第11楽章その4 空(から)の記憶
読みやすいように、読みが難しい漢字にはルビを振っていますので、テンポよく読み進めていただけます。ぜひ、最後までお楽しみください。
焼けるような鬼灯色の空。高台から町を見下ろす少女に声を掛ける謎の男。その男の瞳がこの世界のヒトのものではないような気がして、その瞳をじっと見つめてしまう少女。
それが、先日思い出した映像。その男の笑みと、先日ネックレスを奪い返しに来たガニメデの喜んだ表情が一致するのだ。その映像を追いながら、音声を聞き取ろうと集中しようとするが。
「何か喋ったのか?」
「何歳くらいの時?」
「どんなシチュエーションだったの?」
アスカやアマリリスやジャンが次々と質問を押し付ける。これじゃ何も聞き取れない、と焦ったその時、男の声が脳内に鳴り響き、ハッとする。
「どんなシチュエーションだったかはわからないんですけど、年齢は多分6歳か7歳かそれくらいだったと思います。それで、ガニメデが私に向かってこう言ってきたんです。『キミは何が欲しいんだい?キミは何を望む』と。」
「それって・・。」
断罪者を生みそうなセリフに、誰もが息を呑む。
「それで、なんて答えたんだ。」
レツの問いに首を横に振る。
「ごめんなさい。そこから先はまだ思い出せなくて。」
答えがないことに、一斉に溜めた息を吐き出す。
「アルメリアが望んだもの、か。」
イアンが呟く。小さかった頃の彼女が望んだものをみんなで想像してみるが、生まれも育ちも違う彼らにわかるわけもなく。
「あと、もう一つ思い出したことがあって。」
アルメリアの言葉に、想像をやめてまた彼女の声に集中する。
「例の事故が原因だと思うんですけど、それまでの記憶を一度失くしているんです。」
「記憶喪失の時期があったってことか。」
「はい。」
確認の返事が肯定だったので、アスカは手帳にメモを残した。
「大体事故から2週間くらいの間です。それまでの記憶を失くしていた上に、自分が何者かも忘れていました。」
「ってことは名前も?」
「おそらくは。」
カンナの確認にも肯定するので、それもアスカは追加した。
「幸い、事故から2週間経ったくらいから徐々に思い出されていって、1年後には記憶もほぼ戻りました。」
「じゃあ、ガニメデと会ったのもきっとその頃だろうな。記憶が曖昧ってことは。」
「かもしれません。時期的にも合致しますし。」
アスカがペンを回しながら思考も回す。
「そういうモンは案外、当人さんに会ってみればすぐ思い出すかもな。」
「ガニメデに会う?ムチャじゃないか。」
カインの発想に、レツが眉を寄せる。
「会うと言っても、こっちから乗り込むわけじゃない。襲来してきたら間近で見てみればいいんだよ。」
「でも、前に会ったときには何も。」
アルメリアの眉間にさらに皺が寄る。
「それは、そもそもガニメデに会ったことを思い出していなかったからだろう。今度出くわした時に、何かしらキッカケがあれば、すぐ思い出せるだろうぜ、きっと。」
カインが腕を組む。
「そうだな。そう焦る必要はないさ。」
アルメリアの肩をぽんぽんと優しくたたきながらイアンが笑顔で声をかける。
「でも・・。」
それでも表情を曇らせて何かを思い出そうと頭を抱えるアルメリアを見て、カンナが背中から覆いかぶさり、気の抜けた声を出す。
「無理しなくていいよー。」
「そうそう。」
「ガニメデに関わることだから一生懸命思い出そうとしてくれたんだと思うけど、焦ったら余計思い出せなくなるよ。」
ジャンが頷き、カミルレもそれを肯定する。その言葉にハッと息を飲み、ハーっと大きく息を吐き出し、気持ちを落ち着ける。
「ガニメデはいつか倒せればいい存在。だから、思い出すのもいつかでいい。今、必要以上に苦しまなくてもいいさ。」
「確かに、そうですね。ありがとうございます、アスカさん、みなさん。」
みんなからのフォローにより、アルメリアに笑顔が戻る。
「そうですね。一歩ずつ、確実に、ですね。」
「うん、その方がきっといいよ。」
いつものアルメリアらしい言葉に、カミルレも笑顔で頷く。
「さあ、帰ろう。これ以上残ってると、先生に怒られるぞ。」
「やばっ。もう、こんな時間か。」
レツの言葉にみんなが慌ててカバンを手に取る。
「帰りましょうか。」
「おー。」
そう言って笑顔を見せる少女が、のちに再びターゲットになるとは、少女もそしてガニメデも知らなかった。
一段と冷え込み、起きるのが憂鬱になるほど寒くなったその日、ついに時は満ちる。緊急連絡のサイレンの音で目が覚め、画面に表示された文字を見て、ベッドから飛び起きる。ケータイのサイレンを切り、急いで準備をする。
「朝早ーよ。」
制服ではなく戦闘服に身を包み、大事に布にくるんでいた魔剣を掴んで、急いで階段を降りようとして、すぐ戻る。
「やべ、ケータイ忘れた。」
机の上に置きっぱなしになっていたケータイの画面には、召集のワケがはっきりと映し出されていた。
『大魔界と繋がる風穴を確認。まだ紫色ではあるが、数刻でワープエンドが完成する見込み。すぐに登校し、状況を把握せよ。』
「ガニメデじゃなきゃいいけど。」
そして今度こそバタバタと階段を降りていく。
「カイン。」
玄関から出ようとしたところで、パジャマ姿に目をこすりながら起きてきた母オリーヴに声を掛けられる。
「何、母さん。急いでるんだけど。」
ちょっとトゲのある言い方をしてしまうが、そんなことなど気に留めずに母は言葉を続ける。
「カイン、あなたたちに”いいこと”教えてあげるわ。」
「ん?いいこと?」
思わず振り返ったカインを、開かれたオリーヴの瞳がまっすぐ捉える。
「そう。とっても大事なこと。」
今までに見たことが無いほど深く捉えるその目に、カインはただならぬ雰囲気を感じ取り、思わずごくりとつばを飲んだ。
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