第6楽章その4 触れられそうで、触れられない
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
その日以来、アスカとアマリリスが入手したデータを元に、情報整理の日々が続いている。朝、登校してみんな集まったところでまずテーマを決める。午前中の授業で疑問点を先生方にぶつけ、午後の実践講義で出来るようになったことを踏まえて、放課後の作戦会議に活かす。ガニメデのこと、マリアのこと、大魔界のこと、ジュピター校長のことなどなど。考えなくてはいけないテーマなど山ほどあった。
順番に話し合いを進める中、ジュピター校長とクレアのことを話題に挙げ、作戦を考え始めた11月中旬。
現れた。今度は僕らの前に。
それは、校長先生による武器の取扱い学での厳しい特訓の後、例の山頂訓練場からみんなで帰る山道の途中。道の真ん中にポツンと立っていたのだ。いつものように外套を羽織っていたが、フードは被らずにこちらをまっすぐ見ていた。その小豆色の瞳に吸い込まれた僕らは、思わず歩くのをやめた。
「初めまして、じゃないよね、僕とは。3回目くらいだよね、クレアちゃん。」
ニヤリと笑う少女に向かって、カインが話しかける。
「そっかー。私と会ったことがあるの、カインくんだけだったねー。」
名前を呼び合う。みんな黙り込んで様子を伺っている。
「みんなに教えてあげるよ。ジェイに不老不死の呪いをかけたのは、この私なんだよ。だから、ジェイを救いたかったら、ジェイを死なせたかったら、私を倒さなきゃダメなんだよ。だけどさー、そんなこと、まだまだ子供のキミたちに、出っ来るっかなー♪」
強張った表情でいるカインたちとは違い、呑気に鼻唄まで口ずさみ始めた。
「教えてくれてありがとう、クレアちゃん。でも、俺たち約束しちゃったからさー。難しくても、やらなきゃなんないんだよねー。俺たちは、ジュピター校長の味方だから。」
とりあえずイアンが応える。
「おー、やる気満々だねー。でも、マリアの一件で知ってはいると思うけど、こっちもいろいろ計画中なんだよねー。邪魔しないでよね。」
「さぁ、それはどうかしら。」
アマリリスの返事によって一瞬空気がピシリと凍り付くが。
「まぁいいや。じゃあ、夜になるからバイバイ。」
「ちょっと!クレアちゃん!」
少女は不敵の笑みを残して、森のざわめきの中へと消えていった。あとには塵の一粒も残さずに。
「・・今のコが、クレアちゃん?」
カインの肩に手を当てながら、アスカが確認を入れる。
「ああ。」
「なんか、凄いマイペースだった。」
「ツッコむ隙も無かった。」
「ああ。」
カンナやカミルレの感想に、カインは間の抜けた返事をする。カインの視線は、少女の消えた方を未だに捉えたままだ。
「どうする?校長先生に報告する?」
アマリリスが山頂を指さしながら言う。今ならまだ訓練場にいるだろうが。
「いや、やめておこう。」
「そうだな。」
レツとアスカが否定する。
「何でかわかんないけど、あのコに近づけなかった。」
「確かに、まるで足が動きませんでした。触れてはいけないような、とても不思議な存在でした。」
ジャンとアルメリアはまだ動けないでいる。
「この感じ、ネプトゥーネのあれに似てるな。」
アスカが何かに気づく。
「ああ、レツだけが触れたあれね。」
アスカが言わんとすることを理解したアマリリスが、すぐに反応する。
「僕だけが・・。ああ『火山の聖水』な。」
すぐそこにあるのに触れることが出来ないものの例えに挙がったのは、ネプトゥーネの町に存在する『火山の聖水』だ。ネプトゥーネの町とフォボス火山を隔てる大きな水の膜のことだ。地面から間欠泉のように噴き出す水は、高さ5メートルまで上がり、横幅も30メートルは優に越える。
この水の膜は魔法でそう成しているわけではなく、太陽に最も近づける山たるフォボス・ダイモス火山の防衛本能というべきものなのだ。そのため、魔法を使える人使えない人関係なく、誰も触れることが出来ない不思議なものだ。これは例え話ではなく、本当に物理的に触れないし近づけないのだ。理由は未だ解明されていないが、大昔と違い山が人を信用していないのが1番の原因だろうとされている。
ちなみに、レツだけが触れたというのは、レツが水の精霊様の使いだからである。『火山の聖水』は今や、こうして山に認められた人だけが触れられる高貴な存在となってしまっていた。
「クレアって女の子だけど、戦えそう?イアン。」
カミルレの挑発にみんなでイアンを見る。イアンは悩んだような表情で下を向くと、瞬き一つで表情を消し、再び顔を上げると闇をも捉えそうな鋭い目で仲間を見た。
「俺は女に弱い。でも、悪魔なら別だ。」
みんなが”オニアン”と呼ぶ、いわゆる真剣モードだ。
「おっ、戦闘モードになった。目つきもキリっとしてる。いつもそんな感じなら、イアンだって恋愛対象になるのになぁ。」
アマリリスの言葉に女子がクスクスと笑うのを見て、男子が視線をそらした。
「いざというときに本気を出すんだよ。そういうお前らこそ、俺の足手まといになるんじゃねーぞ。」
その偉そうな物言いに、カミルレが高笑いをする。
「あっはっは、それなら大丈夫。私だって本気よ。舐めないでよね。」
カミルレの普通の力強い言葉に、みんなの表情が引き締まる。お互いがお互いを鼓舞する。この関係性がとても心地よい。
そんな僕らの間を、一陣の風が抜けていく。夜の帳を連れながら。
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