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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
16/35

うさぎが1匹、うさぎが2匹

村への帰り道。行きに立ち寄った湖畔で最後の一泊。

帰りは気楽なせいだろうか。なかなかいい感じの早いペースでここまで着けた。

山頂に雪を湛えた、自然の山々に囲まれた湖畔は何度見ても美しい。キャンプするのにこれ以上の場所はそう無いだろう。


「テントはここに設置して、と」


地面に、圧縮されて小さくなったテントを置いて。紐をぐいっと引っ張るとあら不思議。

自動で膨張してみるみるうちに丸い寝床が出来上がる。俺がやることはアンカーで地面に固定するだけ。

膨らんだテントは俺一人で寝るには十分過ぎる広さだが…ライムと二人ではちょっと手狭かもなぁ。だが我慢するしかない。


そう、我慢するしかない。我慢だぞ俺。今日は無心で寝なければ。

たとえ狭いテントの中、夜中にすぐ隣で可愛い女の子が薄着で寝息を立てていても…だ!!

そもそもライムは部下なんだ、それに親戚の娘みたいなもんだろ。間違いを起こすわけには…


いや、シイタケの話によると男が生まれにくい問題を対策できてるのはライムだけだ。

つまりそのうち、遠くない未来に俺は彼女と……


「艦長?ぼーっとしてどうしたんですか?」


「い、いや!?ななななんでもない!…うん、腹減ったなと思ってたんだ。メシにしようぜっ!」


「? …確かに良い時間ですね。早速準備しましょう」


あー、いかんいかん…こんなスケベな事ばかり考えてたら皆に愛想つかされちまうぞ。

しっかりしろ、俺。


・・・


ライムは本当に器用だ。

池のそばにいた変な鳴き声で叫ぶカラフルなデカい鳥をあっさり捕まえ、捌いて調理を始める。

『僕は使わないから好きなだけ持っていきなよ』とシイタケに貰う許可を頂いた調理器具を巧みに使う。

元が半分調理ロボのAIだったせいかは解らないが、その技は鮮やかだ。料理が上手な女の子ってポイント高いよなぁ。


「うーん、胡椒とオリーブオイルがあればもっと美味しくなるのですが…」


「さすがに調味料は無かったもんなぁ。でもそんなの無くても普通に美味いぜ?これ」


「えへへ、おそまつさまです」


仮に墜落船に保存が効く調味料があったとしても…いくらなんでもとっくに腐ってるだろう。2000年物とかヤベーよ。

…しかし香辛料ねぇ。なんだかそう言われると故郷の味が恋しくなってくるな。

でもローストビーフとか作るには胡椒が必要だし、ミソラーメンなら味噌がいるものもなぁ…


「とりあえず船に戻れば、まだ少しは持ち込んだ食材もあるけど…いずれ増やせるようにしないとだな?この先ずっと全部塩味とか嫌だぞ」


「そうですね!やっぱり農業大事です」


うんうん、間違いねぇわ。胡椒の育て方とか一切知らんが。

……胡椒って植物だよな?ブラックペッパーとかいう鉱石だったりしない?帰ったらデータ調べよう…



・・・



ライムが作った渾身の傑作、皮がパリッパリで焦げ目完璧のチキンソテーを堪能し。

湖から汲んだ水で、食後のインスタントティーも頂く。あぁ、なんだか贅沢。

日もすっかり傾いて。湖面には宝石箱のような星空が映っている。

宇宙服を脱いで、インナーだけになった上半身で感じる夜風は爽やかだ。

村での暮らしものんびりしていて俺は好きだが…こういう自然豊かな場所で気ままにキャンプってのも癒やされて良いな。


「艦長はどんな本があると皆が喜ぶと思いますか?」


「…そうだな、技術書以外にもあれこれ童話とか作ってやるとかどうかな」


シイタケが提案した農業指南書。他にも色々必要だとおもうが、せっかく製本するならそれだけでは味気ない。

俺達は食後の暇つぶしに、そんな内容で雑談をしていた。


「童話、ですか」


「あぁ。シンデレラだとか白雪姫だとか……いや?地球文化そのままでは駄目か…?」


「くすっ、ケモ耳の生えたお姫様も素敵ですよ。一緒に新しくお話を考えませんか?艦長」


「お?やるかー?…じゃあそうだな、勇者が星の滅亡を救う話とかにしようぜ」


「ふむふむ…勇者はどうやって滅亡しそうな星に着たんです?」


「…あー…えーと…偶然だ!」


「偶然?都合が良いですねぇ。それでどんな星なんでしょう」


「えっ、そりゃこう…地球に似てて!んで…なんか未知の怪獣がいてぇ!勇者がだなー、頑張って住民を救うの!」


「ふふっ…それでそれで?」


「それで…最後は皆笑顔でハッピーエンドってやつさ」


「えぇー?もっと詳しく考えないとすぐ終わっちゃいますよ!勇者は一人だけ?仲間は居ないんですか?」


「そりゃ…居るさ!仲間が増えるのは王道だろ。当然、可愛い女の子なんかも……」


俺に寄り添って、話を聞くライムと目が合う。

篝火の明かりに照らされて、ライムの優しい笑顔が話の続きを待っている。


あぁ、駄目だ。そんな表情で見られると、何故だろうか。俺の鼓動は早くなる。

俺はそっとライムの耳に振れる。素手で触るとさも当然のようにふわふわで。それはマシュマロのように柔らかで、そしてじんわりと温かい…。


「……ライムの耳は触り心地いいな」


「…セクハラですよ?それ」


「え!?わ、悪い!そういうつもりじゃ…」


俺はすぐに手を離した。

そんな俺の慌てぶりを見てライムはクスクス笑って。俺の胸にぽすっと頭を預けてきた。


「ふふっ、冗談です」


「おまっ…訴えられるかと思ったぜ~!」


「そんなことしませんよ。それに艦長に触れられると、なんだか体がぽかぽかして…」


「……ライム?」


「もっと、触って…いいですよ?……でも優しく、してくださいね」


………っっっ、うわあああぁぁぁ!!駄目だってこんなの!完全にこの後ヤる流れじゃん!!

まだライムは0歳!赤ん坊なの!本来ならバブバブ言ってなきゃ駄目な歳なのにぃ!

ライムは体は大人で料理も上手くて見た目もマジ可愛くてどストライクっつーか、それがこんな雰囲気になっちゃったらさぁ!勘違いしちゃうというか~!


「…艦長?」


でもね!?俺達出会ってまだ1ヶ月も経ってないどころか!き、き、キスすらまだぁ!したことねぇってのによぉ~~~!

それがこんな俺達以外誰も居ない場所で二人きり、それでいてこんな密着状態だと童貞の俺には経験値不足っつーかぁ!!


「きゃーぷーてーん!どうしちゃったんですか?」


ライムは不審に思ったのか、ポスッ!と俺の肩を"軽く"叩いた。

空耳でメキメキメキ…と鈍い音も聞こえる。気がする。


「~~~ッッ!!??? ぐ、へっ!」


どれだけ訓練しようと、ライムの身体制御はまだ付け焼き刃だ。その"軽く握ったはず"の拳は、俺の肩にあっさりめり込んだ。折れてはない、たぶん。

俺の返すべき言葉はこのような雰囲気だと「いって~なやめろよぉ、お返ししちゃうぞ~?このこのぉ」のはずだが、現状お返しどころか軽口すら出てこない。悶絶。


「…あ。ご、ごめんなさい…また出力を見誤ってしまいました…」


「い、良いんだ……!ふっ、ぐぅ、おかげでっ、目が冷め、た…!」


俺はブルブル震えながらも必死で耐える。

わざとではないんだ。この程度の部下のやらかし、上司の、男の俺が耐えれなくてどうする。


「でも震えて…もしかして寒くなったんですか?温めないと……データ検索、該当あり」


しゅるっ、と。ライムが胸元のリボンを緩めて、背中にある服のボタンを外していく。

ゆっくりとメイド服を脱ぎ。ぱさり、と布地が地面に落ちた。俺は思わず目が奪われる。ゴクリと生唾も飲み込んじゃう。

肌着が星明かりで透けて、素肌が露出したその胸元を……

俺の体に近づけて。ふにゅっ、と。ライムの柔らかい肌が俺に密着した。


「うひょぉぉおっ!?」


「私の体温でどうにか…サバイバル指南によると、このようなシチュエーションの場合は肌を密着させることで体温の維持に効果があると」


ふにゅ、むにゅ。すりすり…


「あ、あわ、あわわわ」


「…如何ですか?あ、駄目です艦長逃げないでください。もっと密着しないと…」


ライムは生まれたてだが体はもう成人だ。ケモミミ原住民の基準で、という注釈付きだが。

んで、これがまたマルチルほど一部ボーン!じゃないにしろ。なかなか…破壊力の高いキュートなバディでして。

そもそも小さな体とはいえ、女の子特有ってーの?男とは違うきめ細かい柔らかな肌、それになんだか甘い匂いまでしてきてですね。

女慣れしてないプロ童貞の俺がこんなのされると……ええい鎮まれ股間!鎮まれぇ!無理か!?否、鎮まれぇい!


「だだだ大丈夫だ!もういい気にするなこの程度致命傷じゃない平気だ大丈夫だ」


「艦長?言葉遣いが変です!しっかりしてください!艦長!」


「もう十分温まったありがとう最高です大変危険です~!ね?もう離れていいから」


「…いけません震えもとまりません。何やら発汗も…!?大事を取って今日はもう寝ましょう!私がご一緒しますので!」


「んなっ、このまま一緒に寝るだとぉ!?いやっ、その、待てっ!」


「いえ待ちません。艦長の生存は最優先事項です。ほら行きますよ」


ライムは俺をヒョイッと抱えてそのままテントに敷いた布団代わりの寝袋へ…


「あーっ!駄目だってライム!俺にも心の準備が!そういうのはまだ早いってえええ!イエスロリータ!ノータッチ!!」


「ホント何言ってるんですか!?早いも遅いもありません、大人しくしてください!」


うわぁー!!このままじゃ!卒業、しちゃうぅう~~~!!

ええい、こんな簡単に終わらされてたまるか!

もう無心だ!無心で寝る!兎を数えるんだ…


うさぎが1匹…うさぎが2匹…


すりっ、しゅる…


ライムは無意識に足を絡めてくる。もう絶対に逃げられない。

くっ!感じるな数えろ…!兎が…


「ん……ふ、ぅ……」


今度は吐息が首筋に当たる。ぐっ、堪えろ!どうとでもなるはずだ…!


兎が114匹!兎が115匹ぃぃ!


ふにゅっ。むにゅん。


う、さぎ…!兎てめコノヤロ…!


「は、ふ…艦長の、匂い…すんすん…」


…~~~ッ!!…………!!!……………




・・・




ファミッ…チキチッ…(※鳥の鳴き声)


おはようございます。ケンタローです。本日も良い天気、心地よい朝ですね。ふっ…朝チュンしちまったか。

テントの外で昨日食った変な声の鳥も、昨晩はお楽しみでしたねと鳴いています。…まともなチュン何処?出ておいでよ、食わないから。

ライムは…彼女なら俺の隣でまだすぅすぅ寝息を立てて寝てますよ。…昨日あのあとどうなったって?

……別に何もありませんでしたよ。えぇ、まだ童貞です。


コイツ一晩中薄着で密着してくれやがってたもんなぁ~!?ご心配おかけしましたぁッ!!

おかげ様で俺の局部が血行良くなりすぎて大変元気になりました!…そういうわけでほとんど寝れてない。やっぱツレぇわ。

俺はライムの頭を優しく撫でてやる。勘違いとはいえ、苦労をかけた。ミッション判定A+だ。


「ん、ぅ……おはようございます、艦長」


「あぁ、まだ寝てて良いぞ?起こしちまったな」


「いえ、そういうわけには…すぐに朝ご飯の支度をしますね」


「まぁ慌てるな。その前に顔洗おうぜ。俺も起きたばかりだから」


「はい、そうしましょう。体の調子は如何ですか?」


「もうギンギン」


「ぎんぎん…?」


二人で顔を洗って食事を取り。歯磨き…?をする。

これはミユシスに教えてもらったんだが、村の近くで取れるこの黒い木の実を…口にいれて軽く噛めば、硬い繊維と泡が出てきて、歯磨きと同じ効能を獲る。

味はまんま歯磨き粉っぽい。数回噛むだけで口の中は爽やか、後味はちょっぴり苦い。

何でも石鹸代わりにもなるそうで、体の油落としにも使えるようだ。便利だよな。


・・・


朝飯も食って一息ついたら。再び出発。

俺達はニンジャーの上で雑談しながらのんびり村を目指す。


「そういえば…村の名前って無いんでしょうか」


「ん~?そういやそうだな…ミユシスが元々先祖代々が住んでたって言ってたし、セン族の村でいいんじゃないか?」


「他にも街の遺跡がいくつかあるようですが、どういう名称だったんでしょうね?」


「たぶんバウ村だとかミャーオ村なんてのもあったんだろうけど…それ言い出したら、この惑星は結局なんて名前なんだよ」


「あぁ~…シイタケさんに聞いておけば良かったですね」


「別れたばかりで通信で聞くのもなんか癪だし……もう勝手に名前つけちまうか!」


「この星の名前ですか…。セカンドアース、はもう使われてますよね」


「エデンだとか分かり易いのはもうあらかたなぁ~…うーん」


二人で頭を捻る。そんな真剣に考える必要もない話だが、道中暇だし。

ここひとつ、俺が。


「もう暫定でケモミミαでいっか」


「……また、艦長は安直に」


「だってこの星一番の特徴だぜ?」


「うーん…ではそう呼びますか?」


「あぁもうそれでいいだろ。ようこそ、ケモミミαへ!パスポートを拝見いたします、ってな!」


「…ふふっ、いつか宇宙港が出来たらそういうやり取りになるんですね」


そんな未来の為にもまずはとっとと村に帰ろう。何もかもそれからだ。


ニンジャーは俺達を乗せて地平線まで続く草原の丘をひた滑る。速度計は60m/sを表示していた。

◯ファミ鳥


体長100cm 体重50kg

ファミファミチキチキと鳴いている鳥類。

飛行する事を諦め、陸上を走り回る事に特化した。だがしかし全然足は速くないので捕食者にはあっさり捕まる。

卵を毎日産むため繁殖力がものすごい。肉に大量の油が乗っていて焼くだけでカラッと仕上がる。大変美味。


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