俺のために争わないで
「あのぉ…マルチルさぁん?」
クゥーン。キュゥ~ン、と。マルチルが頬を染めて俺の頭にギュッとしがみつく。
その瞬間、俺は無意識に全神経を後頭部に集中させてしまう。
このプレッシャーは…!俺が直撃を受けている!?ええい!
マルチルはその、胸部の成長がね?ええそれはもう、大変に健康的でして。
そんな男には抗いがたい、山が!つーかおっぱいがぁ!!今あたって!危険です!おさがりください、大変危険です!
「ね、ケン…あたしも番にして?」
むにゅ、もにゅん
「くっ!!ダメだ、マルチル離れろ!俺を爆発させるつもりか!?」
「やだ、良いって言うまで離れない…」
もむにゅん
「ぐおぉぁっ…!」
頼む、やめてくれマルチル。その術は俺に効く。童貞に過度な刺激を与えないでください。
「むぅ~!」
それを見ていたキキルパが俺をベリッと剥がしてマルチルのと間に割って入ってくれた。
た、助かった…?危うく柔らかさと刺激でオーバーロードして自爆しそうになったぜ…深呼吸、深呼吸だ。
「マルチル駄目!ケンはキキルパの獲物!」
「…やだよ。ケンはあたしの」
「ケン、キキルパが世話してる!餌あげてるのいつもキキルパ!」
「…あたしだっていつもいっぱい一緒にいるもん!それに…温泉だって一緒に入ったもん!」
「…がるるるっ!!」
「ぐるるぅ~!!」
あれ?俺が精神統一して息子を落ち着かせている間に一体何が…
なんかお二人共険悪な雰囲気になっておりませんこと?
「今日こそ決着つける……」
「お姉ちゃんが負けるわけないでしょ……」
がう!がうがう! わんわん!!がうがうがう~!!
がるるる!ぎゃううう!がるるぎゃふがう
とうとうお互いに取っ組み合いが始まってしまった。割とガチに。
姉妹喧嘩の勢いは凄まじく、そのへんに置いてあった壺は互いに必殺の一撃から放たれる拳圧で倒れて割れ。
両者がっしり掴み合ったと思えば、もみくちゃになりながら地面をそのまま転がりだす。
何事かと他の仕事をしていた村人も手を止めて一斉に見物し始めた。
「倒す!!キキルパ邪魔するやつは、敵!!!」
「負けない!!ケンだけは譲らない!!!」
ぐぎゃうがるる!べしべしげしげし。
いぬのこ ころころ きゃんわんわん。
あー!やめてぇ!なんかよく判らんけど俺のために争わないでぇ!!
「これー!何をしておるか!!」
誰がどう見てもどったんばったん大騒ぎだったせいか、ミユシスがすっ飛んできた。
族長ーッ!!待ってたぜぇ!!どうにかして?
「ミユシス…!それが急に二人が喧嘩をはじめちまって」
「そんなの見ればわかるわい!一体何が…」
ぐあるるる!ぎゃわん!ぎゃぁうがうがうがう!!
「ええい、二人共いつまでやっておる!!やめぬか!!」
ミユシスの一喝でふたりはピタリと喧嘩をやめた。やはり族長の言葉は何よりも重い。
「だってぇ!マルチルが!」
「ちがうもん!キキルパがぁ!」
「あーもー!ふたりともおすわりじゃっ!!」
ぺたっ、と即座に座り込む二人。もとい、二匹。よく訓練されておる…
「まったく…なんじゃケンの前でみっともない!それで、何が原因じゃ?」
「だって…ケン、キキルパと番になりたいって」
「…なんと?」
ミユシスの耳がピクッと揺れる。
違うんです族長様。弁解を。
「違う、違うぞ。そうじゃない」
「そうだよ違う!ケンはあたしの番になるの!」
「待て待て待て!!どっちも俺は許可してねぇ!」
「ケン、キキルパの尻尾さわった!なでた。えろい事した!」
「だーかーらー!!」
「……ケン?」
ミユシスの体がワナワナと震える。尻尾の膨らみ方も尋常じゃない。
いえ本当に違うんです族長様。何卒、何卒釈明の機会を
「言い訳させろ!!しっぽお触り厳禁とか知らなかったんだって!だいたいだなぁ~俺がそんなの」
「おすわりじゃ」
「はい」
俺もか……
「……お主という奴はぁー!!キキルパはまだ91歳じゃぞ!そんな幼子に手をだすなど~!!」
……この後、俺はミユシスにたっぷり叱られた。
尻尾はお触り禁止なんてローカルルールなんて知らんて。つーかキキルパもやっぱ俺よりめちゃ年上なんすね。
この惑星基準だと、91歳って9歳って事か…うん、事案だね。ちなみにマルチルも同い年だそうです。胸の大きさは大人なのにね…
尻尾の件は伝えておかなかったワシにも責任はあるが…と一部譲歩はしてくれたけど。まぁそりゃ怒られますわ。
「まったく…ワシの尻尾ならいつでも空いておろうに…/// ぶつぶつ…」
<<艦長、お取り込み中の所すみませんが>>
「……終わったか?」
<<大変お待たせ致しました。データ移行、終了>>
「よし。じゃあさっそく」
「こりゃケン!まだ説教は終わっておらぬぞ!!」
俺が立ち上がろうとすると、ミユシスは逃すまいと思いっきり顔にしがみついてきた。
変に振り払おうとするとまた尻尾に触っちまう~~~!
「もう、勘弁してくれぇ~!大事な仕事がはいったんだ~!!」
「仕事じゃとぉ~?そんな事より番にするならまずわしを……聞いておるのか!ケン!!」
・・・
俺はどうにか説教を受けきった後…
ミユシス達に住民の生い立ちと関連しそうな、重要な手がかりが見つかったこと。
そして調査で最長1ヶ月ほど空ける事を伝えた。
「…本当に戻ってくるんじゃな?お主が居なくなってもらっては皆が困るのじゃ」
「理解ってる。心配するな、ちょっとした散歩みたいなもんさ」
「絶対じゃぞ?すぐ帰ってくるのじゃぞ?ぜーったいじゃぞ?」
「大丈夫だって!すぐ戻ってくるから…な?」
「…やっぱり寂しいのじゃぁ」
ミユシスがキューンクゥーンとものすっごく寂しそうな声で鳴く。
うーん、ちょっと出かけるだけなのに物凄い罪悪感が……
だが俺は行かなきゃならんのだ!きっと何か手がかりが見つかる!
それに墜落船といえばお宝だ!土産のひとつくらい…
……ミユシス達が喜びそうな物ってなんだろうか?
俺の経験上からすると…あ、俺女の子相手にプレゼントとかした事ねぇわ。
逆に貰った経験も無いね!デート?それも無いね!…俺も泣きそう。
「ケン、キキルパお守りやる」
「お守り?」
「きのう拾った。持っていけ」
キキルパに手渡されたのはドッグタグだった。ワーオ、初めて女子からのプレゼント嬉しいー!
表面の文字は削れてしまってもう読めないが…何処のコロニーの言語だろう。
しかし俺はこれで確信した。やはりこの星にはステラノームが居たんだ。
きっとあの墜落船がそうに違いない。
「サンキュー、キキルパ。大事にするよ」
俺はドッグタグをグローブの手首に巻きつける。
似合うかな、とキキルパに見せると彼女は満足気にコクコクと二度頷いた。
「わ、わしも何か」
それを見ていたミユシスが隣であわあわとポケットというか服の裾を弄りだす。
…いや巫女服ってポケットあんの?無いよね???
「無いのじゃ…なんにももってない……キュフーン」
しょんぼりしているのか、ミユシスの耳はぺたーんと寝てしまった。
解りやすくて便利だなぁケモミミ。
「良いって気にするな。それより無事を神とやらに祈っててくれよ?得意だろそういうの」
「…うむ!それならわしの本職じゃ!毎日しっかり祈るとしようぞ」
「あぁ頼んだぜ。じゃあ」
「ケン、待って!」
俺が船に戻ろうとすると、マルチルに呼び止められた。
「あたしのも……」
そう言うとマルチルは俺の手を取り。
自分の尻尾とお尻をグイグイと当ててきた。
「ちょっ!?」
「……本気だから、ね?///」
そういうとマルチルはタタッと軽い足音で走り去っていってしまった…。
「ケ~ン~?」
「どわぁ!?ミユシス今のは違うぞ!?俺から触ったんじゃない!!」
「……ふんっ。まったくおぬしという男は…」
…女たらしとでも言いたいのか?それともロリコン変態野郎ですか?
「ちゃんと帰ってこないと……ワシの尻尾は触らせてやらんからな!///」
「あっ、はい…行ってきます」
「ケン土産、肉が良い」
「善処しまっす」
「ホントに気をつけるんじゃぞ~!!」
俺は振り返らず、手だけ振ってそそくさと村を後にした。
まったくなんて村だ。こんな面白おかしい所、すぐに帰ってこないと。