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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
14/35

ケモノ友達

…動け。

いつまで寝てやがる。動けってんだ!

さっさと!目を覚ませ!!


「……ッ、はぁっ!」


「ムキュー。モキュル、ミキュァ~」


「テメ、この、シイタケッ……ライムを、返せっ…」


「…ムキュ。モキューキュ」


シイタケがモゾモゾと動く。

どうやらコミュニケータを起動したらしい。


キュムーッ ムキュルル

『いやごめん、失念していたよ。君たちにはテレパス通じないんだったね』


「ライムを、返せっ……!」


モキュッキュ ムキュゥ

『あぁ、ごめーん。もう勝手に使わせてもらったよ。新しい命の材料にね』


「材料……だと?」


俺がまだ霞む目を凝らしてよく見ると、そこにはバラバラにされたライムが入っていた箱があった。

そして色々なケーブルが機械に繋がれ、それらはすべてケモノの耳が付いた子供の眠るポッドに。


「何を…した」


ミキュゥ ムキュム

『この子は失敗から学んで最新のバイオコンピュータを入れてみたんだ。テレパス会話だって出来るんだ、凄いだろう?』


「おま、え!まだそんな事を……もうやめろ!そんな事、俺達は望まないっ…!」


ムキュルル…

『……ケン、僕だってずっと地球人達と暮らしていたんだ。君たちの考えている事は理解したつもりさ』


「だったら!!こんな事しても無意味だって理解るだろう!!それにお前が作っちまった命は、このまま放っておいたら…!」


ミキューァ モキュル

『男性が生まれなくなったんだろ?それは僕が意図的にやったんじゃない。それに』


シイタケはゴソゴソと、棚の奥から厳重に密閉された箱を取り出した。

そしてその箱のロックを次々と外して。



ムキュルァ

『君は否定するけど…僕じゃなく君の仲間が望んだんだよ?そんな世界が欲しいって』



シイタケが壊れ物に触れるかの如く、慎重に箱から取り出したのは。

大事に保管していたのであろう、傷ひとつ無いパッケージに可愛らしい絵の描かれた薄いケースだった。


…何だ?あの青い縁取りの…中央の円盤は記憶媒体の一種か?

タイトルらしき文字も書いてある……


「……何て書いて…けも…フレ、っ!!げほっ!こふっ!」


まだ体が痺れているのか、呼吸が上手く追いつかない。

シイタケはその記憶媒体であろうパッケージを大事そうに触手で抱える。

もうタイトルは読めない。


モキューキュ

『あぁ~、まだ本調子じゃないだろう。無理をしないで』


「…ぐはっ、はぁ……おい、それ…」


キュキューッ ムキュルルルッ

『これかい?クルーの一人が僕にくれた宝物なんだ。ケモノ友達っていう種族がいっぱい出てきて平和に暮らすお話なんだよね』


「……ケモノ友達?」


モキュウウゥ! クッキュルルウ

『君地球人なのにご存知ないのかい!?これは僕に衝撃を与えた彼らの聖典さ!!もうすっごい感動しちゃってさぁ!』


シイタケは感極まってるのか、物凄いウネウネと蠢く。正直キモい。

だいたいなんだ聖典って…古代宗教の一種か?ホーリーバイブルは知ってるけどさ、読んだこと無いけど。


ムキュゥゥウ モキャァモキャァ

『一緒に視聴したクルー達といっぱい話したんだ!こんな素敵な仲間が居る星が、宇宙の何処かにあるに違いない!一緒に探そうって!!』


「…まさか。その聖典とかいう…物語を再現しようと?」


ムキュゥ!ムッキュルモキュウウン!ギュモルルルムキャァモキャァミキュウウウウウン

『鋭いね!最初の同士だった彼は道半ばで死んでしまったけど…僕は彼に約束したんだ!必ずこんな素敵な種族を見つけるって!』

『僕は生き残ったクルーにもこの聖典を共有した!そしたらどうだ、皆リラックスして一定の療養効果があるじゃないか!だから率先して視聴させたね!』

『そのうち彼らは色んなお願いを僕に話すようになったよ!こんなケモノ友達みたいな能力がもしあったなら…!』


シイタケがコホンッ、と咳き込むような仕草をする。

どうやってるのか、コミュニケータの音声を調節して声色を変えて再現劇まで始めた。


『すげーな、人間と動物のハイブリッドってか?イカれてるぜジャパニーズアニメ』

『イカれてるとは失礼だな。自分だって最後まで見て感動でむせび泣いちまった癖に。…隣の君も良かったよな?』

『いやぁ楽しめましたよ。僕にもあんな力があれば…フル装備行軍も余裕で出来そう』

『あんなフィジカルずるいって…無敵の力で俺TUEEEってやつじゃん。あれ?僕また何かやっちゃいました?とか言いながら敵陣突破までするんだろ』

『そもそもあんな何mもジャンプとか出来るならクソ重いジェットパックとか要らないよなー。訓練で準備する度に軍曹に絞られなくて済む』


『そんな軍隊あるあるよりさぁ……このフェネック娘って子、超可愛くね?』

『はぁ~~???アライグマ娘ちゃんのほうが可愛いぞなのだ』

『いやいやトキ娘ちゃんだろ、もう5周は見直せよ』

『俺は狼娘ちゃんが良いな、実家の犬に似てるし』

『なら俺はペンギン娘ちゃんのふわふわお腹を推す!!』

『いやいや貴様ら猫耳の素晴らしさも忘れるなよ!!にゃんにゃん言うんだぞ最高だろ』

『で、出たぁ~!!曹長それ王道すぎて逆にズルですよ!俺も猫耳メイドとかにご奉仕されてぇ~』


『…ふん、考察が足りんぞ貴様ら。狐耳の巫女少女に、なのじゃ~されてこそ至高』

『……大尉、あんた最高かよ…何処までも付いてくわ…』

『やっぱのじゃロリは最高っすよね…同士を一人じゃ死なせませんよ、大尉』

『お前達…!』


『だったらフェネック娘ちゃんも最高だろうが!?』

『ちげーんだよ!砂漠狐娘とのじゃロリ狐はまた別なの!!』

『あぁぁ語り尽くせねぇ!持ってくれ俺の寿命~~~!!』



『………って感じ?あぁ…あの時間は本当に楽しかった…。皆、僕は実現したんだよ。理想のケモノ友達をいっぱい…!!』


めっちゃ早口で喋るじゃん。すっげー触手もウネるじゃん。聞いてるだけで頭がおかしくなってくる。

布教すんなとは言わんが、死ぬ間際くらい大人しくしてろよ…。

……たしかに死に際は恐怖を忘れようと妙なテンションになるものだ。俺もついこないだそうだったし。


だとしても、それは世迷い言、と言うのだ。

マジで実現されては、ハードボイルドな現実世界ぶっ壊れる。宇宙の法則が乱れるの、色んな意味で。


モキュルル、クキュゥ

『…そして彼らの意見をすべてすり合わせて、僕なりに考えた結果が』


ぺちぺち!と触手で生体培養ポッドを叩くシイタケ。

あぁ、わかった…コイツ底なしに良い奴なんだわ。故郷に帰れず死んでいった地球人達の為に。叶えれることは全部やってやろうと。

でも情熱を傾けるベクトルが致命的に間違ってて…しかも例えそんな世迷い言であろうとも。実現してしまえる科学力持っちゃってたんだわ……

こいつに良心ってもんがあるのなら。俺が説得さえ出来れば…!


「……それでも、だ。命を弄ぶ何てことは…俺達人類の中では禁忌なんだよ。滅ぼすなんてもっと駄目だ」


クキュルルウ

『もしかしてさっきの事言ってるの?あれ冗談だよ』


「はぁ!?冗談だぁ!?」


冗談にしては質が悪すぎる!さっきまであんなラスボスっぽさ滲み出させておいて!

なんなら俺本当に撃たれたし!!非殺傷とはいえ、まだ足腰ガックガクなんですけどぉ!!


ムキュルル モキャァ

『そういう風に話したほうがミステリアスで盛り上がるじゃーん?君たち異星人に好き放題されて滅びる話って好きなんでしょ。インディペンデンスデーイって叫んだりするし』


シリアスな話なんぞ何処へやら。キノコ星人は妙に古臭い地球映画っぽいノリを俺に押し付けてくる。

この船に搭載されてた偏った記録媒体で学んだせいか?あまりにも時代にそぐわない古代地球人の趣向。

…もしかしてこのキノコ星人、引きこもりすぎて何十世紀も情報アップデートしてないんじゃない?

一度も宇宙に戻らず、ずっとこの星で変な研究を続けてたとしたら…いやもうそんな事は後回しで良い。


「……あー、とにかく!もうそういうのやめろ!そこのポッドで最後!おしまい!!」


モキュルル… ムッキュ

『えぇ?これで終わりかぁ…もっと色んなバリエーション作ってフレンズ集めたかったのになぁ…』


危うすぎるわ。そのうちこの惑星どころか銀河にまでケモ耳をつけるとか言い出しかねない。

…いや、そうだ。コイツが元凶って事なら…。


「おい、シイタケ…お前自分でやらかしたなら責任ってもんがあるよなぁ?」


クキュゥ

『製造責任ってやつかい?クレームは受け付けないよ』


「この船のクルーが語った夢を実現しちまった話は理解ったさ。なら…俺の願いも叶えてくれよ」


ムキュ?とシイタケは首をかしげる素振りをする。俺は騙されんぞ、そのモーションには。

聞くだけなら聞いてやるってか?じゃあ遠慮は要らん。



「今すぐ、この星に住んでる彼女達を…お前が生み出してしまった命を助ける方法を考えろ!滅びから救え!!」



モキュルミキャゥ

『……それが君の願いかい?』


「そうだ!!彼女達はもう立派な新種族…新たなステラノームだ!!確実に種を繋いで、将来銀河連盟の一員になれるようにしろ!!」


シイタケは、ムキュゥ…と考え込むような素振りを見せる。


このキノコ星人に頼み込めば、俺が星の海に帰るのなんて容易いだろう。

だが俺が居なくなったら彼女達はどうなる。ゆっくりと滅びの道を歩むだけだ。

助けを呼んでも彼女達の存在そのものがグレー。最悪、観察処分とだけされて助からない可能性すらある。


それに約束しちまったもんな。すぐ村に戻るって。


だから俺は腹を決めた。もう元の世界に戻れなくたって構わない。

だが彼女達だけは救いたい。救わないと。何の罪も無い、ひどく滑稽で哀れな生まれ方をしてしまった彼女達だけは。


モキュルルル クキャァ

『…滅亡って言うけど、君が性交して増やせば良いんじゃない?遺伝子的には大丈夫だし』


「えっ…出来ちゃうの!?」


そんなぁ!ちょっと熱血主人公っぽく格好いい決意を固めてたのにぃ!

振り出しに戻ってYouヤッちゃいなよ、とか折角のシリアスが展開がだなっ……!ちょっとくらいカッコつけたって…


クキュルル

『そりゃ出来るよ、ベースは君たちアースノイドなんだから。ただ男性が生まれにくいのはもうどうしようもないから…おっと準備オッケーかな』


シイタケが手元のコンソールを操作する。

隣にあった医療ポッドの中にあった培養水がゴボゴボと音を立てて抜けていき、派手な蒸気を出しながら扉が開いた。


モキュキュ ムキュル

『僕よりこの子に頼んでいっぱい子孫を増やしてもらったら?彼女は改善した個体だから心配ないし』


ポッドからゆらり、と中に入っていた子供。

シイタケが嬉しそうに見つめている…気がする、少女が気だるそうに体を起こす。

濡れた、淡いカフェオレ色の長い髪。大きすぎるのか、自立すること無く垂れ下がる髪と同色のウサギのような耳。見つめ合うと吸い込まれそうな深緑の瞳。

ミユシスが太陽なら、この子は月の女神のような。そんな不思議な気配を感じる。


クキャァムキュルル

『そういうわけなんだけど君も良いよね? ライム』


……ライム?



「…はい、わたしは…きゃぷてんのにんむをほじょをするのがしめい…それがえーあい…あらため、にんげん…?」



………?????

いや何言ってんの?このお嬢ちゃんはライムじゃないが???

ライムはサンパチのコピーで妹でニンジャ―ぶん回してショックガンに同期して戦闘ボットぶっ飛ばせるようなナイスAIだが???


「どういう事だ……まさかお前、ライムを…AIをそのままインストールしたのか!?」


ムッキュ

『うん、一応本人の許可は取ったよ』


「うんじゃねーよ!?許可以前に無理だろ!!あんな大容量データ、人間の脳みそで処理できるわけが…そもそもどうやって!?」


クキューモキュル

『すごいでしょ?僕が1500年研究して作ったケモノイドバイオコンピュータはもはや君達基準の性能じゃない』


「…つまりどういうこと?」


クキャァ!ミキュモキュ…モキャァ

『君が集落で会った個体をさらに強化して、クアンタムコンピュータを超える速度で情報処理する能力を付与したって言えば理解るかな~』


俺の目の前で気だるそうにポッドの中で座る少女。ライムをインストールされてしまった彼女は。

ミユシスのように人間より遥かに長く生き、バカでかい大型生物を倒せるような並外れた身体能力、さらにはAI顔負けの情報処理速度を持った新人類って事…?もはや人間ですらない。

無茶苦茶だ。俺がLv1の村人でキキルパがLv100の戦士なら、眼の前の少女はLv9999の魔王みたいなものだ。キノコの趣味で無敵のバケモンが爆誕しちまったぁ…!!

どんなファンタジー生物だよ、誰が制御出来んのこんな娘。


「きゃぷ、てん……」


「…本当にライムなのか?そこのキノコに言わされてるだけとかじゃなく?」


「はい、まだにんげん…の、そうさほうほう、しゅとくに、じかんがかかります…」


「わかった!もう良い、何もせずガッツリ休んでろ!これは命令だ、いいな…?」


「……りょうかい、しゃっとだうんしーくえんす、かいし」


「バカヤロー!?人間がシャットダウンしたら死ぬだろうが!?目をつぶって大人しくしてろってことだぁ!!」


「めいれい、へんこう……ねます」


「うんそれそれ!良い子だから寝ようね?はーい、おやすみしましょうねー」


「おやすみなさ、い………」


あぁもうとんでもねぇ事になっちまった……とりあえず大人しく俺の言う事は聞いてくれるみたいで助かる。

何はともあれ……


「…やいキノコ星人。お前にはまだまだやって貰いたい事が山程あるぞ」


ムキュルル

『なんだい?君のお願いはもうさっき聞いたじゃないか』


「俺の希望は彼女達の未来だってのは変わらねぇよ…」


きっとこれから色々な苦難があるのだろう。

だが何とかする。サンパチやライムの力を借りて。

当然、目の前のキノコ星人。シイタケにも大いに協力してもらわないといけない。

むしろ手伝って貰わんと困る。

これからの事を考えると俺に出来る事なんて微々たるもんかも知れない。


だが、まず最初に。可及的速やかに対処せにゃならん問題がひとつ。


「そんなだいそれた事よりまず!今すぐ!ライムの服を用意しろ!!下着もだ!!」


……さっきから色々見ないようには努力してるんです。

くっ、少しでも気を抜くと視界の端に秘密の花園が…ッ!静まれ俺の股間…!

なぜかプレイエリアの外にならないんだもの。俺は紳士。


クキュゥ

『君たちって服に拘るよねー…この部屋は生体に最適な気温に保たれてるしいいじゃん』


「倫理の問題だ…!必要なの!絶対に!つか服着ないのはお前らキノコ星人だけだろうがっ…!」


モキュゥゥ クキャァ

『はいはいすぐ作るよ。デザインはどうする?僕的にはメイド服か、童貞を殺す服が良いと思うんだけど』


なんだ?その童貞を殺す服って……誤訳か?なんか大変よろしくない語感だ。危うい。

まだメイド服とやらのほうがマシな気が……いやメイド服ってどんなのだっけ?

くそ、咄嗟にAIでイメージ検索出来ないのってもの凄く不便だな。


「…俺はテレパスでイメージ受信出来ねぇ。コンソールで見せてくれ、選ぶから」


クキュルル ムキューモキュ

『不便だなぁ地球人って。…ほら、コレがメイド服。いいかい?メイド服には種類が沢山あって、こっちが正統派の…』


「…ほうほう……むぅ!?これは駄目だエッチ過ぎますぅ!……いや、こっちなら……」



とりあえず。身近な所から片付けていこう……

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