第9楽章その4 最期まで笑顔で
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
攻撃魔法のエスピリート・フレチャー。(精神の矢)
属性エネルギーを矢の形に練り上げるだけでなく、それを放つための弓をも形成しなければならない上に、その矢はまるで追跡弾のように意志によって狙いを定めるタイプのため、上級魔法として一般には魔法学校の2年生以上が覚える類の代物だ。それを、1年生にいきなり実践でやってみろと言うのはムチャな話だ。しかも、入試1位のレツが”難しい”と来た。
そのうえで、5人で息と狙いを合わせて放ち、合体魔法にして撃ち込まないといけないのだ。難易度が高いことこの上ない。
「その技が展開できれば希望はあります。逆に、ほかと言われても、多分手はないです。それでも、やりますか?」
「それは・・。」
やりたいけど、やらなきゃいけないんだろうけど。何かが引っかかって誰も決断できない。
「あ、雪。」
鉛色の空から舞い降りてきた真っ白いそれは、広げた手のひらの上で音もなく消えていく。
「この寒さの中で、これ以上寂しい思いはさせたくないね。」
アマリリスの言葉に、7人はそれぞれ静かに想いを固めていくのだった。
「あっ、雪だよ。」
「ホントだ。噴火してても降るんだね。」
「ねーっ。」
戦闘の代償に多少荒らされてそこだけポッカリと顔を出した場所で、月夜に照らされる4人。
「そうそう、カインくん。」
「はい、なんでしょうか。」
先ほどまでの低い鬼のような声はどこへやら、高めの少女の声で話しかけてくるジュピターに若干ビビっているのか、カインは思わず正座でまっすぐ見つめる。
「その剣、キミにあげるよ。よく斬れるから気をつけてねー。」
「・・はい、わかりました。」
ものすごくかしこまった返事をする様子に3人がくすくすと笑う。その近くの地面には、ぱたりと横たわった魔剣が転がっている。そのすべての力を使い果たしたとでも言うように、ひっそりと、ただ静かに。
「そういえばジェイ。」
「ん?なぁに?」
笑うのをぷつりとやめたクレアがジュピターに声を掛ける。
「ジェイがいなくなったら、校長先生って誰がやるの?」
忘れかけていた大事なことに、全員の口が、あーっと開く。
「あーっ、危ない、忘れるところだった。」
当の本人も忘れていたようだ。いや、頼むのを忘れてた訳じゃなくてね、と前置きをしながら、何やらアルメリアを手招きしている。立ったまま、こぼれた涙を拭えていなかったアルメリアが近づき、正座をして目線を合わせる。
「あのね、二人の担任のミズ・ダリアのお姉さんに、次の校長を頼んであるんだ。」
「ミズ・ダリアのお姉さん・・、あっ、マーティーさんですね。」
「そうそう。」
もう随分前から頼んでいたらしい。そろそろ何かが起きそうだ、という話を最近したようで、声がかかればいつでもと返事ももらっているそうだ。さらにジュピターは笑顔で、学校には不慮の事故で亡くなったって伝えておいて、と続けた。
「あっそうだ、カインくん。」
「はい、なんでしょうか。」
今度はクレアがカインに声を掛ける。正座のままで顔だけ向けたのだが、手招きをされたので立って近づくと、思いっきり耳を引っ張られた。
「よく聞いてね。今、大魔界は崖っぷちなの。で、ガニメデが自ら行動してるの。そのうちこっちの世界に来ちゃうかもしれないよ。」
「えっ、ガニメデが、自ら?」
「うん。多分これで私が成仏しちゃえば、ガニメデすごく怒ると思うんだよね。ということで、大変だと思うけど、一応忠告はしたからね。」
カインは首を縦に一度だけ振る。話したい事を話して満足したのか、二人ともその御身を一層輝かせる。それを確認した二人は、2、3歩下がると、その光を目に焼き付けるように見守る。
「そういえばね、ジェイ。」
「なぁに、クレア。」
背中合わせに空を見上げながら、お互いに名前を呼び合う。
「ジェイは別に不老不死じゃなかったんだよ。」
「・・えっ!?それ、どういうこと!?」
思わずジュピターがクレアをガン見する。
「人間の言葉だと”共生”ってコトらしいよ。まぁ、ガニメデの爪の呪いってトコロかな。」
「”共生”か。つまり、私の成長が止まったのは、悪魔は成長しないってことだったのね。」
「そーいうこと。ずっと黙っててゴメン。でも、私も割と最近知ったからさ。ガニメデが口走ってくれて。」
情報の思わぬ出所に3人がくすくすと笑う。
「まぁ、運命共同体であったことに変わりはないから、細かいことはもうどうでもいいかな。」
「いいのかよ!」
ジュピターのお気楽発言に、思わずカインがツッコむ。
「ふふふ。」
少し前まで敵対していたとは思えないほど優しい空気感に、アルメリアからも笑みがこぼれる。
「ホワイトブレスの日だねー。」
「ねー。」
「サンタさん来ないかなー。」
「えー、子供に見えるかなー。」
『ホワイトブレスの日にイイコにしてると、サンタクロースが幸運の種を届けてくれる』とは、この国の古くからの言い伝え。
「もし種がもらえたら、二人に譲るから育ててね。」
「きれいな花じゃなかったらゴメン。」
イイコとして種がもらえる前提で話す二人に、カインとアルメリアは思わず顔を見合わせて笑った。
「はい、大事にしますね。」
「イアンにも協力してもらって大輪の華を咲かせてみせますよ。」
意気込むカインに、今度は光る少女二人が顔を見合わせて笑った。
やがて二人の身体は光の粒となり空に流れていった。その光は、火山の煙に穴を開けながらーーというより、火山の煙の方が2人の光を避けるように通ってーー空高く、天高く昇って行った。見上げる空からは真白な雪が降りてくる。その雪は今まさに昇っていった二人のようで、二人が降りてくるようで、二人が大地に還るようで、二人が大地の下から支えてくれているようで、軽くふわふわと、空から流れてきた。
「おかえりなさい。」
不意に少女は呟く。雪は、ただいまとでも言うように、一層白く降ってみせた。
ページの最後まで読んでいただきありがとうございます。少しでもおもしろいと思ったら、評価や感想を残して頂ければ嬉しいです。これからもマイペースに投稿していきますので、続きが気になった方はブックマークをしていただければと思います。




