side story レツ編その5 ずっと想って
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
”光魂”。
それは、未練を残したまま亡くなった人の彷徨える魂。大きさは、どんぐり1個分のサイズから手のひらに収まるほどのヨーヨー1個分のサイズまで、その未練の大きさによりさまざま。しかし、不思議なことに、魔法を持っている人も持っていない人もその存在を確認することが出来るという。
今、目の前にあるそれの六方を魔法陣が囲んでいる。しかも、そのうちの四方は二重である。合わせて10個の小さな魔法陣に向かって、光魂が持つ記憶のレコードがどんどんと流れ出し、上側の魔法陣の上部にヒトの姿を形成していく。その姿にレツは見覚えがあった。なぜなら。
「スズラン・・姉さん!?」
レツが大きく目を見開く。
「キミは本当にスズちゃんなのかい。」
意外にも落ち着いている精霊様に聞かれたヒトガタは、少しの間ポカンとしていたが、やがてニッコリと笑いながら頷いた。
「キミたちは本当にすごいね。さすがレツくんの仲間たちだ。ボク、またスズちゃんに会えたよ。ありがとう。」
先ほどまでの落ち着きはどこへやら。一気に高揚した精霊様に褒められたところで、カインとイアンが脱力する。形成が完全に完了した合図だ。
形成された少女はうんと背伸びをすると、こちらを向いてニコッとした。何か言おうと口を開きかけるが、レツの様子を見て辞めてしまった。
「スズラン姉さん・・なんですね。でも、そんな姿になってもしゃべらないんですね。それはやっぱり、さみしいです。」
レツはとうとう下を向いてしまった。握った拳をプルプルと震わせ、なんとか涙をこらえているようだった。
「スズラン姉さんがいなくなって、僕はすごくさみしかった。僕にとってのスズラン姉さんは、憧れの魔法使いの一人だったから。」
「レツ・・。」
ポツリと落ちた一粒の涙をアスカは見逃さなかった。
「たとえ声に出さなくても、僕の横にいてただ頷いてくれるだけで、それだけで嬉しかったってことに失ってから気付いた。隣で笑ってくれるだけでどんなに励みになったか、修行中のあのまなざしでどんなにやる気が出たか。全部・・、全部、後になって気が付いたんだ。」
レツの語りは止まらない。
「そしてもう一つ気が付いた。僕はスズラン姉さんに名前を呼ばれた記憶がない。姉さんの声、喋ってた頃の声、小さかったからもう憶えてないんだ。怒った声も、優しい声も、笑い声すらも。みんな憶えてないんだ。最期だって”よろしく”の一言だけだったし。」
レツの声はずっと震えている。
「母さんや、モクレン姉さんのする声真似でしか知らないんだ、スズラン姉さんの声は。」
それを聞いた少女が、申し訳なさそうにうつむく。
「後悔とか悲しみとか、そういうのを忘れたくて忙しさでなんとか誤魔化してたけど。・・やっぱり、さみしさはごまかせないや。」
無理に笑って顔を上げたレツの目からは、ツゥと泪がこぼれている。風もない静かな山に、レツの涙声だけが響く。
「だからさ、もしも・・、もしも願いが届くなら、僕の名前を呼んで、その声を聴かせてくれよ、姉さん。」
賢くてみんなの憧れの的であるレツが、今は人目もはばからずに涙を流している。そのうち、体の力が抜けて、へなへなと下を向いてしまった。
「なんて・・ムリだよな。ごめんスズラン姉さん、わがまま言って。」
ここで、ねぇねぇとジャンがカインにひそひそ話。
「光魂から形成されたヒトって喋れるの?」
「えっと、確か、未練が濃いと喋れるはずだけど。」
レツがまた口を開く。
「スズラン姉さん、こうして姿を見せてくれてありがとう。母さんは弱ってきちゃったけど、モクレン姉さんが面倒見てくれてるから大丈夫。僕は魔法学校に無事入って、今は精霊様の使いもしてる。町の様子は変わったけど、湖は変わらず透き通ってる。」
最後とばかりに近況報告をする。
「またいつか姿を現せたなら、いつもの湖に遊びに来てくれよ。」
涙を服の袖で拭って、笑顔で別れの言葉を紡ぐ。そのレツを見て、ついに少女が動く。レツに近づいて、腕にぎゅっとしがみついたのだ。
「わかったわ。」
その声にビクンと反応したレツが目線をずらすと、少女と目が合った。
「レツ、ごめんね。いろいろ、気を遣わせちゃったね。でも、大きくなっててびっくりしたよ。精霊様の使い、頑張ってね。ありがとう、そしてさようなら、レツ。」
レツは静かに涙を流す。つられてジャンも泣き出し、アスカがなだめる。
少女は視線を精霊様に向ける。
精霊様は笑顔で首を横に振る。
それを確認すると、少女はまた光に戻った。たくさんの淡い光の粒が、すーっとお墓に入っていく。するとお墓の『スズラン・ネーピッド』の文字がふわりと光った。
「生前にやり残したことが未練となって光魂になってしまうが、それをやり遂げることでただの光の粒となり、お墓に還ることが出来る。」
イアンが光魂の概念を口にする。
「ということは。」
ジャンがアスカを見る。
「スズランさんの未練は”レツの名前を呼んであげられなかったこと”だったのかもな。」
アスカが分析する。
「そうだったらいいな、レツ。」
カインが微笑みながらレツに声を掛ける。レツは立ったまま、声を上げて泣いている。
精霊様が空に向かってふーっと息を吹くと、たくさんのしゃぼん玉が空を昇っていった。
まるで、未練の無くなったスズランさんのように、軽やかに、空高くーー。
=side story レツ編 Fin=
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