艦長のえっち
俺とミユシスは着替えを済ませて家を出る。
さっき一応何の連絡も無しに外泊したのだから、サンパチに連絡を取ったのだが…
<<問題ありません。艦長が昨晩どういう状況だったかは把握しています>>
「いやなんで知ってるのかな!?」
何故お前が知っている。たしかにあの家の気密はスッカスカだが、船まで聞こえるようなもんではないだろう。
<<お忘れかもしれませんが、ヘルメットデバイスは私に直結していますので状況把握は容易です>>
プライバシーが無いのはミユシスの家だけではなかった。俺にも無かった…。
「…ま、まぁ?大人同士だからな~?こういう事もある……所でライムは?」
<<…艦長がフォローしてください。私は最大限努力をしました>>
「…どういうことですかね?」
俺とサンパチの通信を聞いていたのか。ライムが割り込んでくる。
『…艦長』
「あぁ、ライムおはよう。昨晩は済まなかったな、報告聞きそびれて」
『いえ……昨晩は…その…』
「…いやぁ~俺は記憶がなくてだなぁ?」
…何故ライムも知っている!?あ、私は最大限努力をしまたしたってこれか。そこはなんつうかこう、オブラートに包んでおけよ!
どうする…保健体育の授業だけは真面目に受けた俺だ。まず1から教えて…
『………艦長のえっち』
「!? おいライム!どこでそんな言葉覚えた!!」
<<注釈、私は教えてません>>
「じゃあやっぱシイタケか!?おのれキノコゆるざんっ……あー、ライム?大人にはそういう裸のお付き合いというのがあってだなー?まだ子供のお前には」
『…知りませんっ。セクハラですぅ!エッチなのはいけないと思いますっ!!』
「違ーう!!違うんだ!!これはとても重要な営みであってセクハラでは…おい応答しろライム!ラーイム!!」
・・・
すっかりライムには幼女に襲いかかる変態スケベ男と誤解されてしまった。
どうにか村の方に呼び出して朝食の席にはつかせたが…まだ俺から顔を背けてやがる。
はぁ、思春期の娘を持つ父親のお気持ち。何時の間にか随分人間らしくなっちまって…いや元からか。
そんな朝食の時間。村人達が炊事場に集まってワイワイと準備を始めた。
彼女達は朝はしっかり食べる。その朝食時にはミユシスの挨拶は欠かせない。
いつも通り、食事の山に祈りを捧げるミユシス。だがなんか今日はぎこちない。
「うぅ…森の恵みに、皆が感謝、を……ふにゅぅぅ~~」
「お、おい…平気か?」
「だ、誰かさんが一晩中動いてくれたせいでの…こ、腰がまだ」
はいはい、全部俺のせい。そんなミユシスの様子を見て、ピーンと来た者もいるのか。
なんかコショコショと俺とミユシスを見比べては内緒話に勤しむ村人が多い。
あぁ~~~もうっ!はいはい俺のせい!!
もうこうなりゃ開き直ってやる。どうせ近い内に村人全員…とはいかないが、俺が頑張らにゃならんのだ。
ハーレム上等だおらぁ!童貞捨てた俺を舐めるなよ!
「おい皆!朝飯の前に聞いてくれ。俺は昨晩、ミユシスを抱いた!」
「おいぃ!?ケン、何を言い出すんじゃぁ!?///」
「俺はミユシスの事が好きだ!だから抱いた!子作りした!!」
ざわっ、と声があがる。無理も無かろう。
「なっ、あぅ、うぅぅ~!やめよバカモノ、皆の前で…」
「いーや大事な事だね。愛してるぜミユシス」
「んなぁっ!?///」
おぉ~っと今度は感嘆の声。よーし乗ってきたぞ。
村人達の目をまっすぐ見て、さらに続ける。俺は息を吸って更に声量を上げた。
「俺は先日、君たちの神に会った!!神は言ったぞ、俺がいれば滅亡は免れると!だから俺は神の許しを得て皆に問う!」
ライム、俺の側に来てくれ。そう目配せすると、ライムは俺の隣に立った。
「彼女を見ろ!この娘はライム!神に授けられた新たな娘だ!彼女は賢く強い…新たな村の希望だ!!彼女のような立派な子供がもっと欲しいか、どうだ!?」
村人達はわぁわぁとリアクションを起こしながら俺の言葉を聞く。
「子が欲しい者は俺の元に来い!俺は君たち全員を愛そう!番は一組だなんて決まり知ったこっちゃねぇ!!俺は男だ、逃げも隠れもしねぇ!!」
「族長や彼女のような立派な服が欲しいか?ならば俺とライムが作り方を教えよう。もっと効率的な食料採取がしたくないか!それも俺達ならば知ってる!!」
「なぁ、皆!この村を豊かにするために…将来もっともっと沢山の子供達に囲まれて、皆が幸せに毎日を笑って生きる為に!どうか俺を頼ってくれ!!」
俺は息をするのも忘れて、自分の理想を。彼女達、村人全員に伝えたい事を喋り切る。
上手く伝わっただろうか。言葉だけで全てを理解せよとは言えない。そんなもんはエゴだ。そうさ、これは俺の偽善だ。
でも俺はもう決めたんだ。彼女達を滅びから救うには俺が人柱になるしかない。俺程度の自己犠牲で彼女達が救われるならば。本望だ。
「…ライムの服、どうやって作る?」
「いい質問だな。君だって材料と技術があれば同じような服は作れるよ。作り方を知りたければいつでも教えよう」
「狩りより楽に獲物捕れる?木の実も?」
「楽…ではないかもな。でも毎日木の実を集めるより、何百倍も食料が手に入る方法がある。農業って言うんだ、聞いたこと無いかい?」
「私にも子供出来る?本当に?ケンは尻尾無い」
「出来る。何も問題ない。男が生まれるかは運次第だが…」
名も知らない村人達が次々と口を開く。なんだって聞いてくれ。
村人達は次々と俺に質問を。願い事を話しかけてくる…。
任せろ。全部俺に押し付けろ。必ず、救ってやる…だから。
「そこまでじゃ。皆、やめよ」
ミユシスが皆の質問を遮る。
何故止める。俺の覚悟を邪魔しないでくれ。
「…ケンは全能の神ではない。そなたら全ての願いを叶えれるような事はありえぬ」
「出来る。やるとも」
俺はまっすぐミユシスの目を見る。
ミユシスは一瞬悲しそうな表情を浮かべて。すぐに俺を睨みつけた。
「大馬鹿者!!!そなた一人で何が出来る!」
「何も全部一人でやろうなんて考えちゃいないさ。皆の力が合わされば…」
「わからぬのかこのたわけが!!そなたは100も生きぬうちに死んでしまう!あっという間に…居なくなって、しまうのじゃぞ…」
あぁそうさ。だから最後まで突っ走るんだ。
俺が出来なくても、ライムが。サンパチが。俺の子供達が。
いつかいずれ…。そのために、俺は死ぬ。
「何が全員愛してやるじゃ!その上ひとりで他にもあれこれ教えて回るなどと…そんな事を毎日しておれば100どころか50年も生きられぬわ!!」
村人達がざわつく。
…あぁ、俺が短命なのを彼女達は知らなかったのか。すまないな、俺は君たち程完成された生き物じゃない。
「…なぁケンよ。そなたのわしらへの忠義は実によく理解った。わしも近いうちに子を産んで幸せになれるじゃろう」
「……良いことじゃないか」
「良くはない!!それだけではならぬ!!」
ミユシスの目尻に涙が浮かぶ。
「…わしはセン族の族長として、神へ使える身として神の代弁者たるそなたに問う!そんな調子で…お主は幸せに生きられるのか!?お主は…幸福であると言えるのか?」
……幸せ、だと?
…幸せとはなんだろう。幸福、とは。
俺にとって彼女達が繁栄する事が最大の喜びでは無いのか。
俺は英雄になりたいのだ。星を救ったという実績が欲しいのだ。
……本当に。そうだったか?
「…なぁ、ケン。ケンよ、焦るでない。おぬしを一体何がそこまで追い込むのじゃ…?」
「……わからない。わからないんだ。…でも、皆の幸せを願うのは、悪いことか?」
「良いも悪いもない。ただわしはケンだけが擦り切れていくような幸せなど…要らぬよ」
俺は、生き急ぎ過ぎただろうか。
こんなにも小さな彼女を泣かせてまで。改革を急ぐ必要があるのか。
俺は短命だ。彼女達のように数世紀も生き永らえれない。
短命であるがこそ、俺達人類は必死に毎日足掻いて未来を作ってきたはずだ。
だが、その生き様が。彼女達にフィットするなんてそんな事。一体誰が決めたというのか。
…結局は。全部俺のエゴなのだな。
「ミユシス、俺が悪かった。でも俺にしか出来ない事もある」
「ぐすっ、知っておる。そなたにしか子種を強請れない、わしらだって悪いのじゃ」
「君たちは何も悪くない。神だって想定外だったと言っていた。だからこれは、運命のいたずらだ」
「ケン、もうよい。そなたはもっと自然に身をまかせて…肩の力を抜いて生きよ」
「…そうか。そういう生き方でも、良いんだな…」
「約束じゃぞケン。無茶をするでない。もう、わしとそなたは…番なのじゃからな」
そう、だな。
俺はもう一人残された異星人じゃない。ミユシスに子供が出来れば、俺は。父親になるんだ…。
……実感、湧かねぇなぁ。
「ケン、今度はキキルパの番だぞ。番になれ」
「だーめ!先にあたしと番になるの!」
キキルパとマルチルが俺にすり寄ってくる。
でもあっさりとミユシスに却下された。
「駄目じゃ」
「「なーんーで!!」」
「なんでっておぬしらはまだ子供じゃろうが。もっと大人になって出直せい」
「…だって。そしたらケン、死んじゃう。キキルパが大人になる頃には、居ない」
「あたしもう子作り…出来るもん!」
「じゃあキキルパもする!」
「だからだーめ!あたしが先!」
がるる!ぐるる!
「喧嘩するなら朝飯は抜きじゃぞ」
きゅーん!きゅふーん!きゃんきゃん…
鎧袖一触とはこの事である。族長の言葉と朝飯は何よりも重い。
「やれやれ…皆待たせたの。いただきますなのじゃ!」
『わーい!!』
・ ・ ・
朝飯の後、何人か村人に声を掛けられた。
彼女達も子供が欲しいとかそういう話だったが…今はとてもそんな気分になれない。
俺は時間をくれと言い、海岸に一人で来た。
地平線まで続く大海原。地形の影響か、砂浜に打ち付ける波は然程高くない。穏やかだ…。
「……艦長、おひとりで何をされているのですか」
「…いや。海きれーだなって」
「…そうですね」
ザザァ…ザパ。
「…なぁ、ライム。俺って馬鹿だよな」
「…艦長?」
「俺はお前たちのサポートがなければ何も出来やしないというのに。何を一人で全能な素振りで盛り上がってたんだろうな…」
「………」
穏やかな海辺。ちゃぷちゃぷ揺れる小さな波を見つめながら、俺はぼーっと自問自答する。
俺は何がしたいのだろうか。ケモミミ達を滅びから救いたいのは違いない。
でも俺の幸せとはなんだろうか。家族と認めた彼女達のために働きたいとは思うのは義務?
よく聞く話ではないか?老後、孫たちに囲まれて大往生するのは幸せな人生だと。でもそんなのはもっと年寄りが言うセリフだろう。
まだ俺は若い。今やりたい事はなんだ。俺が心の底から楽しめて、思い出に残るような。そんな事……。
「……きゅっ!海って本当に辛いんだ…」
ふと隣をみると、ライムが海水を指で掬って舐めていた。
そんな事をしでかす彼女を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「ははっ、当たり前だろ…知らなかったか」
「うー、データ上では知ってるんです。でも試してみないとなんだって実感が湧かないじゃないですか」
そうだな。何事も経験しなければ判らない。
そうだ。そうだよ。
俺はまだまだこの星について知らない事が多すぎる。
彼女達の生い立ちくらいは理解ったさ。地球によく似たこの星が未開のプライベート惑星だってことも。
でも。あの時、ライムと一緒にキャンプファイアーで照らされながら見た湖と星空のような。
あんな光景がまだまだ、この星にはあるはずだ。
「……ライム、俺と旅に出ないか」
「旅、ですか?」
「あぁ。気になってたんだ。色んな遺跡とかさー。もしかしたらお宝とか見つかっちゃうかも知れないぜ?」
「それは…楽しそうです」
ライムの耳がぴこぴこ揺れる。ふふん、興味深々ってやつだろう。
「んじゃ早速計画するか!まずどの遺跡が良いかな」
「ええと…旅に出るのは楽しみなんですけど。その、ミユシスさん達に先に説明されたほうが…」
「…なんで?」
「だってまだ戻ってきたばかりじゃないですか!きっと怒られますよ…?」
「いーやーじゃいーやーじゃ!旅に出たいんじゃー!」
「ちょっと艦長!ミユシスさんの真似、上手です…ふふっ」
「はははそうだろ!はよこーづーくーり!」
「盛り上がっとるようじゃのう」
「ははは…はっ!?」
俺達の後ろには何時の間にかミユシスが仁王立ちしていた。
俺もライムも一瞬で立ち上がってビシッと姿勢を正す。
「……旅、じゃとぉ~~~?お主というやつはぁ!しばらくはわしといちゃいちゃしてもよかろうに!!」
「…では艦長、ごゆっくり」
「おいライムずるいぞひとりで逃げるな!お前も一緒に来い!!」
「いえいえ…お二人の邪魔をするなどメイドのすることではムキューッ!?」
今度はキキルパとマルチルが現れて、ライムを羽交い締めにして捕獲する。
「ごめんライム、族長がライム家に運べって」
「おとなしくしてね?いい子いい子」
「何でですかぁ!?私なんにも悪い事してないです!」
「ライムそなた……昨日、わしらの営みを盗み聞きしておったそうじゃの?みかけた村人がおってのぉ…」
は?なにそれ。
「…どういう事だ?詳細報告しろライム」
「いえ!そんな事は決して!私は艦長のお側に控える為にほんの少しだけ家の外でお待ちしていただけですぅ!」
それは盗み聞きではない。ガッツリ聞いているという。
しかもライムの耳である。あのデカい耳なら村の外からでも感知出来そう、知らんけど。
それが家の前で…だと?ギルティ。
「キキルパ、マルチル。連行しろ」
「「はーい」」
「あー!助けてください!ショウユかけられて焼かれるのは嫌です~!」
「なんじゃ?ショウユって」
「兎に醤油かけては食わんだろ…さ、帰るか」
「やだー!私にもエッチな事するんですか!?エロ同人みたいにー!」
「おらぁキノコ!!やっぱ変なデータ送りつけてるじゃねーか!!通信だ!通信回線ひらけ!こらシイタケぇええ!」
いつもと何一つ変わらない、どたばた具合。
…今日も村は。平和だ。
1章はここまでです。
こっから先の2章はまだまだ書いてる途中なのです。
お仕事の合間にシコシコ書いてるので時間かかっちゃいます。今後はちまちま投稿するかもです。