「おかえりなさいませ、姫様」


「ただいま戻りましたわキナコ」


ん…?キナコ?


白い猫耳に白い尻尾、毛色まで同じ。でもその立ち姿はひと目見て若いと感じる。

モンプッチにキナコと呼ばれた少女は、ライムとは違った服を着ているが。

あれは間違いなくメイド服だ。モンプッチの服もそうだがどうやって作ったのか。

そもそも、誰が教えた?またシイタケから渡されて先祖代々というやつ…?


「…そちらのお客様は?」


喋り方は少し冷ややか。うーん、村のキナコと全然ちがうな。

なんせおばあちゃんキナコのほうはにゃーにゃーしか言わんからな…


「えぇ、なんでも旅人だそうでしてよ。お茶くらい振る舞ってあげなさい」


「かしこまりました。ではお客様、こちらへ」


所作も見事。完璧な応対だ。

ライムよりメイドしてるかもしれん。


「艦長!あのこ気になりますね!」


「だよな?お仲間だぞライム」


ライムも鼻をくんくん言わせて興味津々だ。

こりゃえらいことになったな…予想外の連続にちょっと頭がパンクしそうだ。

俺達はキナコと呼ばれたメイド少女に部屋の一室…応接間かな?へ案内された。



・・・



「…! 艦長、これ紅茶です!」


「マジじゃん紅茶じゃん。カルカーン王国やっべー」


「あら、あなた達このお茶を知ってるんですの?変な所で都会慣れしてますのねぇ…」


モンプッチはティーカップに注がれた紅茶を優雅に傾け、めっちゃふーふーしている。熱いのが苦手らしい。

俺は普通に飲むが、紅茶以上に驚かされる事ばかりだ。

このティーカップとソーサー。地球人である俺の故郷のものと全く同じ、そのものだ。テーブルクロスに椅子まで…

少しアンティークが好きなオシャレ気取りなら同じ事をするだろう。コロニーの中ですら普通に見られる光景だ。

それをケモミミ達がやっている……ここは思った以上にヤバいな。

聞きたい事が次から次へと出てくるぞ。


「それで?セン族の村でしたか…どんな所ですの?」


「その前に訂正したい事がある。俺はセン族の村へ住む以前は星の海に住んでいた」


「星って…あの星ですの?」


モンプッチは天井を指差す。まだ昼間だから星は見えないが、そういう事だ。


「そうだ。俺は遠く、君達から見れば気が遠くなるような所からやってきた」


「…御冗談がお好きねぇ。星の海へ漕ぎ出せる船なんてミャーオの者たちでも作れませんのよ?」


「では聞くが、俺は何族に見える?」


「………あなた!尻尾はどうしたんですの!?耳は…それぇ!?」


今更おわかりいただけましたか?俺はケモミミではありません。


「ライムは君達の仲間、ケモミミだが…ライムの種族も見たことないだろー」


「そ、そういえばそうですわ…お耳が長いですわ~と気になっておりましたの。素敵よあなた」


「ふふっ、王様にお褒め頂き光栄です♪」


ライムの耳がぴょこぴょこ揺れる。白い産毛がちらちら見えて今日も可愛いっす。

モンプッチの耳と尻尾はこれまた特徴的だ。ミャーオ族らしく猫耳猫尻尾ではあるのだが。

模様がヒョウ柄なのだ。尻尾もこころなしか他の猫娘達に比べて太い。ご立派ぁ。

おっと観察は後回しだ。


「俺は宇宙から船でこの惑星に着た。まぁ偶然ではあるのだが…」


俺はモンプッチに身の上を話す。ミユシス達との出会い。村の状況。

そして、ケモミミ達を滅びから救うためにも。旅をしているのだと。


「……事情は概ね理解しましたわ。それにしても、村にキナコがいるですって?」


「もしかしたら私の祖母かもしれません。生きて居られたとは驚きです」


そう話す、メイドキナコは表情を全然変えない。凛とした佇まいのまま、モンプッチの側に控えている。

ライムも負けじと…いや、今はお茶請けのクッキーを食べて目を輝かせている。

うーん、こういう所は0才児。


「俺はこの街の状況をみてぶったまげ…いや、いたく感動している。どうか村人たちにも君達の叡智を授けてくれないか?」


「当然ですわね。私は王として遠く離れている市民にも庇護を与える義務がありますわ」


モンプッチは俺の話を聞いて即決即断してくれた。まさに王の器、判断が速い。


「やったぜ!村の皆も喜ぶぞ!」


「で、す、が!私はこの街から離れるわけにはいかない、そこはおわかりになられて?」


「そりゃそうだな…?王様だし」


「ですから人選に少し時間を頂戴。それに…」


「それに?」


モンプッチの目がギラリと光った。

椅子に体重を預けて深く腰掛け、肘置きに腕を付いて俺を値踏みするような目で見つめる。

そんな目で見られた俺は自然と背筋が伸びる。なーんかやな予感。


「当然、対価を頂きますわよ?何事もタダでは済まされませんもの」


「対価だと?何を用意すればいいんだ?」


モンプッチはすでに目星をつけていたように、あっさりと俺を指さした。


「あなたですわケン。キナコ、この者を縛り上げなさい」


「…何故にWhy!?」


あっれー!?友好的に話進んでなかった!?

何か粗相をしましたか!?何卒!何卒お慈悲をー!


「私の目は誤魔化されませんわ。あなた…オスですわね?」


「ぐっ!?何故それを!」


「そんなの匂いや雰囲気で理解りますわ。ずいぶんとまぁ…色んなメスの匂いがしますわね」


すんすん…と俺に近づきもせず、鼻だけならすモンプッチ。その目は侮蔑…?

モンプッチの意図を理解しようとしている俺を、音も立てずに歩み寄ったキナコが無慈悲に拘束する。あっ、縛るちからキッツ!!優しくして?


「どうして…?やめてください!艦長は何も悪いことしてません!」


ガタッ、とライムが立ち上がって抗議するも。

俺はあっという間に縄でグルグル巻にされてしまった。


「…あなた、星の海から来たんでしたわね?では知らないでしょうから教えてあげましてよ」


モンプッチは椅子から立ち上がって、ビシッ!と指先を俺の鼻先を指す。


「我が国では王の許可なく子作りするのは重罪ですわ!この者を牢に!」


「なっ!?ちょ、まて!そんな法律俺達知るわけが…!」


「おだまりなさい、この陸地すべては我がカルカーン王国の版図。知らなかろうが罪は罪ですわ」


「お、横暴だー!離せー!弁護士よべー!」


俺はグルグル巻きのままキナコに抱えられて、部屋の出口へ…


「あぁ~、艦長!モンプッチ様どうかお許しください!艦長だけは!」


「ライム、あなたは不問としますわ。泊まる部屋を与えますからゆっくりしてなさい」


「私の事はいいんです!それより艦長を何処へ!」


「何処って、当然牢屋ですわ?罪人には罪人らしく…たっぷり罰を受けてもらいますの」


「そんな…!」


「いやぁー!たーすけてー!!俺悪い宇宙人じゃないよぉー!!」

◯ミャーオ族の地下王国


人口、おおよそ500人 広さはTOKYOドーム3つ分くらい。


シマナガスにより滅んでしまった地表の都市代わりに、ミャーオ族達が住む地下都市。

自然の大空洞を補強整備して作られたその都市は地表からは全く見えない。

都市内インフラは完璧に整備され、マカダム舗装された道路や上下水道もある。

主に直線で伸びた屋敷までの目抜き通りの沿いから放射状に商店や住宅地が横に伸び、最外縁部には職人が働く工場が存在する。

食料確保は付近の森の中に隠された畑で行われており、都市の外となる。

主要な食品は魚で、川から取り込んだ調整池で養殖漁業も行われている。


徹底された都市の隠蔽ぶりは大半がシマナガス対策であり、二度と都市機能の損失をさせまいというミャーオ族の教訓と執念で維持されている。


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