第6楽章その8 病室に響く慟哭
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
校長室を後にし、教室でカバンを手にしたカインは、外に出て空を見上げる。
「あと、もう少しなのか・・。」
流れる雲を突っ立って眺めていると、風がカンナたちの様子を伝えてくれた。カインが校長先生と会っている間に、お見舞いに行ってくれていたのだ。どうやらリンゴを持って行って、その場で切ってあげたようだ。しかも、ウサギリンゴ選手権なるものが開催され、一緒に行っていたフクシアが優勝したらしい。
「ま、もともとか。」
風がアルメリアの病室の番号を教えてくれたので、カインもお見舞いに行くことにした。
家への道とは逆の方向に進み、アルメリアが入院しているという、町の魔学病院へと向かう。受付で手続きを済ませ、個室の前まで行ったカインが聞いたのは、誰かがすすり泣く声だった。
さみしさなどからてっきりアルメリアが泣いているのかと思い、早く入って声を掛けてあげようと扉の取っ手に伸ばした手は、中から聞こえてきた懺悔によって拒まれた。
「ごめんな、アルメリア。僕は、無力だ。」
声の主は、レツだった。レツが泣いているところを見たことが無かったので、泣き声だけではわからなかったが。と言っても、みんながみんな泣いたことがあるわけではないのだが。1番泣かなそうだったから、全くの想定外だった。
彼は自分を責めていた。アルメリアに何もしてやれない。フクシアにも手を差し伸べられない。水の精霊様の使いでありながら、その力を仲間を守ることに使えない。入試1位で特待科に入学し、司令塔を任せられているのに何も出来ない。僕は、1番弱い、と。
彼の懺悔の間、カインはその場から一歩も動くことが出来なかった。伸ばされた手は空中で開かれたままだ。しかし、何か言わないと、と数センチ先の取っ手を掴む。開けたら何を言おうかと考えた一瞬の間に、先にアルメリアが口を開いた。
「人って、ホントはすごく弱いんですよね。」
か細くて聞き取るのはやっとだったが、芯のあるまっすぐな声だった。
「その弱さを知ることで人は強くなっていく。パンチやキックとかの身体的な話じゃない。心が強くなっていく。」
アルメリアの言葉を一言一句逃すまいとしているのか、レツの泣く声が止む。
「良かったじゃないですか。レツくんもこれで少し強くなれたということです。自分に自信を持ってください。」
「・・そうだな、・・ありがとう。こんな泣いちゃって、はは、みっともないな、僕。」
「何言ってるんですか。涙だって水。水はレツくんの領分でしょう。ほら、水も滴るイイ男っていうじゃないですか。」
「・・だな。悪い。まだまだ上を目指さないと。」
「はい。それでこそ私たちの司令塔ですね。」
結局、中には入れずに扉のすぐ横の待合ベンチでしばらく時間を潰してから帰った。
そんな風に入院していたアルメリアは、当初の予定通りに3日で退院した。あの会話の翌日もレツはお見舞いに行ったらしい。アルメリアの治療の経過をミズ・ダリアから聞いた彼が、様子を見に行くか、と髪をいじりながら言っていたので。
予告の日を明後日に控えたこの日、病み上がりにすぐ登校してきたアルメリアも一緒に、10人揃ってホールで実践訓練を受ける。本人の意思で対クレア戦に同行することも正式に決まったので、病み上がりだからという言い訳が効かないのだ。
「腰は低く!安定した姿勢が、安定した精度を導くのだ!」
「はい!」
土属性の魔法使いであり、3年生討伐隊の引率責任者でもあるミスター・ラードンの指導にも熱が入る。
「魔法陣は展開した陣の方に集中した方が精度が上がるが、秘技の場合は違う。特に、武器を使用する際には武器に集中しろ。展開した魔法に集中するよりも、その方が、持っている魔法を秘技の効力に直結出来る。頭の回転を速くするんだ。」
「はい!」
武器の取り扱いについては、普段はジュピター校長に教わっているが、今日はこの実践講義でも武器を使っていた。
「あ、雪だ。」
突然、ジャンが叫んだ。その声につられた一同が一斉に空を見上げると、水分を含んだ雪がしんしんと降ってきて、視界を白く輝かせた。
「ふう、一旦休憩にしようか。屋根を出してくる。」
「はい。」
円形闘技場のホールは、普段は観覧席も含めて天を仰げる状態だが、悪天候だったり必要な際には屋根が出せるような装置がついているのだ。ただし、その機構をいじるための部屋に通じる扉にはロックがかかっており、開くためのパスコードは一部の教授陣しか知らない。
ミスター・ラードンがその部屋に向かった後、自然と話題は対クレア戦に。何かあったときのために、みんなにも一応話をしてあるのだ。
「こっちは心配いらねーから、校長のこと、頼むぞ。」
行かないアスカもなぜか気合が入っている。
「ん?ふふふ。どうしたの?イアン。もしかして、クレアちゃんと手合わせできないのが悔しいのかなあ。」
「んなワケねーだろ。」
変な方を見てなんだかふてくされていたイアンを見つけたカミルレが茶化す。まじめモードでいたイアンが照れて顔を赤らめると、どっと笑いが起きる。
「それにしても、いつまで平和なんだろうね。」
「うーん、いつまでだろう。」
ゆっくりと閉じられていく屋根によって、空の範囲が段々と狭まっていくなか、それでも雪を振り落とす空を見上げながらカンナとアマリリスがそんなことを呟いた。やがて空が見えなくなり、ミスター・ラードンが戻ってきた。
「よし、続きをやるぞ。ここでもうひと踏ん張りしておくと、より上達するからな。さあ、もう一度武器を構えろ!」
「はい。」
天井では光属性魔法による照明が煌々と輝いている。
静かな脅威は気づかぬうちに、少女の身体を蝕んでいたのだった。
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