第8楽章その4 土煙の舞う中で
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
「何を確認していたんだ。」
電話を切ったコスモスの元へ、ほかのポイントを調査していたハイドが、ペアを組んでいたヒロトを伴ってやってくる。
「いえ。この倉庫内の状態が、通常と異なるということの確認ですわ。」
胸のポケットに電話機を仕舞いながら、コスモスが笑顔で答える。
「というか、これ、土だろ。」
「はい。」
ヒロトが床の土を手ですくいあげる。細かくさらさらとしたそれは、いとも容易く手から零れ落ちる。その感じは、土というより砂に近いように思えるが、土属性の魔法使いにとっては些細な違いだ。
「で、マベに連絡すんのか。」
「はい、一応。」
まだ少し手に土を乗せたヒロトが聞くが、コスモスがそれをさも当然とばかりに肯定した。
そんな風に、自分を探してくれている3年生の声が聞こえる。会話量は多くはないが、フクシアの心を折るには充分で。同じ特待科でありながら、まんまと敵の術中に嵌まり、役に立たない自分とは雲泥の差だ。
この時倉庫内を埋め尽くすほどに散らばっていた土が、彼女の悲しみの副産物だったと判明したのは、すべてに決着がついてからだったが。
『みんな、居場所、知らせる。』
なんとか自分からも行動を起こさなければ、と少し動いたのがまずかった。なぜなら、すぐ横に鏡があったからだ。その鏡に映っていたのは、自分であって自分ではない。それは”悪魔”とも呼べるほどに変わり果てた姿だった。
そのショックで気を失った次の瞬間、彼女の体は悪魔に乗っ取られたかのように、彼女の意思に反して暴れ出した。
防衛魔法、エンフォカール・カンビオ。(焦点をずらす)
ひとりでに動いた尻尾がこちらに直撃する寸前で、慌ててハイドが攻撃をずらす。
「まずいな。自我を失いかけてる。」
「確かに、あの子はオレらに攻撃を仕掛けてくるような子じゃないはずだ。」
ハイドとヒロトが本来のフクシアを思い出しながら話す。間にも、手のひらサイズの土の板がいくつも飛んでくる。
抑制魔法、ケーマル・グアンテ。(焦げたグローブ)
コスモスが端からグローブ型の炎でキャッチしていく。そこに。
「遅くなった。」
「お待ちしておりましたわ。」
連絡を受けたマーベラスが、目を線にしたバニラとともに、該当の倉庫にやってくる。
「大丈夫ですか、バニラさん。」
「ほかの倉庫全部潰してきた。」
なんだかお疲れの様子のバニラにコスモスが声を掛けると、そんな答えが返ってきた。
「何かあった?」
「いや、何も異変が無いことを確認してきたー。」
ちょっとわくわく気味でベルガモットが聞くが、保険の保険の行動だったようで、特に何もなかったようだ。要は、ただ疲れただけである。
そんなタイミングを見計らったように、悪魔と化したフクシアが倉庫の奥から暴れ出てくる。額から2本の角を生やし、体の後ろには鉄球付きの尻尾も見て取れる。
「あれは、フクシアちゃんなの?」
本来の姿を知っているからこそ、その姿に皆驚きを隠せない。
「あれはもう、フクシアじゃないな。」
マーベラスがぽつり呟く。
「何か別の名前が必要ですわね。ベルガモットさん、命名を。」
「えーっ、あたし!?」
コスモスから指名を受けたベルガモットが、目を線にして頭を悩ませる。
「早くしろ。」
「うーん、じゃあ、”ミマス”で。」
「意味は?」
「ない!」
ヒロトに急かされた結果だが。まぁこの場合、重要なのはその”意味”ではなく、”呼び名があること”なので問題はないだろう。
眉間にしわを寄せていたマーベラスが、尻尾の先の鉄球を見ながら指示を飛ばす。
「あの尻尾をあまり使わせるな。」
「了解。」
隊長マーベラスの声に、その場にいた全員が臨戦態勢に入る。
防衛魔法、アレニスカ・パレー。(砂岩の壁)
ヒロトが倉庫内の土を固めて壁を築く。大きさは横幅2メートル、高さ3メートル、厚みが7センチメートル。それをミマスの前方に放射状に3枚。ちなみに、それだけのものを形成させても、倉庫内の土は4分の1も減っていない。
特殊魔法、オハ・ウイール。(葉が逃げる)
戸惑うミマスにバニラが追い打ちをかける。風で土煙を巻き上げて、ミマスの視界を奪う。この技は本来、落ち葉を集めるのに使う程度の低レベルの技で、まあ詰まる所ただ風を起こす技である。
何も見えないことでけたたましい悲鳴を上げるが、後から到着したガイによって、その声はかき消された。
抑制魔法、ソニード・コールタール。(音を遮断)
「ごめん、遅くなった。どうすればいい。」
片耳を塞ぎながら片手で技を展開させたガイの後ろから、ひょっこり現れたアラタが隊長マーベラスに指示を仰ぐ。
「今回の目標は、ミマスの鎮静化だ。建物への被害は最小限に。抑え方は・・、今分析中。」
「了解。」
”分析中”ということは”考えさせてくれ”ということで、言い換えれば”とりあえずは丸投げするからよろしく”ということで。みんな構え直す前に、またかと溜め息をついていた。
強化魔法、ピエ・ラピド。(足を早く)
「住民の皆さんの安全確保してきました。」
「リーズちゃんの土魔法を、私の光魔法で強化しといたー。」
建物の外から、フリージアとリアトリスが走ってくる。
「ありがとう。よし、全員揃ったな。みんな、行くぞ。ミッションスタート。」
「了解。」
土煙の舞う中、1年で1番長い夜が始まろうとしていた。
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