第7楽章その4 夢の話
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
「ねぇ、断罪者ってどれくらいいるのか、知ってる?」
もう一つのディオーネ行きのペアも、今は小休憩を取っていた。岩の上に座ったアマリリスが、岩の側で立ちっぱなしのレツに疑問を投げかける。
「断罪者ってことは、元魔法使いで悪魔になってしまった人ってことだろ。記録上ではここ100年で十数人程度らしいって話を聞いたことがあるが、僕はもっといると思う。狂った魔法使いを何人も見たって精霊様に聞いたことがあるからな。」
「えっ、精霊様ってそういうのの対処もするの?」
水筒を傾けかけたアマリリスが、驚いて飲むのをやめる。
「使いの人とか、周りの人間に頼まれればやることもあるらしいけど。基本は見届けるだけみたいだな。」
「そうなんだ。」
レツが水筒の水を一口飲む。
王都プラシノス・オケアノスのエリア・ウラノースを越えたところで方向を変え、キリマカ・ボルボロービスを目指す道中、そんな会話を紡ぐ。
ちなみに、ネプトゥーネ方面を目指していた理由は、あの紙ヒコウキを飛ばしたのがクレアだと推理したからである。あの教室にピンポイントで投げ入れるとしたら、カインたち10人に会ったことのあるクレアやその刺客の仕業だろうと考え、だったらクレアの近くにフクシアがいるかもしれないとフォボス火山を目指していたのだ。行き方をペアごとに変えたのは、入れ違いになるのを防ぐのと、戦闘になったときに挟み撃ちに出来るからである。
「それと、魔法を持っていない人の悪魔化である断罪人は、過去30年に絞っても、少なくとも180人はいるらしい。そんなデータを資料室で見たことがある。」
「へぇ、180人かぁ。というか、そういう数字、よく正確に覚えてるわね。」
「ま、興味がある事柄だからな。」
レツが携帯食のクッキーを、丸ごと口に入れる。
「でも、最近は断罪人が生まれたって話もあんまり聞かないよね。」
岩の上からレツを見下ろすような体勢で、アマリリスが話を続ける。レツも会話を続けようと、口の中のクッキーを急いで飲み込む。
「それはきっと、魔法警察官のおかげだろうな。」
魔法警察とは、その名の通り魔法による悪事を魔法を使って取り締まる警察組織のことである。魔法学校を卒業した魔法使いが、高等機関で特殊訓練を受けることで魔法警察官になることが出来る。この世界の魔法使用の秩序の管理人とも言える、世界平和のための要のような存在である。
「そーいえば、マー兄が言ってたな。魔法警察官の登場でこの世界の悪魔の個体数が格段に減ったってことが、きちんとデータに現れたって。」
「だろうな。悪魔の数より魔法警察官の数の方が多くなった、ってコレ精霊様の口グセ。」
レツが苦笑する。
「まぁ、この魔法警察って組織が、ガニメデにとっては邪魔になってるんだろうな。」
「そうそう、フクシアの将来の夢って魔法警察官になることなんだって。前に教えてくれたんだ。」
「そうなのか。」
レツが驚く。聞けば夏休みの合宿でメルキュライを訪れた3日目の宿で、部屋をともにしたときに、将来の夢の話になって、教えてもらったのだという。
「あたしは看護師を目指してる。傷ついている人のこと、見過ごせないから。まぁ、炎とは相性悪いだろうけど。でもきっとあたしにしか出来ないことがあると思うから。と言っても、今は何にも想像つかないけどね。」
実際に、魔法使いが運ばれる魔学病院には、火属性の医師や看護師もいる。数はそう多くはないが。
「きっと、ある。リリー、看護師、意味、ある。」
「ありがと。そういうフクシアは。」
「魔法警察第8部隊、通称、諜報魔法官。」
「かっこいい。あれ、でも魔法警察の組織って第7部隊までじゃなかったっけ。」
一般の警察も魔法警察も、対処すべき事象ごとに組織化され、出動要請があった場合には最適な部隊の警察官が出向くことになっている。魔法警察でいうと、討伐隊の後処理を含む悪魔対処は第1部隊、メルキュライで起こった博物館衝突事件などの場合は第4部隊、といったところは知られているところだが。
「影、だから。例え、スパイ、みたいな。潜む人。」
「なるほど。土属性なら相性もよさそう。」
「困ってる人、助けたい。悪いやつ、成敗。」
「はは、とってもフクシアらしくていいと思う。」
「ありがとう。」
それが、今からほんの少しだけ前の会話である。
「そうか、フクシアがそんなことを。」
水を飲みながらレツが思い悩んだように吐く。
「うん、だから・・あの時にはまだ接触してなかったと思うの。ガニメデやクレアと接触してたとしたら、多分あのあとじゃないかな。」
「そう・・思いたいな。」
アマリリスも果実水の入った水筒をぎゅっと握りしめながら、呟くように、自信なさげに言う。
「でも、それがわかって少し見えたことがある。」
「ん?ナニ?」
アマリリスが首を傾げると、レツがはっきりと断言する。
「あいつが目標としている魔法警察が、大魔王ガニメデにとって邪魔になるのであれば、なる前にそれを阻止しようとしてもおかしくない。」
アマリリスが息をのむ。
「それ、ありえない話じゃなくない?」
「あぁ、だからこそ・・急ぐぞ。」
「了解。」
と、気合を入れ直したのも束の間、地面からイアンがひょっこりと現れる。
「調子はどうだ。」
「今休憩が終わったとこ。これからディオーネに向けて加速するところよ。」
軽い挨拶を済ませると、レツが指示を出す。
「悪い、知りたいことが出来た。調べものを・・お願いしてもいいか。」
「・・あいつらにだな。了解。」
その指示が、イアンに対してではないことをイアンが理解したのを確認し、それぞれ次の行動に移った。
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