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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
2章 旅人は語る
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天然ケモミミ100%

最近、俺は村人達と会話する事が増えてきた。

ライムと一緒に勉強会を開いたり、キキルパ達のチームと狩りに同行したり。

畑の手入れをしていればミャーオ族とも会うしと。

以前は遠巻きにこっちを見ていた住民達とも、気軽に話せる程度には認められた気がする。


そんな村に住む全ての人達と出会って、ふと気づいたことがある。

服作りはまだまだハードルが高いが、彼女達はよく見るとしっかりオシャレをしているのだ。

羽を束ねて細い皮で縛った首飾り。腰布にぶら下げた綺麗な石。髪に日替わりで花を添える子も。

でも一番気を使っているのはやはり耳や尻尾だ。彼女達は毛並みの手入れを毎日欠かさない。

仲が良い友達に舐めて貰ったり。尻尾を器用に木の幹に擦り付けたり。

俺のような地球型人類にはない特徴だからこそ、中々興味深い仕草が見受けられる。


「こらキキルパ!逃げないの!!」


「もう良い!飽きた!」


「だめ!まだ揃ってないから…もぉー!」


キキルパがマルチルに仲良く毛づくろいをしてもらっている。

堪え性がないのか、キキルパは暴れるが…マルチルは上手く隙をついては手入れしているようだ。


「動かない!ほっといたら毛玉が出来ちゃうでしょ!」


「ううぅ~…」


俺はこの星に来てからまだ日が浅いのでよく知らないのだが。

どうもこの地域はある程度の寒暖差があるようで、今はちょうど暖かい時期らしい。

こういう地球型惑星は公転周期や自転の影響で四季という季節があるんだそうで。


<<平均気温から現在は夏と判断します。今後しばらくは暑く、その後は徐々に寒冷化するでしょう>>


「なんかそんなの昔学校で習ったな…四季だっけか?スペースコロニーはそういうの無いから実感が湧かねぇ」


<<彼女達は地球上の動物と同じような習性を持っていると推定。健康な毛並みの維持には定期的に換毛をする必要があります>>


「…だそうだライム。お前も大人しくしていろ」


「あぅぅ…ちょっとくすぐったいんです~!」


俺も彼女達の毛づくろいを見様見真似でライムの耳を櫛でブラッシングする。

木を削って作った簡素な櫛だが、これがまた毛がごっそりと抜ける。ものすごい抜ける。

全部抜けるんじゃないか…?というくらい抜ける。でも全然減らない。無尽蔵か?


「こんなに抜けるんじゃなぁ…そりゃ詰まるって」


それもこれも、船のシャワールームの排水口が詰まったのが発端だ。

ライムは髪の毛も長いのでそんなもんかな?と思ったが蓋を開けたら出るわ出るわ。

尋常じゃない抜け毛で一瞬で詰まってしまったらしい。


さっきからずっとブラッシングしてるがそろそろ良いだろうか?

俺はライムの耳からちょっとだけ跳ね出た毛を指で摘む。

スポッと毛が抜ける。抜いた後からまたぴょこんっと跳ね出る毛。…終りが見えない。

床には抜け落ちた毛が大量だ。一体どんだけ隠し持ってんだよ。


「だあああ!ダメだキリがねぇ!!今日は一旦やめだ!」


「お手数をおかけしました…でもなんかスッキリした気がします」


「……尻尾は自分でやれるな?」


「…艦長のえっち」


「やめろそれ」


俺が必死にブラッシングをかけたライムの耳。普段と変わらないように見える。

ビフォー。アフター。脳内で1時間前の状態と比較してもさっぱり変わらん。ふわふわです。

隣で毛づくろいされていたキキルパの足元にも、大量のもこもこした毛が。


「あーきーた!!逃げるー!」


「あっ!こら~!片付けくらいしなさーい!」


マルチルは文句を言いつつもせっせと抜け毛を一箇所に集めていく。


「…なぁマルチル。抜け落ちた毛ってどうするんだ?」


「えっ?うーんと、森に捨ててるよ」


捨てる?なんか勿体ないぞ。

これだけ抜け毛が出るなら何か有効活用出来るのでは……


「…要らないなら俺にくれないか?試してみたい事があるんだ」


「い、良いけど…何に使うの?」


「いやー、これ使えばなんか作れる気がするんだよな…」


「そうなの?じゃあ皆からも集める?」


「うん、サンプルは沢山あったほうが良いから頼むよ」


「わかった!じゃあ…代わりに。ケンにお願い聞いて欲しいなぁ」


「…なんだ?」


…番にはならんぞ?マルチルはまだ子供だからな。

ダメだぞそんな。こぼれ落ちんばかりの胸で俺を誘惑しても。

相変わらず今日もぽよんぽよん。けしからん。


「ケンにね。して欲しいなぁ」


何をですかぁ!?

だだだダメだぞ!子作りはもっと大人になってからだから!

でもおっぱいの大きさは大人!?ええい、吹き飛べ邪念!

ちょっとくらい揉んでみたいとかそんなの考えてないぞ!本当だぞ!

挟まれたいとかも考えてない!本当だ!…くっ、おっぱいはいつも俺を惑わせる…!


「あたしにも毛づくろい、して?」


「…はい、喜んでー!!1名様ご案内ぃ!!」


うおおお!!抜け毛と共にふっとべ邪念~!!



・・・



マルチルからはライムの比じゃないくらいやべー量の毛が採れた。抜けすぎだろ。

もこもこした毛の塊だけで両手持ちのカゴがいっぱいになるくらい。どうなってんのケモミミ。

特にバウ族は尻尾からの抜け毛が半端ないらしく、俺がライム用に作った櫛をプレゼントしたら喜ばれた。

…マルチルの尻尾ですか?やりましたよ!必死に!

おかげでマルチルのくるくる尻尾は綿毛が減ってスッキリ。俺の股間はもうギンギン。


んな事はおいといて。櫛なんぞはいくらでも作れるとして、本題はこの抜け毛の山だ。

村中から数日かけて船の貨物室にかき集めた大量の抜け毛。

ミユシスの家なら部屋が埋まりそうなほどのこんもり具合。そりゃ捨てたくもなる。


だが俺は最初からこのもこもこ抜け毛を見てピーンときていた。

これ絶対糸作れる。毛糸ってやつだ。

ケモミミ達の抜け毛。長さはバラバラ、色も様々。

サンパチの助言を貰いながらライムと協力で洗い、解いて、糸車で紡ぐ。もう一度洗って、干せば…


「…完璧だ!ふわふわの天然ケモミミ100%毛糸が出来たぞ!」


「やわらかくて肌触りも良いです~!これなら皆喜んでくれますね!」


住民たちの抜け毛から生まれた毛糸。それを纏めて丸めた毛糸玉。

色分けとかを考えずに混ぜて作ったのでカラフルだ。でも手作り感があってこれはこれで良い。

俺は早速、族長様に献上しにいくことにした。


・・・


「ほほぉ!これはまた…なんと見事!」


ミユシスは毛糸玉を気に入ってくれたようだ。

しきりにくんくんと匂いをかいでは、床で転がして遊んでいる。

…いや、そう使う物ではない。遊ぶ姿は可愛いんだけどさ。ミャーオ族も同じことしそう。


「なんと!?こう遊ぶのではないのか!?」


「違います」


俺は毛糸を使えばマフラーや服が作れる事をざっくり説明した。

肌触りが良く、保温に優れる凄いものなんだと。


「ふむふむ?草を使う糸とはまた違うのか?」


「あれはあれでまた違うんだ。やっと村の名産と呼べる物が出来そうだぜ」


「うむ、これは良いものじゃ。捨てる抜け毛がこんな風になるとはの…」


ミユシスのお腹はさらに大きくなった。もう誰がどうみても妊婦だ。

ムムの実をかじったおかげか、ミユシスは元気。でも動くのは辛そうだ。


「ほら無理に動くなよ?手が欲しい時はすぐ俺達に声をかけてくれよな」


「心配するでない。マルチルもいつもおるでの」


そう言われても。ここには病院なんてない。

いくらミユシスが医者代わりになれたとしても本人の話なんだから。

サンパチの話によると先史時代の出産というのは命がけであったという。

心配するなという方が無理だ。


「俺に出来ることはなんか無いのか?遠慮とかすんなよ」


「じゃーから大丈夫じゃって。お産なら経験しとる村人だっておる」


「だってなぁ…落ち着かないんだよ。なんか他に出来る事がだなぁ~」


「たわけ、そんな風に隣でソワソワされとるほうが余程困るわ。お主は待つだけでよい」


「それが一番辛いんだけどなぁ」


「本当に落ち着きのない…そんなにやることがないなら名前でも考えたらどうじゃ」


「名前…あー!そうかそうだよな。どうすっかな…なんか決まり事とかあったりすんの?」


「特にないぞ?強いて言うなら、子の成長を願って心を込めた名前にすることかの」


「そうかそうだな名前大事だよな…将来ずっと使うんだから…うーんとえーと」


「これこれ、この場ですぐ決めんでも………はぁ、はふ…」


「…ミユシス!?おいマルチル!来てくれ!」


「なになに…あ、生まれる!?わ、わんわーん!!」



・・・



程なくして、ミユシスは双子を出産した。女の子と、男の子だった。

異例のスピード出産。だが俺には異例でも彼女達にとっては常識。

常識外なのは、男の子が生まれたということ。そりゃもう、村中大騒ぎである。


「うまれた!うまれた!」

「わおおーん!あおー!!」

「んみゃーお!なぁーーーお!」


ほんとに一晩中騒いでいる。

お祭り騒ぎというか、誰も寝ないので深夜のハイテンション。

ミユシスの家の周りには一目見ようと、沢山の村人が集まり。思い思いに祝福している。


「……小さいなぁ」


「小さいですねぇ~!可愛いですぅ!」


まだ目もあかない赤子。小さすぎる体。それでもはっきり耳と尻尾はついている。

保温のために葉っぱで包まれ、疲れ切ったミユシスの代わりに。助産にきたキナコの腕に抱かれている。


「んぐるぅ…ごろごろごろ」


キナコも喉を鳴らしている。喜んでいるようだ。


「…キナコよ、ワシにもよく見せておくれ…」


ミユシスは出産で疲れ切っている。

それでもマルチルの介助で体を起こし、幸せそうに目を細めて赤ちゃんを抱いた。

よくもまぁ、そんな小さな体で頑張った。本当に、よく頑張ってくれた。俺は自然と涙がでる。

…覚悟していた。ミユシスは無事では済まないかもしれないと。

赤子だってちゃんと生まれるか本当に心配だった。でも双子はとても元気そうだ。本当に、良かった。


「…名前、付けなきゃな」


「ふふ、では女子のほうはワシが決めよう。ケンは男子のほうを考えておくれ」


「おう任せとけ」


異星人の俺とケモミミの間に生まれた初めての子。どうか俺達の未来を紡いで欲しい。

俺は毛糸を紡ぐのですら精一杯だ。どうかあの星空のように輝ける程。元気な姿でいて欲しい。


「…よし、お前は今日からケンタウリだ。俺の名前の元ネタらしいぞ、母ちゃんが言ってたんだ」


アルファ・ケンタウリ。地球の近所にある強い光を放つ恒星だ。

大昔は遠すぎて絶対行けないとか言われてたらしいが。今は気軽に見に行ける。

…サンパチが動けるなら一緒に見に行けたのにな。それは叶いそうにない。

だからお前が大人になったら…宇宙へ出て自分と同じ名前の星へ旅行に行けるようになるといいな。

あぁでもカーゴシップライダーになるのはやめとけな?ありゃ給料安すぎてしんどいぞ。


「うむ…ケンタウリ、良い名じゃ。では女子のほうは…ソラシスと名付けよう」


「ソラシス?へぇ良いじゃん。なんか可愛いぞ」


「姉上様の名前じゃが…お借りしてもよかろう。お主も姉上様のような立派な娘になるのじゃぞ…」



ケモミミ達が歌う夜。星空の下でふたつの命が生まれた。

毛糸で最初に作るのは双子のお包みにしよう。皆に祝福されて生まれてきたんだと、伝わるように。

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