第10楽章その4 家庭の事情
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
新年の霊宅参りでは、1つの霊宅を祈祷するのに一刻かかることもしばしば。よって、周りを見ながら効率的に廻ることが疲れにくいコツなのである。精霊信仰の礼に則ると正しい参拝順があるらしいのだが、信仰の浅い学生彼らにとっては、疲労を蓄積せずに廻りきることの方が大事だったりする。
三刻分かけて残りの四精霊の分も済ませた後、人気のない建物の陰の方に場所を移し、眠い目をこすりながら情報共有をする。まだ、太陽が昇っていないため、明かりはカインとアルメリアの光魔法だ。
全員制服の内ポケットから小さなノートを取り出し、それぞれに集めた情報を開示していく。先の話、明日から司令塔が多忙につき、みんなでの話し合いが難しくなるため、今日ここで会議をしておこうとなったのだ。ホラ、水の精霊様の使いとしての任務があるからサ。ちなみに、学校もそれ関連の欠席は黙認している。
まず口を開いたのはフクシアだった。
「私、両親、いない。今、寮、ワンルーム、一人、住んでる。」
「学校直営の寮なんだけど、フクシアは特待科だから、家賃が特別安いんだよね。」
カンナが補足してあげる。
「弟たち、妹たち、働いてる、いろんなところ。毎日、大変。」
「お前の妹のカトレアちゃんって子、放課後センターのお手伝いしてるのな。」
「なんでアスカが知ってるの?」
アスカの告白に、カミルレが突っ込む。
「いや、オレの二人の妹がお世話になってる放課後センターにも、お手伝いで時々来てるらしいんだ。」
ガニメデに関わった理由として、やはり弟妹たちが関わっていたみたいだ。働いてくれている弟や妹たちを想う気持ちが暴走して、あんなことになってしまったようだ。
「カトレアちゃんは絵本の読み聞かせが上手だそうで。この前も『ドラゴンと勇者』を迫力たっぷりに読んでくれて面白かったって妹たちが興奮気味に話してくれたぞ。」
「私、その絵本、知ってる。」
「私も知ってます。わくわくしますよね、あの話。」
アスカが出した絵本のタイトルに、カンナとアルメリアが食いついた。
「私もその話を基にした舞台やったことあるなぁ。ドラゴンに捕らわれた姫役で。」
「確かにルーさんにピッタリです。」
カミルレの告白に、なぜかアルメリアのテンションが上がるが。
「でも、本当は、働かせたくない。」
「そうだよな。オレも、妹たちがもしも働きたいって言いだしても、・・うん、全力で説得にかかるだろうな。オレが何とかするからそんなことしなくていいって。」
懐かしい絵本に盛り上がるほかの女子とは対称的に、テンションの低いフクシアの想いに、アスカが寄り添う。
「もう一つ、理由。ガニメデ、正体、あやふや。何か、掴める、思った。」
「スパイ的な?」
「そういうこと。」
イアンの確認を肯定する。
「で、何かわかったのか。」
「うーん、ビミョー。でも、ガニメデ、毒、確かにある。」
「セレナとマリアのことは?何か言ってた?」
「元側近、解雇した。ガニメデ、否定したから。」
レツとアマリリスの質問に、フクシアがそれぞれ答える。確かに、マリアは言っていた。ガニメデのやり方は間違っている、と。
「どういうところを否定したのかは聞いたか。」
「いや、聞けてない。」
「そっか。」
カインの質問にも答えると、レツがフクシアの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「まぁ、何はともあれ、無事に還ってきてくれて良かった。」
「ふふ、くすぐったい。」
フクシアが笑顔を見せる。
「フクシアだけじゃないんだよ、日々苦労してるのは。みんな何かしら抱えてるし、みんな努力してる。そうでしょ、イアン。」
アマリリスに話を振られたイアンの目から、一瞬にして生気が消える。それにつられて二人の光も弱まってしまう。
「え、イアンて何かに苦労してるの?ストレスから1番遠い人だと思ってたんだけど。」
「えっとねー、イアンはね、女性不信なの。」
「え?普段あれだけ女性に絡んでいるのに?!」
ジャンの疑問に、なぜかアマリリスが答えると、カミルレが大げさに驚く。
「接し方を研究しているだけだ。」
ちょうどよくあったベンチに深く座り込んでうなだれてしまったイアンが強がる。その姿はまるで段ボールに入れて捨てられた子犬のようで、見るも絶えないほど縮こまってしまっている。
何を思い出しているのか、斜め下に落とされた虚ろな目からは唐紅の涙がこぼれる。珍しい光景に、みんなが耳を傾ける。
「酒に溺れた親父に愛想を尽かしたおふくろと、そんな馬鹿な親父の味方をする俺に激怒した姉貴と妹が、揃って消えた。もう4年は会ってない。」
みんなが聞くモードだったのもあり、気を緩めたイアンが自らその複雑な家庭事情を明かす。だが、その姿を見ていると、普段の明るい性格は作られたもので、オニアンの方が本来の性格だとわかるようだ。
「俺は、親父とおふくろと姉貴と妹と、5人で一緒に暮らしたい。おふくろや、姉貴や妹に・・会いたい。」
過去の走馬灯を見ているのか泣き崩れるイアンを見て、ずっと頭の上にあったレツの手を払いのけ、フクシアが近づいた。
「私たち、見捨てない。安心して、大丈夫。イアンも、守るよ。」
自分がレツにしてもらったように、フクシアがイアンの頭をわしゃわしゃする。
「悪ぃ。ありがとう。・・いいな、これ。」
嬉しそうにされるがままに撫でられるイアン。笑顔で夢中で撫で続けるフクシア。それをほほえましく眺める一同。そんなタイミングで太陽の光が木々の合間から漏れ始めた。
新年の黎明は、葉擦れとともに。まるで、彼らの未来を導くかのように、強く、明るく。
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