第6楽章その5 迎えるは不穏な朝
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
クレアとの邂逅からおよそ1か月。そのたった1ヶ月でカインたちは7体もの悪魔を成仏させた。この頻度は、はっきり言って異常である。
1回目の霜が降りた日なんて、3年生の討伐隊が1体、さらに1年生の討伐隊補佐が1体と、合わせて2体もの悪魔を成仏させていた。
「あ、霜が降りてる。あと1回か。」
「冬になっちゃったね。」
霜が3回降りたら、雪が降って冬になる。
豪雪になることはほとんどないが、毎年足元が真っ白になるくらいには降る。その雪は次の4月にまた花が咲き出すまで溶けることはなく、雪が溶けたら新しい学年だ。
「でも、なぜか焦りはないんですよね。」
「まぁね。今年が大事とは言いつつも、校長命令の期限は”卒業までに”。あと2年はあるからね。」
窓辺に並んで外の樹木に降りた霜を眺めながら女子4人がそんなことを言っていると、何やら暗い雰囲気を醸し出しながら、男子が5人揃って教室に入ってきた。
「おはよー、って、どした?なんか暗くない?」
「霜の白さとは、対称的な暗さね。」
アマリリスがした明るい挨拶とは天と地ほども差がありそうなほど重い表情に、呆れたカミルレが思わず文学的なジョークを返す。が、それを気にしないほど落ち込む男子は、ため息交じりにそれぞれの席に着く。
「そういえば、フクシアが来てないね。誰か見てないの。」
「いや、それは・・。」
カンナの気づきにびくりと肩を揺らした男子らが、なぜか視線を逸らす。その様子に女子が首を傾げていると、一つ息を吐いたイアンが口を開く。
「俺から、みんなに話しておきたいことがある。」
戦いでもないのに珍しくまじめモードでイアンがしゃべり出す。その不穏な空気感に、何かを察した女子らが笑顔を隠す。ついでに、開けていた窓をカンナが閉じ、アルメリアがカーテンまで閉めてしまった。
「本当は話したくないんだが。」
いつもと違った歯切れの悪い前置きをしてから、イアンが語り出すのだが。
「多分、時間が無いことだから、単刀直入に言うけど・・。」
「何よ、はっきり言いなさいよ。」
なかなか煮え切らないイアンに、カミルレが一歩踏み込む。
「フクシアが・・。フクシアが”断罪者”になりかけてるんだ。」
ついに語ったイアンの言葉に、その場が一瞬にして凍り付く。
「・・はぁ!?お前何言ってんだよ、急に。」
なんだかイライラしていたレツが、キリリと鋭く睨む。
「あいつに限ってそんな・・。」
アスカも動揺している。
「俺は見たんだ!」
だぁだぁと擁護の言葉を口にする仲間たちを一旦静かにさせ、状況を説明する。
「盗んだらしいものをクレアに渡して、お金をもらっているフクシアを。」
「それは本当にフクシアだったんだろうな。」
普段は1番冷静で落ち着いているレツが、感情的にイアンの胸倉を掴んだ。やめなよ、と女子が間に入ろうとするのを、危ないからとアスカとカインが制止する。
「本当に、フクシアだったのか。」
皆の動きが止まったところで、静かに、重く、もう一度確認する。イアンは黙ったまま、首を縦に振った。それを見たレツが、諦めたように掴んでいた手を離した。
「そうか。確かに最近のフクシアはおかしかったもんな。」
「急に早く帰っちゃったり、突然休んじゃったりね・・。」
ジャンの言葉に、皆の体から一気に力が抜ける。
「でも、今のイアンの話が本当なら、フクシアちゃん、本当に断罪者になっちゃうよ。」
「そんな別れ方、絶対イヤ!」
さみしそうなカンナの言葉に、アマリリスが切り込んだ。
人間が悪魔と契約し、異形の姿を手に入れると、それは”後成悪魔”に分類される。”後成悪魔”は誰がなったかによってさらに二つに分類される。魔法を使える者、いわゆる魔法使いが後成悪魔になると”断罪者”と呼ばれ、魔法を持っていない人が後成悪魔になると”断罪人”と呼ばれる。
”断罪人”は過去数十年だけでも200人くらいいるとされているが、”断罪者”は100年分遡っても十数人程度だと言われている。
「せっかく仲良くなれたのに・・。」
カミルレも切ない声を吐く。
断罪者。
魔法使いでありながら魔法使いらしからぬ行動により、悪魔と密な関係となり、最終的に悪魔となってしまった者のこと。もちろん、クレアもその一人である。一度でも断罪者になれば、人間としてはその人は死んだものとして扱われ、地位も財産も何もかもを失う。当然、仲間もだ。
「フクシアを助けるための作戦会議は、後日綿密にしよう。今はとりあえず、・・今まで通り普通に接しよう。」
なんとか冷静を保ったレツの言葉に、声を出せないままに頷く。
「おはよう。遅れた。少し、だけど。」
そんな教室にフクシアが入ってくる。それに気づいたアルメリアが脊髄反射でカーテンを開ける。なんとか空気を変えようと視線を彷徨わせたカンナが、黒板トリーヌの文字を見つけると、無理矢理笑顔を作ってフクシアに声を掛ける。
「お、おはよー。当番さんは黒板を消してくださいね。」
まだ朝だろ?とツッコみたくなったそこのあなた、鋭い。実は、毎朝ミズ・ダリアによって黒板いっぱいに、復習も兼ねた正解のない問題が書かれるのだ。朝の学活の時間に、それぞれの考えを発表するのが、特待科の特殊な習慣である。
「うん。わかった。けど、読んだ?」
「ああ、ノートに書き写したから、ダイジョブ。」
カミルレもなんとか反応する。
「うむ。」
断罪者はまた、心に悪魔の種を植えられる。この時すでに植えられていたなど、彼女自身も知らない。知っているのは、大魔界とこちらの世界を行き来している”コウモリ”くらいだろうか。
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