第6楽章その6 予告するよー
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
少し肌寒いくらいの風がゆるりとなびいている。山の上からだと、出始めた月もよくわかる。
「こんなところに呼び出して、何を望んでいる、クレア。」
久し振りに再会できた場所にまた来るように、とだけ書かれたメッセージカードを持って、エナ・アステリ山の山頂訓練場の屋根の上に立つ。しかし、ぐるっと一周してみても誰の姿もない。
「場所を間違えたか。少し移動した方がいいだろうか。」
少々思案していると、空中に黒い球体が現れる。風穴だ。それが消えたと思ったら鈍色の羽を携えた少女が浮いていた。
「来たね。」
「ああ、来たぞ。」
お互いに笑い合う。その間にクレアは音もなく羽を仕舞う。まだ空中にはいるのだが、体の性質は悪魔なので羽が無くても浮遊程度なら可能なのだ。魔法使いではこうはいかない。ごく一部の特別な魔法を展開してれば話は別だが、基本は人間だ。人間は空を浮いたり飛んだりは出来ない。そう考えると、目の前に浮かぶ少女は紛れもない悪魔なんだなあ、とさえ感じられてしまう。
「いやぁ、ものすごーく今更だけど、決着をつけようと思ってさ。」
「今、か?悪いが今はそういう気分じゃないんだが。」
ジュピターは顔を歪める。
「いや、今日じゃないよ。今日はただの予告。やるのは今度。別にうちらの一対一じゃなくてもいいよ。いっぱい呼んでくればいい。」
「ふ、そんなに自信があるのか。」
笑みを浮かべて圧を掛けるが。
「まぁね。悪魔の体は意外と丈夫だからね。」
向こうが笑うのを見て、ジュピターは再び顔を歪めた。悪魔と会話しているとは思えないほどの落ち着いた内容だが。
「なら、さっさと予告してもらおうか。私とてヒマじゃないんだ。」
「あらあら、昔と違ってせっかちになっちゃったか。」
憤りを隠し切れない声色でプレッシャーをかけるジュピターの様子を見て、クレアはくすくすと笑った。
「まぁいいや。じゃあ予告するよ。」
ジュピターが冷静さを取り戻したところで本題に入る。
「場所はここからずっと離れた南側。ネプトゥーネの東側にある山、フォボス・ダイモス山脈の山頂。つまり、フォボス火山の大火口のところ。日付は12月14日。時間は竜の二刻。じゃあそういうことで。」
言いたいことだけ言うと、コウモリになった少女は闇夜へ消えていった。
「あ、おい!・・まったく、自由なやつめ。・・ん?」
こちらの返事も聞かずにどこかへ行ってしまった元親友に呆れていると、空から1枚のカードが落ちてくる。封にも入れず、送り主の名もないそのカードに書かれたたった一文に目を通し、目を見開く。
ーー私を増やさないように気を付けて。
「私を?まさか・・、断罪者か・・。」
本日は12月8日、月は三日月を過ぎたころ。予告の日まで1週間。クレアが、1週間待つ理由。
「ふ、クレアめ。満月を選んだか。」
まだ関係性が解明されたわけではないが、満月だと悪魔は普段よりも能力値が上がるらしい。それが何を意味するかと言われれば。
「さぁ、どうするかな。」
さみしそうに微笑むジュピターを、月が細く照らした。
そのまさに次の日、今度はアルメリアに異変が訪れる。授業中、教授に当てられて答えようと立ち上がったところで、急に体が硬直し、バタリと倒れそうになったのを、隣の席のアスカが魔法で支えたのだ。
特殊魔法、ブリッサ・アルフォンブラ。(そよ風の絨毯)
「体が、動か・・ない。息も・・。」
「しゃべらなくていいから。カイン、回復魔法を、早く!」
前の席のアマリリスが、隣のカインに向かって言う。
「あ、あぁ。」
抑制魔法、ルナ・インシエンソ。(月のお香)
キラキラとした光の輝きがアルメリアに降り注ぐ。
「ありがとう・・ございます。息は、しやすくなりました。」
「大丈夫か。ムリするな。」
「はい。」
その後、それまで黙って様子を見ていた教授が、魔学病院へ連れていくと言ったので、あとは教授に任せることにした。
「大丈夫かな、アル。」
教授とアルメリアがいなくなった教室に、カミルレの心配そうな声が弱々しく響く。
「今回のが痙攣の一種なら、後遺症が出たってことだよな。まぁ、大事な戦いの前の休養と思えば、・・タイミングは悪くないのかもな。」
「そうかもしれないけど。」
アスカの考えに、反論するような勢いでアマリリスが反応する。
不安そうな8人に対しレツが、わかっているよな、と声を上げた。
「僕たちは10人で1つのチームだ。ガニメデが現れたり、クレアや悪魔の出現が確認されたら、僕は無理をしてでもアルメリアにも参加してもらうつもりだ。」
「無理をしてでもって・・。」
レツの、信頼なのか冷徹なのかわからないような静かな宣言に、女子がより不安を感じているところに、ミズ・ダリアがやってきた。
「アルメリアのことだけど、3日くらい入院することになったわ。これでも、ジュピター校長の口添えで短くなったのよ。すぐに戻ってくるから安心なさい。」
一体それが、吉と出るか、凶と出るか。
「あ、そうそう。そのジュピター校長がカインを呼んでいたわよ。」
「え、校長が、僕をですか?」
教壇の出席簿に何やら書き込んだミズ・ダリアが、去り際にそんなことを言ってくる。
「ええ。なんでも、頼みたいことがあるから校長室まで話を聞きに来てほしいって。」
「頼みたいこと?・・わかりました。後で校長室を訪ねてみます。」
首を傾げながらもうなずくと、満足したように口の端を上げた。
「そうしてちょうだい。」
ガラリバタンとミズ・ダリアが教室を出て行ったあと、残された生徒9人は互いに目と目を合わせた。
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