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惑星ケモミミα  作者: 梅しそ ほろろ
1章 ケモミミの惑星
1/35

ここから入れる保険があるんですか?

人類がひとつの惑星上に住み続ける限界を悟った頃。

新たな住処となるフロンティアを求め、星系の外へと船出を始めた時代。

銀河の四方八方に散らばっていった彼らは、旅をするうち自分達とは全く異なる別の進化系統を持つ…高度な知的生命体達と邂逅していった。

同じ銀河の中で育った異兄弟達は、互いを学び、時に争いつつも。急速に星々の地図を書き込んでいく。

見た目こそ全く違えど、何処か考え方や目的が似通っていた彼らは。

大いなる困難を合意し、遂に一つの国とも呼べる集合体。宇宙銀河連盟の設立を宣言した。


しかし旅先で出会う互いの個を、おぉ連盟民よ!と呼ぶのではなんとも仰々しい。

故に、旅人達は出会う相手にはお互い敬意と愛着を込めてこう呼ぶ。


同士よ、共に征こう。我らはステラノームだ。


誰が言い出したのか、その名称は光の速さより早く広まって定着し。今日も彼らは手を取り合いながらこの星空で懸命に生きていく。

多種多様な行動を行うステラノーム達。その目的は様々だ。

調査。探求。建築。商売。

生活、政治、外交、闘争…実に様々な理由で宇宙を漂う。


今日も今この瞬間、秒刻みで世界は広がっていく。

銀河の片隅で新たに見つかった辺境星系を開発すべく、大量の資材や人員と最新技術が惜しみなく注ぎ込まれるからだ。

だがステラノーム達がどれほど高度な技術を駆使して生存圏を広げようと。

どれだけ気を配って、命が失われないよう安全に注力しようとも。


それこそ、彼らが生まれて幾億年の月日が経とうとも。

決して"不慮の事故"という、運命の悪戯は無くならない…。





人類宇宙歴2240年

――― V1357 CYGNI SECTOR S-0付近 

船籍番号PSG-3810 種別:民間小型貨物船 乗船人員:一名 種族:アースノイド

緊急事態信号発報 ハイウェイ管理局へ救難要請





「Maydy,Maydy,Maydy!!本船は推力を失った!操舵不能、至急救援を乞う!!PSG-3810!」


コクピットのスクリーンに警告表示が滝のように流れる。

推進機損傷、燃料流出、外装温度上昇。読んでるだけでキリがない。警告音は鳴り止まない。

手早くコンソールを叩いて順番に対処をするも、ちっとも減らないエラーログ。まさに焼け石に水。次から次へと出る警報。

この船は一人乗り、対応出来る人間は自分だけ。出来る事なんてたかが知れている。

悠長に考える時間はもう残されていない。だったら助けを叫ぶ他に何が出来るというのか。


「ザザ…こちらケプラ航宙管理センタ…ガピピ……繰り返して」


「だーーーからヤバいんだってぇ!!このままじゃ燃え尽きて死んじゃうの!!速やかに牽引可能な船を寄越してくれない!?大、至、急!!」


「ザ……プ―――」


<<シグナルロストしました>>


「おい!!応答してくれ!!!本当にこのままじゃ…」


<<警告。本船は恒星に近づきすぎています>>


「んなこたぁ見りゃ理解ってますぅー!!」


眼の前にはとても大きな白色矮星。

前方の風景を表示するコクピットメインモニタ、それはもう真っ白に輝く。見慣れた宇宙そらの黒い部分が3割くらい。

良いか、白が7に黒が3だ。つまりもう無理、絶対絶命。

ここから入れる保険があるんですか?あっても見舞金受け取れない。受け取る頃にはもう居ない。


「ええい、サイドスラスタ全開!!船体を流すんだ!んでどうにか躱せ!!」


<<ネガティブ。本船の姿勢制御装置では恒星の重力を振り切れません>>


「駄目!?だったら何か対策を考えろ!早急にだ!!急げ急げ急げ!!」


<<スタンバイ>>


「……ねぇまだ!?なんか無いの!?こういう時ひとつくらい…秘密の機能とかあったりするだろ!?機体が七色に光って重力振り切るようなのとかさぁ!!」


<<……………>>


「~~~っ!!クッソがぁ!!」


俺はコンソールをバンッ!と音を立ててぶっ叩く。

そんな事をしても無駄なのは俺自身がよ~く理解ってる。

だがそうするくらいしかもう。俺に出来る事は無い。

画面の指示通りにあれこれスイッチを切ったり入れたりもした。

耳障りな警告音がするマスターコーションはとっくに全部キャンセルした。

救援も呼んだ。命乞いもした。あとは???


…もう俺に出来ることは何一つ。

ここからどうやって生き残れというのか。


こりゃもうダメだ。俺はこんな宇宙の果てで、恒星に焼かれて死ぬのか。

そもそも、どうしてこんな事に……




―――1時間前




「こちらPSG-3810、ハイウェイ管制聞こえるかどうぞ」


『ピロリロ……NAVビーコンへの接続を確認。本エリアへようこそキャプテン』


無機質な声で応答してくる、味気のないスペースハイウェイのAI自動音声。

感情のこもった人間が対応する管制など、今やほんの一握り。

それはそう。ここは母なる地球って名前のど田舎から、何千光年も離れた宇宙の果て。

俺達ステラノームが到達した世界の端も端。


そんな辺境で俺が何をしているかというと。所謂配送屋というやつだ。


『カーゴスキャンコンプリーテッド。イリーガルカーゴノーディクト。通行コードを受領。目的地までのセーフルートを送信』


「はいはいどうも毎度あり。で、今日の天気は?」


『現在の進路上にデブリは皆無、穏やかな状態です』


「そりゃいいや。シールドに余計な電力を回さずに済む」


宇宙船にとって船体を守るエネルギーシールドは大変重要だ。

本船は輸送船、しかも一人乗りの小型貨物船ではあるが。小型…と言っても全長は80mくらいある。

それでも惑星間光速連絡船のエクスプレス級だとか、軍が使ってる巡航艦なんかから見れば。本船なんて雑魚に等しい。

それに当たり前だが本船は非武装。ただの貨物船。

頑丈すぎるコロニーの外壁に大穴を開けれる巨大なメガビームカノンも当然なければ、小惑星採掘船みたいに岩石をスパスパ切り裂くデモリッションレーザーなんて物騒なのも持っちゃいない。


そんな丸腰の、荷物満載して長距離をのんびり飛んで行くだけ…に特化した本船でも。シールドだけはある。

むしろ搭載はどんな民間船であろうと義務付けられている。デブリは所構わず、何処にだってあるのだから。

たった一粒の石ころに、光よりも速く飛べる宇宙船が生身でぶつかればどうなるかなんて。想像に難くない。


だが。前方にそんな危険なものはありませんけど?とハイウェイを常時監視する管理衛星が言うのなら話は別だ。

シールドに使う電力をケチってメインエンジンに回せば、その分だけ目的地に着くのは早くなる。

さすがにシールドOFF、なんてのは船を制御するAIが許してくれないが。強度を増減するくらいの裁量権は艦長、つまり俺にあるのだ。


「サンパチ、シールド減らしてかっ飛ばすぞ。フルスラストだ」


<<了解、シールド密度マイナス50pt  エンジンブーストアクティベート>>


「さっさと現場に荷物降ろして一杯やりてぇ~。進路そのまま、最大船速!」


<<フルスラスト>>


ボォォォ…

船が軽く振動して、独特のエンジン音を奏でる。

遠目に見えていた赤や紫の惑星達をすぐに追い抜き、彼らはどんどん後ろに流れていく。速度計は毎時890光秒を刺していた。


ちなみにサンパチっていうのは当船AIのニックネーム。毎回PSG-3810とか長々と船名呼ぶの面倒だろ?俺が適当に名付けた。

別にポチとかタマでも良いんだが…それだと別の船に乗った時、訳がわからなくなる。

自分で買った愛船に名前付けるなら良いが、この船は会社の船。俺が降りて別の奴が乗ればまた呼び名も変わるってやつ。

それでも1回の配送で最低1ヶ月くらいは一緒に生活するんだから。多少は可愛がってもバチは当たらないと思うぞ。

ちなみに今回の仕事は積んだり降ろしたりで今日で89日目な。休みなんてねぇよ、マジブラック。


さてさて…そんな長ぁ~い旅の終点まで、あと10日は掛かると踏んでいたが。この調子なら1週間だなぁ。

たしかあの白色矮星を超えてもうちょっと行ったら最後の目的地、建造中のステーションが


カンッ ゴンッ


<<警告、船体に衝撃を感知>>


「あぁ?外装の固定でも緩んだか?」


<<スタンバイ>>


異常を検知したAIが即座に船体をスキャンする。

画面に映し出された表示には右舷の装甲板が黄色く表示された。


「シールド抜けてくるようなでかい石ころなんざレーダーに写って無かっただろ…しかたねぇ、念のため減速」



ズッ バァン!!



スロットルを緩めようとした矢先、今度は切り裂くような衝撃音。同時に俺はシートに押し付けられる。

明るいコクピット空間が非常用の真っ赤なライトに切り替わった。予備電源に変わった証拠だ。


<<Woof Woof 非常事態発生。乗員は所定位置に付いてください>>


「なんだぁ!?」


立て続けにコクピット正面、メインモニターへエラー表示がババババ…と、山程表示される。

目移りしてとても読みきれない。ていうかウィンドウに別の新しいエラーが重なりまくって何にも読めやしない。


<<本船は船体構造に深刻なダメージを受けました。非常プロトコルモード、APU始動>>


「何がどうなって…!おい、説明しろ!損傷報告ぅ!」


俺は急いでその辺に転がって浮いていったヘルメットを被る。

これでコクピット内から空気が抜けても多少の間は平気だ…。


<<ダメージレポート。ハイドロプレッシャー、1-9オールロス。メインエンジンフェイル。火災発生、自動消化中>>


「何がどうなってんだ……緊急停船しろ!さっさと端に寄せないと後続船の邪魔になるぞ!」


<<エマージェンシーフルアスターン。……リバーススラスタ再始動……出力低下、噴射エラー>>


メインモニタには艦首前方にボスッボスッと、断続的な噴射光が一瞬見えるも。

AIが言う通り、すぐにそれすら見えなくなった。あれ?これ止まれなくない?

逆噴射不能となれば……この船は宇宙をかっとぶ彗星、いやデブリと何ら変わりない。


「…おーいおいおいマジか!?だったら減速スイングバイだ!手頃なデカい惑星探せ!」


<<ネガティブ、リバーススラスタ無しでは大幅な進路変更が不可能です>>


「なんてこった…ていうかこのまま真っすぐ行った先は恒星だぞ!?」


<<推測では1時間29分42秒後に耐熱限界を超えます>>


モニタに船の進路予測と到達予想時間が表示された。

船は加速こそしていないものの、慣性で流れ続けて。このままの進路ではハイウェイから外れ、恒星の重力に捕まる。

赤いラインが引かれた"キルゾーン"の表示にまっすぐ突っ込むのだ。つまり死のカウントダウンである。


「うっそだろ…どうにかしろ!!俺をベリーウェルダンにするつもりか!?」


<<緊急対応マニュアル9項に基づき、トラクタービームによる強制減速の実施を提案。本船より質量が大きい艦船を隣接させて下さい>>


トラクタービームてのは大抵の船に付いてる、ワイヤーを巻き上げるウィンチみたいなもんだ。

対象の船同士をロックし電磁場を発生させて互いを引っ張りあう云々…だったか?免許取った時の勉強内容とかもう覚えてねぇよ。

難しい理屈はよく判らんが、とにかく推力を失った今はコレを使うくらいしか方法が無い。


「他の船に頭下げて頼むしかねぇってか…よし、ハイウェイ管制へ繋げ」


『ピロリロ…NAVビーコンへの接続を確認。本エリアへようこそキャプテン』


「聞き飽きたよそれは。PAN-PAN-PAN。本船は機関故障により付近の大型艦船へ救援を求める。レーザースコーク7700セット、PSG-3810」


『検索中……付近に該当船はありませんでした』


「だったらどんな船でも良いんだ!宙域パトロールくらい居るだろ!?」


『該当船はありませんでした』


…どゆ事?ど田舎すぎて周りに船が1隻も居ない?はは、そんな馬鹿な。

そりゃこんな宇宙の果てに好き好んで来る奴はあんまりいないが、今絶賛ステーションやらジャンプゲートとかを開発中のホットな宙域なのに?

でも俺達以外居ないんだって。そんな偶然ある?


「んなっ…だからこっちはエンジンぶっ壊れて止まれねえんだよ!!」


『ピポ…提案、緊急事態を宣言されますか?』


「あぁそうするよ!すぐに救援を寄越してくれ!」


『救難信号と座標を登録。ロードサービス到着まで5日と18時間です』


「…は?5日?」


『5日と18時間です』


「間に合うかこのポンコツがぁ!!!」


◯PSG-3810


ケンが所属する運送会社所有の汎用小型貨物船。商品名はコメットカーゴ。

人類宇宙歴2240年においてコメットカーゴシリーズはどの港でも見ることが出来る程に普及している。

補修部品が銀河中何処でも手に入る為、人気の機種になっている。

小回りの効く船体はランディングゾーンが狭いステーションにもドッキングが容易であり、小口輸送に大変使いやすい。

大気圏飛行能力も備えており、海面に浮くことも出来る。


リアルと照らし合わせるなら配送用の4トン積み中型トラックくらいの感覚。

あまり大量の荷物は一度に運べないが…末端輸送手段としては最適だろう。


TRAPPIST Heavy Industry製 "コメットカーゴ350" アースノイド仕様


全長:80m

全高:25m

全幅:40m(外部燃料タンクを含む)

船体重量:350トン

通常宙域最高速度:210m/s

スーパークルーズ:900光秒毎時

最大積載量:128トン

無補給連続航行可能距離:13光年

シールド耐久最大値:100MJ


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