第6楽章その2 情報管理システム
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
ソファにアマリリスとアスカが並んで座る。緊張で黙っていると、ミズ・ダリアが高価そうなティーカップで紅茶をサーブしてくれる。その間に、マリアちゃんがお菓子が山積みになった籠を持ってきてくれた。
「これ、どうぞなの。」
珍しく緊張しきってほとんど動けないアスカを横目に、アマリリスが笑顔でお礼を言う。
「お手伝いしてるの?ありがとう。」
サーブを終えた二人が客間から出ていったのを確認した後、向かいで紅茶を啜るマーティーさんに、アスカが話を切り出した。
「えっと、資料ありがとうございました。」
「全部読んでくれたのかしら。」
「あ、はい。でも、かなりの量があったので、分担して読みました。あたしはマリアちゃんの証言の方を。」
「そっちをよく読めってダリアにも言ったしね。」
第一声の後、言いたい何かを言い出せずに紅茶を飲みだすアスカに代わり、アマリリスがマーティーさんとの会話を続ける。
「とても詳しく書かれていて、一つ一つ確認しながら読んでいるので、まだ情報の整理が出来ていない箇所も多いんですけど。」
あはは、と乾いた笑いとともに、アマリリスが頬を指でかく。と、決心がついたのか、アスカがティーカップを置いた。
「あの、ガニメデに返したUSB型のネックレスって、ニセモノではないですよね。」
”ニセモノ”というワードにマーティーさんが反応する。そして、その話が聞きたかったのね、と同じくティーカップを置いて姿勢を正した。
「ええ、本物よ。もともとマリアがつけていたのよ。あのネックレスは。」
ネックレスに隠していたデータの話がしたかったのか、と納得したアマリリスが、お菓子に手を伸ばす。
「だったら、そのUSBに入っていたデータを見せていただけませんか。オレたち、ガニメデを倒したいんです。校長先生のためにも。」
「それ、本気で言ってる?」
不敵な笑みで試すようにじっと見つめる。その様子を見て、慌ててアマリリスも口の中のお菓子を飲み込んで姿勢を正す。
「はい。本気です。」
「あたしたち、そう決めましたので。」
そう力強く言い張る瞳の奥が一瞬揺れる。その一瞬の揺らぎさえもその人は捉えるが。それは、やれるかどうかの不安による澱みではなく、どうやればクリアできるのかを思案する揺らぎであり。
「はあー。」
その悩みを見抜いた女性が大きく息を吐いた。
「そのようね。」
諦めるように立ち上がると、お菓子の入った籠を手に取る。
「ジュピター校長のため、というのは少し違う気もするけど。まあいいわ、見せてあげる。場所を移しましょう。」
「はい!ありがとうございます。」
二人とも嬉しそうに元気よく立ち上がる。
「あ、その前に。」
今にも一歩を踏み出そうとする二人をマーティーさんは制すると。
「カップの中の紅茶は飲み干しちゃって。マリアに片付けさせるから。」
「あ、わかりました。」
言われて思い出して、二人で立ったまま紅茶を飲む。その様には優雅もへったくれもないが、今はどうでもいいことだ。
「それにしても、どうして私がネックレスのデータを持っていると思ったのかしら。」
客間を出て家の奥へと廊下を進む途中、ふとマーティーさんが振り返り、アスカに問いかけた。
「ミズ・ダリアがネックレスを持ってきたとき、オレの目をまっすぐに見てきたんです。まるで、大丈夫だと言われているようでした。」
アマリリスはその時のことを思い起こす。
『これですか。』
『そう。これをガニメデに返してきてくれるかしら。』
『返すって、えっ。でも、この中には大事なデータが・・。』
『返してきて。』
あの時、ミズ・ダリアはまっすぐにアスカを見ていた。その表情にアスカは首で返事をすると、黙ってそれを受け取っていた。
確かに、二人の間に無言成れども意思の疎通があったのは、アマリリスも気づいてはいたが。
「それと、マーティーさんの署名の入った資料は、コンピュータによる科学的分析によるものだったので、魔法だけでなく、コンピュータ科学にも精通する方として、推測していたんです。」
この世界で情報を世に発信する際に用いられるのは、”ワールドネットワーク”と呼ばれるいくつもの巨大な魔法の箱だ。その箱に情報を仕舞う形で情報を発信し、開けて覗くことで一般公開されている情報を閲覧することが出来るという仕組みだ。入っている情報の内容ごとに分類されたそれらの箱は、普段は並列の別空間に漂っている。
箱は大きく2種類に分けられる。1つは”ワールドスーパーネットワーク”と呼ばれる、魔法を使えない者も含めた世界中の誰もが検索可能な、鍵のない可視化された箱で、もう1つは”ワールドマジカルネットワーク”と呼ばれる、魔法を使える者だけが魔法に関することを検索可能な、鍵付きで普段は透明化された箱だ。いづれにせよ、光属性魔法によって国ごとに管理・運営されている、魔法を用いた巨大な情報管理システムである。
かと思えば、非一般向けのパーソナルなデータの管理や分析に関しては、魔法を介さず、コンピュータ科学を用いたデータの活用や、書物に手書きするなどの方法がとられ、個人情報の保護が行われている。
ここで、資料に載っていた様々なグラフや表を思い出す。世には出せない、大魔界に関する重要なデータと、その分析結果である。いわゆる、極秘情報というやつだ。普通なら、イチ学生が見られるような代物ではない、実は。先生のお姉さんが作成した資料だ、という身内ネタがなければ、一生見られなかっただろう。なぜなら、”ワールドネットワーク”に仕舞われた情報ではないからだ。いくら上質なデータでも、それが”ワールドネットワーク”に仕舞われなければ、その情報を閲覧することは出来ないのだ。
これから二人が見ようとしているものはそれほどのモノであり、大魔王を討伐せんとする数多の大魔法使いたちが、喉から手が出るほど欲しいモノである。それはもう、期待せずにはいられない。
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