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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
2/35

神のいたずら


「…あ~まだ死にたくねぇ~。何でだチクショウ…」


船は損傷の影響か、ガッタガタ揺れる。肩こりにすげー効くくらい。


俺がやれることは全部やった。そもそも今どきの船は手動操縦で宇宙を飛ぶようには出来てない。

一応スロットルとか操縦桿はあるっちゃあるが、その操作もAIがデジタル制御してるんだから意味はない。雰囲気味わえますよ男の子ってこういうの好きでしょ?的なおまけ。

そもそも人間なんて乗ってるのはあくまで責任者が必要だからってだけだ。あそこに降りろとか止まれとか命令するためだけに。

まぁ命令しても全然止まれねーんですけど。

だからさ。せいぜい助けを求めてあちこち連絡するくらいしか、人間の俺には出来んさ。


そういう理由で役に立たないハイウェイ管制をすっ飛ばして、宙域を管理する航宙センターにまで連絡したけども。まぁ駄目だった。

じゃあ他に何処へ?うーん…

何もしてないのに勝手に壊れました!なんて会社へ連絡して?社長の大目玉くらうのは嫌だしぃ?

だからって同僚に通話してもなぁ。すぐ助けに来れるわけでも無いし……

あとはなんだぁ?実家にいる母ちゃんに遺言でも残しとくかぁ~?


「ははは、録音でもしとくか…あ、母ちゃん?スマン、俺死んだわ!この宙域のお天気AIがマジでゴミでよぉ~~」


<<……シミュレーション終了。ヒートシンク、デプロイ>>


サンパチがまだ何か頑張っている。

もう何やっても無駄だろ。俺と一緒に仲良く昇天しようぜぇ?


<<グラヴィティダンパー、マキシマム。ギアダウン、ランディングスラスタ マニュアルインジェクション>>


「…おーい何やってんだ?もうどうにもならんだろ」


<<搭乗員保護を理由に本船の安全装置を強制解除します。シートベルトを確認してください>>


「ベルトなんてとっくにしてる。え、俺助かるの?どうやって?」


<<提案、破損箇所から漏れ出る燃料に点火し、爆圧で進路の強制変更。シミュレーション結果は乗務員生存率32%です>>


モニタにはご丁寧に爆破箇所とか色々説明図が出るが…そんな事はどうでもいい。

生存率が3割だと?そんなの死刑宣告でしかない。

恒星に突っ込んで燃え尽きるか、爆発でふっ飛ばされてバラバラになるか。仮に生き残ったとしてもその後は?

どちらにせよお陀仏。


<<最終シークエンスを実行する前に艦長の許可が必要です、ご決断を>>


「許可って言ってもお前…本当にこんなので」


<<申し訳ありませんが時間がもうありません。エマージェンシーシステムオーバーライド、コンファーム?>>


「……はぁ~。もう死に方はお前に任せる!好きにしろっての!!キャプテンコンファーム!」


<<チェック。コンテニューオーバーライド>>


「なるべく優しくな?痛いのは嫌だぞ」


<<了解>>


了解?何がわかったってんだ。AIにジョークは通じない。

はぁー、やっぱり俺死んじまうのか。やだなぁこんな所で。苦しまなければ良いのだが。

…いやぁ、案外死ぬ間際って冷静になれるもんなんだな?何もかもどうでも良くなるっていうか。


<<左舷スラスターフル ハードスターボード>>


ロクでもない人生だったぜ。彼女っていうか、嫁くらいは欲しかったな…。


もうあれだな?最後くらい来世への要望全部ぶちこむか。しっかりメモれよ神様。

まずこんなクソみたいな仕事はもうやりたくねぇ!そもそも拘束時間長過ぎる割に給料安すぎんだよ~社長がガメついせいでよぉ~。


<<メインバイパス推進剤供給バルブ閉鎖。ロールピッチ固定、外部タンクジェットソンオール>>


俺がガキの頃はだなぁー、デカい戦艦とかに乗ったりして銃ぶっ放す超カッコいいヒーローとかになりたかったんだよ、わかる?

…いや?むしろ来世があるなら働かなくても勝手に飯がでてくるような良い所のお坊ちゃんとかのほうがいいな?お食事の時間ですよ、御主人様。みたいな事言う可愛いメイドがついてさぁ!


<<シールド限定解除。衝撃に備えてください>>


だったらリゾートコロニーで人工太陽の下、浜辺で肌焼きながら可愛い女の子に囲まれてHAHAHA…と笑ってるだけでチヤホヤされるってのもいいな!?

それからそれから~…おい、神!!ちゃんと聞いてんのか!?まだあんだよ、それでだな



<<…右舷ハイドロ、強制噴射 点火まで3.2.1>>



ボッ!! ギシッ!メキメキメキッ!


船が大きく回転する。嫌な音を立てながら。


シートベルトが腹に食い込んで、上下左右色んな方向に強烈なGが加わり。

コクピット内に置いてあったあらゆる物が散乱するのが見えた直後。俺は気を失った。




* * *




「…グッ はぁっ……おえっ」


………あ?なんで生きてる。俺助かった?マジで?

体中は節々が痛いが…スーツの生命維持装置でどうにかなったのだろうか。手足も頭もちゃんと付いてる。

あれから…どれくらいの時間が経ってるんだ。


ピッ ピッ ピッ…


コクピットの中は暗く、メインモニターには何も映っていない。外の景色すら見れない。

そんな暗闇の中でぼんやりと光るコンソール画面にはリスタートの文字が浮かび、数秒刻みの電子音が起動を促す。

散らかって操作盤の上に積み重なった有象無象をガシャガシャと腕で掻き分け、俺は再起動を試みた。

手の平をパネルに乗せて生体認証する。同時に音声キーでロック解除だ。


「……起動コード認証っと。フォックスユニフォームチャーリーキロ、ゴルフオスカーデルタ おい起きろ朝だぞ」


キュイーッ ピポッ


<<おはようございます艦長 気分は如何ですか?>>


「おう、当然最悪。…でもお互い生き延びたな。外部モニタ出せるか?」


<<エラー。カメラが応答しません>>


「…聞きたくないが他の破損状況は?」


<<スタンバイ…スキャン完了。リアクター正常運転中。オキシゲン、ノーマーク。フレーム強度20%低下>>


「エンジンは!?」


<<…メインエンジンモジュールオールロス。RCS応答なし。離床不能>>


「だー、やっぱ駄目か。結局このまま宇宙で漂流……ちょっと待て、最後なんて言った」


<<離床不能です>>


離床……!?


「おい、ここ何処だ!? ギャラクシーマップだせ!」


<<NAV SAT 失探。現在位置不明。船体に掛かるGから惑星上であると推測>>


惑星上だと!?…不時着したってことか!

地表面に超光速で突っ込んでその割に生き残ってるのは…運が良いやら悪いやら…


「くそ、周りが見えなきゃなんとも……そのへんの環境把握出来るか?」


<<付加重力0.98G 周辺外気温度 32度  外装表面温度 38度 大気観測装置、故障>>


「……その程度なら船から出た瞬間に焼け死ぬってことはねぇかな」


こうなったら直接状況を目視するしか無い。

俺はシートから腰をあげる。コクピット内は衝撃であれこれ散らかっているが、着ていた宇宙服はどうにか無事だった。

コクピット後方の気密ドアを通り、外へ通じるハッチの前へ歩み出る。


「…開けろ、EVA(船外活動)だ」


<<了解 コクピットハッチオープン>>


ガギョッ…


外に出るための分厚いハッチは半分も開かなかった。暗い船内に日差しが差し込む。

生唾を飲み込みながら試しに手のひらを一瞬外に出してみるが…変な感じはしない。これなら外の様子を伺えそうだ。

どうにか通れそうなので身を捩って上半身だけ船から這い出ると。

その光景は目を疑うものだった。


ザザァッ…ザパ…


「………海…?」


間違いない。目の前に広がるのは大海原。見上げれば青い空。

船自体は海岸に不時着したらしい。ハッチから下を覗き見ると、土混じりの白い砂浜。船体は地面に半分以上埋まっている。

恒星へ突っ込む前に爆発で弾き飛ばされて生きてるというだけでも信じられないのに。墜落先が地球型惑星だと?

しかもただの陸地じゃなく周囲には植物まで存在する。奇跡なんてもんじゃない。


「いや何処だよ此処は…。人類が住めそうな居住可能惑星なんてとっくに発見され尽くされてるだろ」


<<周辺から受信出来る電波信号無し FREE SATも確認出来ません>>


まいったなぁ…。惑星上だとしても現在地がわからないとどうしようもない。

船の通信出力じゃ中継衛星がなければ星系外への連絡も難しい。

さてどうしたもんか………


ガサッ…ガサガサ


「ん?」


船の目と鼻の先の密林。

その林の奥から物音がする。


<<こちらに移動する熱源を探知>>


ヘルメットのカメラ越しに、AIが何かを見つけたようだ。

おいおいやべーぞ、陸上生物まで居るのかこの星は。

…ていうか護身用のショックガン持ってきてねぇ!んなもん普段使わないから持ち出すの忘れたぞ。

幸いにも着ている宇宙服は頑丈で、生き物に噛みつかれる程度じゃ傷一つつかんが…


背の高い草葉が揺れて、その何かがこちらにどんどん近づいてくる。

死にはしないと理解っていても俺はとっさに身構えた。

あー、2mくらいある虫とかだったらどうしよう。

俺ああいうの苦手なんだよぉ!


音のする方を固唾を呑んで警戒していると。

ガサガサと茂みを分けて出てきたのは…


「…***!?」


人間だった。いや、人間だけど…なんだ?

まるで学生時代にカリキュラムで見た、地球先史時代のような服。

目が荒いボロボロの布のような物と動物の毛皮を体に巻いただけの…貧相な格好、と言ったら失礼だが。かなりラフだ。

よく見れば腰にも獣の尻尾…? みたいなのをつけている子供。たぶん女の子。

もっと目立つのは頭についた獣のような耳。ぴょこぴょこ揺れて、ふさふさとしている。…変わったファッションだな?

そして手にはカゴを持っている。きっとこの辺りで生活している現地民に違いない。

見た目はどうあれ、人類の仲間。ステラノームだ!助かった…!


「……うおおお!!おい翻訳だ!」


<<コミュニケータ、起動>>


コミュニケータはステラノーム同士なら、相手の言葉をAIが翻訳してくれる装置だ。

これさえあればどんな辺境惑星に行っても意思疎通は容易い。すっごい便利。

全然喋れないキノコ星人のテレパス会話にすら対応している。


「やぁ!俺はトラピスト星系から来たんだ!君この星の人?ここ何て惑星!?」


「………」


「…あれ、聞こえない?スピーカーぶっ壊れてるかな、今メット外すからさ…」


眼の前にいる少女があんな格好なのだ。酸素濃度は十分なのだろう。

ガポッと音を立てて俺はヘルメットを脱ぐ。


「ッ!? キャーーーッ!! ******!!!」


ヘルメットを脱いで、数歩近寄った途端。

女の子はまるで化け物でも見たかのように。泣き叫んで逃げていってしまった。


「えっ……それは酷くね?俺そんな怖い顔じゃないよ…? あ、血とかついてる?」


<<頭部に損傷無し。バイタルデータ、良好>>


「ですよねー?…じゃあ叫んで逃げるほど…ブサイクだってことぉ…?」


<<人間の美醜はAIには解りかねます>>


「お返事ありがとう、ジョークだっつの」


<<キャプテンはブサイク、をジョークとして登録しますか?>>


「やかましい!!せんでええわ!!」


<<登録をキャンセルしました>>


「はぁ~~……とりあえず後を追うか?町くらいあるだろうし…だけどなぁ」


俺は振り返ってサンパチ…今まで乗っていた船を振り向く。

煙一つあがってないが、損傷は目に見えて甚大だ。もうボロッボロ。ボロ船。

せめて積んである貨物が無事だと良いが…いや無事でないと違約金がとんでもないんだが。

人間が居ると理解った以上、積荷が盗まれないとも限らない。

AIも外部カメラが壊れて監視出来ないのだから、安易に船から離れるのは良くないだろう。

とりあえず予備部品でカメラだけでも修理出来るかどうかから試すか………

◯宇宙服


スペースノイド向けの汎用宇宙服。


ナノ複合繊維素材が編み込まれたスーツは頑丈かつ軽く、宙間放射線に耐え軽度のデブリに当たっても破れない。

また気温変動が激しい惑星上でも作業可能にするため、スーツ内の環境を常に一定に保つ能力を持つ。

スーツ自体が一種の運動補助外骨格。つまりパワードスーツの一種であり、重力下であっても使用者の動きを妨げることはない。

無重力空間では姿勢制御用マイクロスラスターによるストレスフリーな船外活動を保証。緊急時にはAIの介入でエアバッグになったり体勢固定等も出来る。

生命補助装置も当然組み込まれており、酸素濃度の自動調整や圧迫止血等も行う。

体内から放出される水分と恒星光を使って発電し動作エネルギーを補う為、酸素以外は補充の必要がない。


ヘルメットにはカメラやマイク、腰部には全周センサーを搭載。着用者へ情報の提供を行う。

他種族との円滑な会話が可能なコミュニケータも標準装備。

ヘルメットを外した状態でも翻訳会話出来るように、首元にも指向性スピーカー等が付いている。

軍用と民間用の違いは追加装甲の有無程度である。


NASAで使うようなアストロスーツと違い、かなりスリム。シルエットはスペースXのスーツとかガンダムのノーマルスーツに近いかな。



◯コミュニケータ


AIに登録された種族言語から自動翻訳、相手との会話を円滑にする装置。

保存されている言語データは膨大で、すべてを把握することは一個体にはもはや不可能とまで言われている。

あらゆる送受信に対応しており、発声器官が存在しない知的生命体とすら意思疎通可能。

未知の言語を受信した場合は推論エンジンにより自動で言語収集翻訳を行う。


種族に合わせて多数のバリエーションがある。

ネックレスタイプや体内に埋め込むタイプ、網膜投影で文字のみ対応等、用途に応じて様々な仕様がある。


昨今、コミュニケータに頼りっぱなしで自分の種族言語を忘れてしまい、上手く喋れなくなる"コミュ症"という社会問題を抱えている。

この問題を解決するため、宇宙労働者協会では積極的な郷土言語での応答が推奨されている。


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