第1楽章その5 ”それら”との邂逅
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
「よし、協力プレイだ。この前練習したアレやろうぜ。」
ハイドが、少し離れたところにいたアラタ・ポルトーノブに声をかける。
「アレやるのか。了解。」
トウモロコシ色のマントを輝かせ、アラタが準備に入る。
攻撃合体魔法、トゥルエノ・カスカダ。(雷の滝)
電磁波を纏った光の矢が、雨のように降り注いで悪魔を襲う。
と、尻尾が建物を直撃しそうに。
防衛魔法、プレスィオン・パレー。(圧力壁)
3年生若葉色のマント、バニラ・コナックリがすんでのところで守り切る。
「大技やるのはいいけど、周りへの影響をもっと考えてよね。」
「悪い。サンキュー。」
「かなりダメージが蓄積されたようですけれど。そろそろどうかしら。これ以上の被害もあまり出したくないですし。」
薔薇色のマントがよく似合う、良家のお嬢様、コスモス・キャンベリーが隊長に迫る。
「そうだな。よし、止めの一斉攻撃だ。」
襟に隊長の証であるエンブレムがついた茜色のマントをしっかり羽織ったまま、マーベラスが声を上げる。水属性、風属性の8人全員での同時攻撃だ。
ギュイシャイーンッと悲鳴を上げながら悪魔はよろけた。
「今だ。」
攻撃魔法、ソル・マルティーヨ。(光の鉄槌)
光属性4人が展開した巨大な魔法陣の中に倒れこんだ悪魔は、一際大きな叫びをあげながら光化していった。
隊長マーベラスは指を鳴らして叫んだ。
「ミッションコンプリート。」
これは後から聞いた話だが、巨悪魔族の襲来時は、1年生と3年生合同での20人体制でいつも対応しているのだという。
帰ろう、という誰かの声で帰路につく一行。ふと後ろを振り向くと、急で悪かったな、とレツの頭をポンと叩く隊長の奥で、何かを拾い上げるアルメリアの姿が見えた。
翌日、特待科棟2階会議室。早速昨日の出動に対しての報告会が執り行われた。僕ら1年生も初めて出席した上、この日はジュピター校長までもが出席し、議事が進んでいた。
会議がある程度進んだ頃、不意に隣でガサゴソと物音がした。見ると、アルメリアが昨日拾っていたアレを取り出し、なんだろうかと眺めていた。それは、人差し指ほどの長さがあり、硬くて少し曲がっていた。
「誰だっ、悪魔の爪を持っている奴は。」
突然、校長が声を荒げる。何か邪気のようなものを感じたのだろうか。こちらをにらみつけている。席を立ち、こちらへ近づいてくると、それはどうした、と静かに問いただす。隣が、昨日拾いました、と答えると、ハンカチで回収していった。
校長は自分の席に戻り、しばらく眺めると、小さくつぶやいた。
「これは、ガニメデの爪・・・か?なぜ、これを昨日のやつが。」
「校長、ガニメデって・・・、あの?」
マーベラスが思わず聞き返す。
「ああ、そうだ。大魔王ガニメデ。大魔界に君臨する、最強にして最恐の王だ。」
校長先生の声で説明されると、どんなに抽象的でも毒々しい感じがする。校長先生は何喰わぬ顔で言ってのけると、こう付け加えた。
ーー大魔界で最も上手く呪いを操るやつだ。
呪いを操る。
この言葉に少々の違和感を覚えたが、それよりも校長先生が不思議に思えた。どうしてそんなにもガニメデのことを知っているのか。僕は後で聞いてみることにした。
会議は今後の課題としてガニメデの爪を調査することのみを残し、静粛のうちに閉じた。
会議の後、先ほどの疑問をぶつけてみると、呟くように、さぁなと言い放つと、笑みを浮かべて校長室のほうへ消え失せた。
その夜、家に帰る途中で僕はそれとすれ違う。それは、一見すると普通の少女だった。外套を羽織り、小豆色の目でまっすぐ前を向いていた。
吸い込まれていくようなその瞳を見て、僕は感じた。
ーーこの少女は、人間ではない。
それは、狼がヒトではないのと同じくらいの確証を持って確信されたが、では何なのかといわれると、宇宙誕生の瞬間を写真に収めるのと同じくらい難しいことに思われた。フードをかぶっていたのだが、それを取ると獣の耳が生えていた、となっても違和感が無いこの違和感。僕は思わず立ち止まり、止まろうとしないその少女の背中を振り返って眺めていたーー。
翌日のホームルームでミズ・ダリアから、ガニメデの爪は校長室の特別保管庫に入れられることになったと聞く。隣の席の隊長妹が、ほっと胸を撫でおろす中で、僕はそこはかとない不安を覚えたが、その不安は1か月の間に拭われることはなかった。
そのくせ、不安というものは大きくなるものだ。
僕は見たのだ。
梅雨真っ只中のその日、真っ暗闇に映える一対の翼。それは、片方が闇より深い黒色をしており、もう一方は月より明るい白色を放っていた。はじめはぼんやりとしか見えなかったので一人の少女かと思われたが、だんだん闇夜に目が慣れてくると、二人の少女が片翼ずつ持っているようにも見えた。見上げるほどの位置にある枝の上で、二人は強い白雨に打たれながら天を仰いでいた。
僕はさしていた傘を傾け、同じく雨に打たれながら、天をーー二人をーー仰いでいた。
どのくらい経ったのだろう。二人は手をつないで月下の夜を羽ばたいて行った。僕はまたなんとも言えない心持ちになって、傘を正し、歩き出す。
これは後から聞いた話だが、その日アルメリアが黒と白の羽を持つコウモリが飛んでいるのを見たという。
偶然が重なった二つの翼は、雨の中で必然的に見られたのだと確証のない確信を得た。
外の雨は降ったり止んだりしている。
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