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EX.ジャックの決戦

こちらをご覧になられてからの方が楽しめます。

https://ncode.syosetu.com/n0066ik/

 百万を超える敵軍を前にジャックが呪文を唱える。

「音よ、壁となれ」

 レンの周囲に音声の届かぬ防御空間が展開された。

「師匠!!」

 光の壁をレンが叩く。決意を決めた面持ちをする師匠を見て弟子が思う。この人は死ぬ気だ。

「師匠!!やめてください!!僕も一緒に戦いますから!!!」

 明るい茶髪の男が深く息を吐き、吸い込む。肺に空気を満たした魔導士が詠唱を始めた。

「連ケツせよ。再び開け アスタリクス・ホール」

 その一言で天に異界への穴が空いた。その門より流れ込んでくる恐ろしいほどの魔力にレンが目を見張る。

「ワレ ヒーリダス 朝焼けより紅なる門」

 レンからは何を唱えているのかは聞こえないが、ジャックは更に魔力をかき集める。体内にある魔力の器が平均以下のジャックが編み出した秘術、体外に魔力を留めておく技が男の体から金色の魔力を立ち昇らせる。

「師匠!!」

 凄まじい形相をしている師に言葉は伝わらない。ジャックはこれから起こる惨劇をその身一つに受け入れるため詠唱を続けた。

「嗚呼、成るべき結束よ。知りたる仲」

 ジャックは異世界に召喚されたことがある。その世界と通じる呪文があった。ケッして使いたくなかったが今は頼るものが他にない。仕方なしに茶髪の男が詠唱を続ける。



 天に空いた穴から響く呪文に金髪の女が神殿の中で言う。

「これはザ・ヤークの声」

「かつてこの地に訪れた勇者ですか?」

 続々と流れてくる詠唱にシャルロットが慌てて臣下達に命令する。

「一切を書き留めよ!! 一言残らず記録と記憶に残せ!! これは新たな聖典となる!!」




「気よ、オチケツ。ひっひっぷー、ひっひっぷー」

 落ち着くどころかケツ圧が上がる詠唱を茶髪の男が続ける。黄金色の魔力が異世界より流れ込んでくる。男の形相が更に険しくなった。とんでもなく魔力が臭う。

「師匠!!無茶です!!僕を使ってください!! 僕は貴方を見捨てるような弟子でありたくないんです!!」

 レンの声はジャックに届いていたが、それを聞こえぬふりをして男が呪文を唱える。

「通じよ。ω(オメガ)の民。出会えた幸運。決意の言葉『うん、こうしよう』」

 詠唱を続ける度に顔色が悪くなるジャックを見てレンが叫ぶ。

「あんな連中の命令で師匠が死んじゃ駄目だ!!!!」



「ザ・ヤークは強大な敵と戦っているようだな」

 そう言った金髪の女が臣下達に命令する。

「呪文を復唱せよ! 救世の勇者に魔力を届けるのだ!!」

「ハハーッ!!!!」

 かしずいた臣下達が異界より聞こえてくる呪文を繰り返した。黄金の魔力がジャックへ届く。



 嘔吐を堪えながら茶髪の男が呪文を捻り出す。

「地球のへそ『ウルル』

 地球のしり『ぷるる』」

 異世界で出会った少年から聞いた知識を呪文に乗せる。

「スリーセブン

 シリーヘブン

 尻天国」

 黄金色の魔力がジャックを包む。涙目で嘔吐寸前の師匠を前に弟子が防御壁を叩き続ける。

「振れーバーテキスト」

『尻「ぷるぷるぷるぷるぷる」』

『ケツ「ふりふりふりふり」』

 師の魔術の法則がもはや分からなかったが、目の前で繰り広げられる光景は凄まじいものだった。師匠は更に呪文を続ける。今にも死にそうな形相で。


「人型ケッ戦兵器」


『オシリダス』


 クサレ神と呼ばれる茶色の巨人が現れた。


「ケッツゴー!!」


 何体も召喚されたそれが百万の大軍へ向かって突き進む。


 唱え終えた茶髪の男が弟子に口を開く。同じく涙目のレンがジャックの唇の動きを読んだ。

 『ま・りょ・く』

 ここまでしても魔力が足りないから貸せということなのだろう。師匠を死なせたくはない。だがここで師を信じられなければ自分は弟子などではない。常人の数万倍以上あるレンの魔力がジャックに流れ込んだ。

 清浄な青い魔力が茶色の魔力と混ざり合う。ようやく鼻で息ができるようになったジャックが詠唱を始めた。

「ここからは俺のオリジナルだ」

 地脈を辿りこの地に水龍がいることは分かっていた。男が言葉を紡ぐ。

「水龍よ 我が声に応えよ 水を司る神」

 言葉と共に水龍に魔力が流れる。「神」などとただのおべっかで消費する魔力が安く済んだことに男は「チョロいな」と思った。

「おお 風のエレメント 竜巻となり混じり合い 雨となり降らせたまえ」

「他属性同士の魔法!?」

 初めて見る魔法の展開にレンが驚愕の声を上げた。魔法力学上、理論的には複数詠唱や機械などを使えば可能ではあるが個人でそれを行った例はない。

「ハーザー アーザー マリアドーゼ 結合せし闇よ 螺旋 決壊」

 常連の三女神を口説き落とす。この交渉にレンの魔力は使えない。ましてやお尻ワールドの魔力を差し出したら出禁になるだろう。いや、出禁で済めばいい。最悪殺される。ジャックが少ない己の魔力を振り絞った。

 魔力を渡し、女神の力を借りることに成功した男がレンの魔力を取り込む。体力と同じで魔力が枯渇すると上手く口が回らなくなる。魔導士の戦いはいつもそのせめぎ合いだ。

「女神よ!! その美で蠱惑を!」

 テンプテーションの魔法が水に混ざる。

「風よ!! 水流を雲が如き姿に!!」

 茶色の魔力と混ざった青い魔力が空へと押し上げられる。

「水神よ!! 雨となり降らしたまえ!!」

 ゲリラ豪雨が百万の大軍に降り注いだ。

 一息ついた男が告げる。

「仕上げだ」

 まだ漂っている臭気を放つ魔力を前に、ジャックが最後の呪文を唱える準備を始める。

「カウ君、フロッピ!」

「なんだー」

「呼んだか」

 マントの肩当からウシとカエルの人形が現れ、そう言った。それはジャックが戯れで使っている腹話術人形だと認識しているレンは困惑する。そんなもので何をしようというのか。

「聞こえるかシャルロット!! 聖典に記した俺の詠唱を読め! 俺の魔力でお前等の魔力を押し出す!!」

「お尻出す」

 天空に通じた穴から望まぬ回答が届いた。いや違う。彼女等にとっては了解の言葉なのだろう。最低の呪文が流れ出し臭気を帯びた魔力が天より舞い降りる。

「よくもやってくれやがったな」

 それは理不尽な怒りであった。命令を下した国家に対してではない。腹を下したケツ末の臭いが巻き散らかされることに対する、ただただ理不尽な怨念であった。

「カルク・ノ・ダ!! 暗黒よ! 闇よ!!」

 見たこともないほど険しい表情で呪文を唱える師匠。その肩に乗る人形が復唱をしている意味をレンが考える。もしかして師匠は元々一人で三重詠唱ができる人なのではないのかと。

「闇より深きもの 深淵より訪れる恐怖を彼の敵に与えよう!!」

 二人で行う二重詠唱ですら過去に成功例は8例しかない。ましてや三重詠唱など唱えた術者が魔力に耐え切れず爆ぜてしまったほどだ。

「ある者は天へと昇り ある者は地へと落ちる 我は全てを深淵へと帰す者」

 同時詠唱により呪文の威力は相乗される。肩の人形が独立して呪文を唱えているとしたら師匠は五重詠唱を行っていることになる。

 体内の魔力量が少ないために自分を三流魔導士と卑下する師匠が、常人には在り得ない技術を駆使して詠唱を続けている姿を前にレンが呟く。

「師匠。貴方は天才です」

 弟子の言葉がほのかに聞こえた。お前と違ってこうするしかなかったんだよ。皮肉な笑みを浮かべたジャックが天に向かって叫ぶ。

「お前等好みの呪文をくれてやる!」

 ジャックが異世界で会った少年の星の名を、この世界で解き放つ。

「惑っ星!!!!アース!!!!!!!」

 茶色に染まる水の惑星のイメージが撃ち出された。



 師が作った魔力の壁が消えた。赤毛の少年が涙ながらに言う。

「師匠、生きてて良かった・・・」

 鼻を摘まんで浄化の魔力を鼻腔へ流し込んでいるジャックが答える。

「すまん。お前を巻き込みたくなかった」

「いいんです・・・いいんですよ。師匠が生きててくれたら」

 涙を手で拭いながらそう言った弟子にジャックが告げる。

「ミッションコンプリートだ」

「どんな魔法を使ったんですか?」

 涙を流し嘔吐を続けている敵軍を見たレンがジャックに訊ねる。中には気絶している者もいた。

「精神系の魔術だ。だからお前に聞かせる訳にはいかなかった」

 茶髪の男が適当にそう答えた。こちらを信じるキラキラとした弟子の目が心に刺さる。

「敵とはいえ殺したくなかったしな」

「師匠のそういうところ好きです」

 笑いながらレンが言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず尻アスな展開で酷かったです。 楽しませて頂きました。 この調子でシャルロットさんの短編も読んでみたいです!
[一言] さすがすぎます!!!! ひどい話www
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