尻尾どこだ
……あ。ども。ケンですが、何か…?
昨晩何が…?うっ、頭が…!思い出しては、いけない…!それは黒歴史だ…!
えぇ覚えてますよそりゃ。もう全力で搾り取られましたよ。残弾ゼロっす。スッカラカン。
俺は村のために大きな偉業を成し遂げたというのに。なんたる仕打ち。
もう温泉まで行く気力すらないので、俺はどうにか船まで一人たどり着いてシャワーを浴びた。
「いでで…かぁーっ、しみる!全身傷まみれだぞ…」
何人と交わったかすら思い出せねぇ。あんなの拷問っすよ…。
彼奴等もうちょっと愛のある営みは出来んわけ?そんなの教えるとかなったら確実に俺死ぬけど。干からびるわ。
とりあえずこれくらいの傷ならミユシスの力を借りなくても、薬でどうにかなるかな…
俺はシャワーから出て体を拭き、パンツだけ履いて医療キットをガサガサ漁る。
「みきゅっ!?…あ、お、おはようございます…艦長…」
「あ、あぁ。おはようライム……」
薬を飲んでいたら、ベッドルームから出てきたライムと鉢合わせしてしまった。大変に気まずい。
ライムは寝起きで可愛らしいパジャマを着ている。シイタケこんなもんまで作ってたのか…。グッジョブ。
一方で俺はパンツ一丁。この格差よ。
「艦長、その……昨日は…」
「聞くな…!俺もあの悪夢を一刻も早く忘れたいんだ」
「………」
いかんな。いかんぞ。妙な空気だ。
ここはどうにか俺が渾身の一発ギャグでもかまして空気を入れ替えねば!
くっ…何か小道具は……何!?あれは洗って干しているライムのパンツ!?馬鹿な、何故こんな場所に!
…いや脱衣所には洗濯機もあるのだからあってもおかしくは。
いや。いや!?まさか隣のは…ブラ!?迂闊すぎるぞライム!!なんて自然に干してるんだ…!!
「…ひどい」
「えっ!?いや俺は!何も見てない、し……ライム?」
ライムが俺の体にそっと指を当てる。ケモミミ達に付けられた爪痕を、なぞるように。
ぞくぞくっ!と俺の体に緊張が走る。もう弾切れのはずなのに、そんな事されちゃ…
「こんな、乱暴に……私なら、もっと。もっと……」
「お、おいぃ?」
俺の体を覆い隠すように。ライムがぎゅっと密着してきた。
柔らかな肌触りのパジャマと。その下からじんわりとくる、ライムの体温。
ふわふわの耳がぴくぴく震えて俺の素肌を刺激する。
たったそれだけで目覚めてしまった。
昨日あんだけ攻められてもう立ち上がる気力すら無いと思っていた、その。俺の股間が。
「……あっ!?/// し、失礼しました!!着替えてきます!!」
「えっ、えっ…何?何だったの!?ライムさーん!?」
脱衣所にまた一人。俺は取り残されてしまった。
今のは…いや、深く考えないようにしよう。
とりあえず、昨日の宇宙服はクリーニングハンガーに入れて…予備を着よう。
・・・
「ふふー、ケンでかした。孕んだぞ」
「できたー」
「こっちもー」
「…それはようござんしたね。もうやらねーからな!」
昨日俺に襲いかかった村人達は、顔を合わせるごとに妊娠報告をしてくる。頭が痛い。
あんなすぐ理解るもんなのか?そりゃ医者でもない男の俺にはなんとも言えんが。
とにかく今日は朝飯食ったらチビ達を保育園に連れて行って…保母さんやってくれる村人に頼んで…それから…
「おぉ、ケン。おはようじゃ」
「ミユシス……」
「なんじゃその顔は。酷い顔しとるのぅ」
「そりゃねぇ…?一晩中全力で戦ったからなぁ~?」
「…少しわしの家で待っておれ。食事も持っていってやる」
「…ソラとタウは?」
「もうとっくにマルチルが連れて行ったわい。ほれ、休んでおれ」
「…そうする」
・・・
しばらくミユシスの家で床に突っ伏してくたばっていると。
俺の頭にもふっ、と大きな尻尾が覆いかぶさった。
「どうじゃ?少しは休めたか?」
「いんや。今日はもう何にもしたくねぇ…」
「くふふ、甘えおって。ではあーんしてやろう」
「たのむ」
「……やけに素直ではないか。いつもそうであればよいのに」
俺は体を起こしてミユシスに食事を口に運んでもらう。
まるで病人だが、今はなんにもやる気が起きねぇ。ずっと横になっていたいくらいだ。
「どうする?このまま少し眠るか…?」
「そうだな…そうするわ」
「ならばしばらく側に居てやろうぞ。今日くらい休んでもよかろうて…」
「ん…」
俺はミユシスを抱きよせて、そのまま横になった。
温かい…これならすぐにでも寝れそうだ…。
………むにゃ。
・ ・ ・
「………ん」
随分寝た気がする。何時だ今。
俺の腕の中には温かい小さな体の感触。ミユシスも一緒に寝ちまったのか。
華奢な体だな…それに、見合わないもふもふの尻尾がまた……
さわっ。さわっ…
「…っ!きゅぅ……」
さわさわ…ごそごそ…
「……ぅぅ。……んぅ!」
…ん?尻尾どこだ。…尻尾ねぇぞ!?何処いった!?
俺は焦ってガバっと体を起こすと。
俺の腕に抱かれていたのは、ミユシスではなく。
縮こまって小刻みに震える、ライムだった。
「きゅぅぅ……」
「何故…?すり替えのマジックショーか?」
「い、いえ……ミユシス様は、おでかけに…」
「はぁ、おでかけ」
「うぅ…代わりに私がお留守番しててですね?艦長お疲れの様子だったので…膝まくら、してあげたんですけど」
「膝まくら…だと…!?」
何だその甘いシチュエーションは。こんな可愛い女の子に膝枕してもらうとか銀河中の男達垂涎物だぞ。
ミユシスは頭からぷすぷすと煙があがりそうなほど顔が真っ赤になっている。
おいおいおい、死んだわ俺。ほう、死刑ですね…とか言われながら爆破されるやつだこれ。
「そしたら艦長が急に……私の腕を掴んで、無理やりっ…!」
「言い方ぁ!?それだと俺がライムに襲いかかってるみたいだろ!サンパチ詳細報告ぅ!」
<<概ね説明通りです。艦長がライムを10分52秒前に引き寄せ、以降ずっと抱きまくらにしていました>>
「抱き枕だけだな!?いやらしい事は一切してないな!?」
<<艦長はライムの体をホールドしていただけです。いやらしいかどうかはAIの私には判断がつきかねます>>
「ふーん、じゃあギリギリセーフ……アウトだよぉ!!」
違うんですポリスメン。昨晩のは俺が襲われたほうなんです。
今しがたの出来事も無意識なんです。だから俺は無実……余罪が多すぎる。俺がやりました…。
「うぅ~!艦長のえっち!!」
「ばっかやろ、誰がえっちだ!俺ですね、すいませんでしたぁ!!」
「…やれやれ、戻ってみればこれか。まったく、お主は幼子と同じじゃのぉ?起きたらすーぐ騒ぎ出しよる」
「……もしかしてあれ遺伝?」
「まったく、耳と尻尾以外は父親似じゃわい。くふふっ」
・・・
長い休息の後。俺とミユシス、ライムの3人でしばらく村の今後について話をした。
畑の種類を増やしたい事。まだ見ぬ動植物の種類を観察したい事。水源の調査やら他にも細々と。
要するに、俺はしばらく村を出たいと。そういうお話。
「前にも行ったが、定期的に村に戻るのが条件じゃ。だってあんまり長いと寂しいんじゃもん」
当然、条件は付く。俺だってミユシスや子供達が心配だ。あまり長期間は空けれない。
「了解だ。1回の調査は1週間を目安にしよう。ライム、いくらか目星ついてるんだよな?」
「はい。まずは山をひとつ超えた先にある盆地へ。ここなら往復しても3日くらいです」
「よし…近場から埋めていくぞ。その次は遺跡とかも調べたいな」
「遺跡?街の跡へ行くのか」
「あぁ。ミャーオ族の街…カルカーン王国だったか?あそこも色々調査したかったんだ」
ドローンが最初に見つけた大きな遺跡。もしキナコの話通りなら、麦がまだ自生しているかもしれない。
可能なら種子を持ち帰って村でも増やしてみたいし。彼女達が使っていた道具も残っていればそれを再現できるかも。
「気をつけるのじゃぞケン。あの大きな街はシマナガスに滅ぼされたという。見かけたらすぐ尻尾丸めて逃げるんじゃぞ?」
「言われなくても逃げるわ、俺に尻尾ないけど。山よりデカいんだろ?そんなのさすがに俺達でもどうにもならん」
そもそもの話、そんな巨大生物なんて存在自体が怪しい。何食ったらそんなデカさになるんだよ。
ケモミミ達の食欲も大概だが、この星の食物連鎖が一瞬で終わるだろそんな大きさ。
せいぜい台風みたいな自然現象の揶揄だと思いたいが…あまりにも言い伝えがリアルすぎる。被害の爪痕も残ってれば調べないとな…。
「大丈夫です!艦長は私が責任をもって連れ帰ります」
「うむ、頼むぞ。二人一緒に村へ戻ってくるのじゃ」
「何かあっても私が抱えて帰ってきますのでご安心ください」
…おんぶだよな?お姫様だっことかだったらどうしよ。
「…よし。さっそく始めるか!」
「はい!えへへ」
嬉しそうにライムが部屋をでて外を駆けていく。
ちょっと朝は気まずかったけど、ライムは元気そうで良かったよ。
俺も少しは回復したし、色々準備しないとな。
「ケンよ。旅立つ前にまずやることがあろう」
「ん?そりゃ色々な」
「そうじゃろそうじゃろ。…ほれ、わしにすることは?」
「……何だ?行ってきますのキスか?」
「それも良いが…もっと!ほれ!」
「モフり倒せってことですね」
「たわけ!そうではない、ここは愛の抱擁をぎゅーっとじゃな…きゃふぅん!」
「ほーれほれほれほれ」
「ちがうっ、尻尾じゃなしにっ…くきゃぅ!」
そうだな、しばらくモフれないしな。しっかり充電していかねば。
「こ、この大馬鹿者~!!きゃうーーーん!」