下層部の住人アマネ
「かっ返してください…」
そんな声が薄暗い裏路地から聞こえアマネは立ち止まった。
その日は珍しくキルが情報の精査に手こずっているとかで夜は休みとなり、久しぶりに昼間からバーでお酒を飲み気持ちよくなっている帰り道だった。
微かに聞こえた女性の声
ほろ酔い気分が一気にさめ、アマネはすぐさま声の方に向かった
裏路地に向かうと一人の女性が見えた
その前には大柄な男と背の高い男がいて女性に話しかけている
アマネは音を立てず男たちの背後に近づきナイフを背中にゆっくりとあてるちょうど人の急所である心臓のある位置だ
「そこで何をしてる…」
静かにそう告げる
「!?アマネ!」
すると刃物を当ててない背の高い男がこちらを振り向いた
「……ノッポ?何してるわけ?」
顔つきはいかついがひょろっとした男には面識があった
よく飲み屋や食堂で会う男で少し前まで下層部を牛耳っていた荒くれ者の1人である。
「アマネだと!」
すると今度は刃物を当てた男が声をだす
「…ゴリラ?」
アマネはゆっくりと刃物を下ろす
するとガタイのいい男はアマネの方を振り向いた
「ゴリラって名前じゃねぇけどな」
その男もノッポと同じく下層部を牛耳っていた荒くれ者の1人だった。
本当の名前は…忘れたいつも見た目の印象二人のことをあだ名で呼んでいる
「いきなり刃物向けるなんて酷いじゃねぇか」
「あんたらがそこの女性を襲っていたのが悪いと思うけど?…お嬢さん大丈夫?」
アマネは二人のそばを通り過ぎて怯える女性の側による
「ちげーよ!俺らはただそこの女がこれを落としたから拾って渡そうととしただけだ」
そう言ってゴリラが小さなポーチを見せる
「そうそう!そしたらそこの女が怯え出して…」
「なるほど、あんたらの顔がイカついの悪い」
「「なんでだよ!」」
アマネはゴリラからポーチを奪い取ると女性に差し出す
「あ…ありがとうございます…」
女性はポーチを受け取ると恐る恐るお礼を言った。
栗色の髪に淡い緑色の瞳、頬がコケるほどやせている、年齢はまだ10代後半ぐらい、若い女性だった。
「いえいえ、でもポーチ拾ったのはあいつら、ただ落としたのを拾っただけみたいだからお礼伝えてくれる?」
「あ…すいません…とんだ勘違いを…ポーチありがとうございます。」
女性はアマネの後ろで不貞腐れる二人にも謝罪とお礼をいう
「…まぁ、誤解がとければいいんだ」
「…そうそう、あとあれだ、昼間だからって裏路地なんて歩くべきじゃないね」
「そうだね。お嬢さんどこへ行こうとしてたの?近くなら送ってくよ?」
二人の言葉にアマネもうなづき聞いた。
数年前の悲惨な下層部よりだいぶマシになったが盗みや人攫いなどはまだ存在する
とくに日の当たらない裏路地は危ないため女子供は一人で歩くことは避けなければならない
「…えっと…ここに…」
そういうと女性はポケットから一枚の地図を取り出した
その地図をアマネはみる
「…ふむふむ…ここは…」
************
古びた木造建築その入り口には赤いのぼりが立っており大きくハガネ堂と書かれていた。
ガラガラ…
その家の引き戸を開ける
「いらっ…マリー!」
「おばさん、遅くなってすいません。」
ハガネ堂のおばさんが女性の存在を目にしてすぐに駆け寄ってきた
「到着時間より遅くなってたから心配したのよ怪我はない?」
「大丈夫です。すいません、道に迷ってしまって…」
「おばちゃん!この子裏路地でウロウロしてたよ。」
「ちゃんと伝えて置かねーと危ないぞ」
ノッポとゴリラがそういった。
「そうだったのかい!一応愚弟には伝えたんだけどね…まったく…」
ハガネ堂のおばさんはそういうとこちらを向いた
女性…マリーの後ろにアマネ、ノッポとゴリラ二人はハガネ堂に向かう途中だったらしくそのまま一緒に行動することとなった。
「あんたたちマリーをおくってくれたのね?ありがとう!…そうだ!今日は好きなのもの無料で提供するわよ」
「まじ!」
「やった!」
ゴリラとノッポは嬉しそうにガッツポーズをし近くの席に座る
「あー私はさっき食べてきたから…」
「お酒も3杯までなら無料で提供するよ?」
「いただきます!」
アマネはゴリラとノッポの席に相席した。
「マリーは荷物を置いてきなさい。あんたもご飯まだでしょ?」
「わかりました。」
「あっ!じゃあさ!マリーちゃん、これも縁だし一緒の席でどう?」
「!はい!喜んで!」
マリーが嬉しそうに返事をした。
「てか、アマネが一人でこんな昼間からいるの珍しいな」
「たしかに、いつもはあのネクラフードと夕方とかにここら辺にいるよね」
ゴリラが野菜炒め定食
ノッポは大盛りの生姜焼き定食を食べながら聞いてきた。
ゴリラは野菜好きの小食、ノッポは肉好きの大喰らい
見た目に反していることで結構有名なコンビである。
「キルのことそう呼んでたって伝えておくね?」
「やめて!」
「キル?」
アマネはお酒をゆっくりと飲みながらノッポにそういうと隣に座ったマリーがカレーを食べながら聞いた
「あぁ、キルは私の相棒、だけどなんか下層部のボス?みたいな立場でもあるみたい。なんだっけ?ゴリラとノッポ、ボコボコにされてたよね?」
「ボコボコなんて可愛いもんじゃねぇぞ、半殺し、いや殆ど殺されてたようなもんだ。」
「あぁ、思い出しただけで震えるね」
二人が顔を顰めてそういう
「こっ、怖い人なんですか?」
「うーん、悪いやつには容赦ないかな?だけどいつもは落ち着いてる感じ、あと困ってる人はほっとけないおせっかいなところがあるかな?」
キルが怖いと思ったことはない、というよりアマネにとっては恩人といっても過言ではない。
「たしかにおせっかいではあるな、半殺しにしといてなんだかんだキルが勧めてくれたから俺らは今の仕事についてるからな」
「最初はそんなことできるかって思ったけど、結構向いてたし」
「?お二人は何のお仕事を?」
「俺らはこういうもんだ」
「そういうとゴリラは首にかけたカードをマリーが見えるようにかかげた」
【下町警備隊 オリオ】とそう書かれていた
「俺も同じく」
今度はノッポが首から下げたカードを見せる
【下町警備隊 レイージー】
「下町警備隊…」
「下層部の見回りとちょっとした人助けをしてるのさ」
「まぁ、顔いかつくて人助けの大半は怯えて逃げられてるけどね」
「うるせー」
アマネはケラケラと笑うとゴリラはアマネを睨みつけた
そんな話をしながら4人は食事をとりおわった。
「ご馳走様!」
「おばさんまたくるね!」
「いつでも、いらっしゃい!!」
「私も今度からおばさんのお手伝いに出る予定ですのでぜひ来てください」
「マリーちゃんがいるなら来なくっちゃね!」