第2楽章その1 武器の取り扱い学
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
=第2楽章=
運命の歯車
校長が教授として受け持つ授業がある。武器の取り扱いについてだ。武器は全部で5種類あり、使用する魔法によって各自使い分ける。属性によって武器の向き不向きがあるため、授業では一通り学ぶものの、実際の戦闘時には己の得意な武器で魔法を展開し、戦況を有利に進めることが大事である。
週に1度のその授業では生徒の個性がよく出てくる。特に1年の特待科はそれが顕著だ。今日もよく出ていた。
特待科教室のある特待科棟から、渡り廊下を進んだ先の体育館。その地下に強化魔法によって造られた二層構造の地下訓練場。魔法を発動させるような授業は、ここか別のところにあるホールと呼ばれる場所で行う。クラスごとの魔法発動系授業が地下訓練場、身体・能力検査などの全校を巻き込むような時にはホールを使用することが多い。とか言いつつ、地下訓練場を会場に授業を行なっているのは、武器の取り扱い学を教える私だけだが。
"秘技"と総称される攻撃や防衛にまつわる魔法での武器の使い方は上階で、"魔法陣"と総称される魔法の強化や抑制にまつわる魔法での武器の使い方は下階で授業を行う。今回は魔法陣についてなので下階での実践講義だ。
「魔法陣は土属性や光属性の魔法に多い。ワンド(杖)は基本装備になるから使えなければならないが、クロウ(鉤爪)も覚えておけば威力アップにつながる。両方を平均的に使えるようにしておけ。」
強化魔法、ピエ・ラピド。(足を早く)
フクシアが見廻り中の私に魔法をかける。すると次の瞬間、生徒の視界から私が消える。いや、消えるのではなく、足が早くなってしまったのだ。遊ぶな、と注意するが、生半可な返事だけが返ってきた。私の注意を耳に留めないフクシアは、健康骨まで伸びたまっすぐな緋色の髪を翻し、肩までしかない朱色の髪を荒げながら訓練に取り組むアマリリスの横につく。
と思ったら竜巻に巻き込まれてゆく二人。ごめんなさい、と遠くでカンナが頭を下げているので、近くにいたアルメリアに目配せする。
防衛魔法、コルティナ・エンヴォルベール。(カーテンで包む)
竜巻が布に包まれる。風が収まり、二人が布の中から救出される。カンナが近づいてきて眼鏡をとって萌黄色の髪で顔を隠しべそをかく。それを見て、黄金色の髪をポニーテールに縛っているアルメリアが近づき背中をさする。
そんな様子を見ていたジャンが面倒な呪文に成功する。
特殊魔法、クエルボ・シタシオン。(カラス召喚)
大量のカラスに怯えるジャンを見兼ねて、緑眼のアスカが今の呪文を逆に唱える。
ンオシタシ・ボルエク
逆から唱えることによる、魔法の強制消滅だ。次の瞬間には大量のカラスは霧散していた。それを見ていたレツが、藍色のハーフフィンガーグローブをつけた手でジャンの背中を叩く。ジャンは蘇芳色の髪に手を当て、あーびっくりしたと笑う。
その向こうでは、内巻きショートのカミルレの特訓に、イアンとカインが付き合っている。檜皮色の髪と山吹色の髪の向こうで、浅葱色の髪の少女が一所懸命にクロウを振り回している。
私はほくそ笑むと叫ぶ。
「次回の授業は外でやる。場所はこの街の最高地点、エナ・アステリ山の山頂訓練場だ。昼食後すぐに集合するように。」
「はい。」
授業後、アマリリスがぼやく。
「校長、やっぱりあたし、ソード(剣)のほうが扱いやすいです。」
「確かに、お前は火属性だからな。扱いやすいのはソードだろう。だが、ソードで魔法陣の展開は難しい。ワンドやクロウの習得は必要になってくる。仕方のないことなんだ。」
「でも、逆もあるぞ、リリー。」
なんだか欲求不満なイアンが、レツを連れてやってくる。
「俺、土だろ。いつも手の甲につけるクロウを使ってるから、水属性用のガン(銃)なんていう指先技なんてうまく出来ないよ。」
「とか言ってるけど、お前は結構いい線いってると思うぞ。」
「そーかー。」
「レツに褒められるなんていーなー。」
不満そうなイアンを、アマリリスが下から覗き込む。
「レツ、サイヅ(鎌)、下手。」
「フクシア、入試1位にそれはひどくないか。」
「別に、事実。」
抹茶色のアッシュが入った千歳緑のツンツンした髪の左耳の後ろだけバツ印にピンで留めているアスカがフクシアをなだめる。ちなみにレツは苦笑いだ。
彼らの上達ぶりには正直私も驚いている。近年稀にみる速さだからだ。
だからだろうか。不意に頭をよぎったのだ。
このスピード感なんだろうなーー。
特にコンビネーションプレイは素晴らしい。1年生だけ、3年と一緒に、どんな組み合わせにしても彼らは私の心を躍らせる。と同時に私は実感することとなる。
そろそろなんだろうな、と。
そしてそういう時には決まってあいつのことを思い出すのだ。
ーークレアハゲンキニシテイルダロウカ?イマハドコニイルノダロウカ?
「次回の授業の準備をしに行くか。」
特殊魔法、イロ・エストレジャ。(糸星)
糸星という名の絨毯型移動用魔法装置を展開させ、空を直線的に移動していく。
「私の力では、あの魔剣を使う以外にあいつを成仏させる方法はないよな。」
生徒の力を信じて、というのがせめてものと思っている。
思ったより近くにいる月を見上げながら、あの雨の日を思い出す。
私の運命が勝手に決められた、あのどしゃ降りの日をーー。
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