第5楽章その1 現代の事件と過去の事件
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
=第5楽章=
混ざる
10月も半ば、そろそろ長袖の方が安心する気候になったころ、1つの事件が発生する。手口も犯人の目星もつかない、怪奇現象のような事件だった。それは。
ガニメデの爪が無くなった。
学校が経営している魔法についての資料館。町のオフィス街の一角にある複合ビルの1階から4階までと6階の半分ほどがそれだ。下4階層を一般公開しており、6階の半分を保管庫としている。ちなみにビルは8階建てで、資料館になっている部分以外は一般企業が何社か入っている。
そこに特別展示されていたガニメデの爪が消えたのだ。資料館のあの警備を、爪が通り抜けてしまったのだ。重要参考物の紛失にジュピター校長をはじめ、諸先生方は慌てていた。
幸い、必要なデータはすべて取ってあったため、それは無事だったのだが、実物が無くなってしまったのは痛手が大きい。今はまだ普通科生には話がいっていないようだったが、特待科ではすでに大きな話題となっていた。
「ガニメデの爪が無くなった事件に、もしガニメデ本人が関わっていたとしたら、ガニメデがこっちの世界に来たってことだよな。たかが爪一つに。」
ふとアスカが言った。
「そもそも、爪ってそんなに大事なのか。」
「でも、爪悪魔っていう分類もあるよね。」
イアンの疑問に、ジャンが反応する。
「そういえば、ガニメデって爪悪魔じゃなかったっけ、火属性の。」
「小悪魔族爪悪魔で火属性ってところまではわかってるんだよね、確か。」
カンナとカミルレが、ガニメデについての基礎情報を思い出す。
「でも、火属性ならこんなにきれいに盗んでいかないと思うんだよな。」
レツが頭を抱える。
とそこに光属性コンビが戻ってくる。
「新しい情報もらってきたぞ。」
「1つは、ガラスケースに爪がやっと通る程度の丸い穴が開いていたこと。もう一つは、悪魔発見装置が反応しなかったということの2つです。」
それを聞いてみんなで頭を抱える。
「じゃあ、ガニメデが来たわけではなさそうだな。」
「なら、どうやって。」
アスカとレツが特に悩んでいる。
「なんか、怪奇現象みたいだね。」
「そんなこと言うなよ。」
ジャンのお気楽発言に、男子皆で落ち込むが、今日の空は青く澄んでいる。
「そういえば、似たような事件がメルキュライで起きてたよね。」
「ああ、夏合宿の、三大事件の。」
僕らは、夏合宿でメルキュライの町を訪れた時のことを思い出す。
夏合宿3日目、王都プラシノス・オケアノスの盆地メルキュライ。中心部に位置する巨大な芸術的建築物。オエステ・ラゴ博物館。エブリア・ペディアーダ三大事件のうちの1つが、数十年前にここで起きていた。通称、博物館衝突事件。
博物館に展示されていた、時価総額100万マジカリを超える貴重な宝物を盗賊に盗まれた事件だ。ちなみに、盗まれた宝物の半数は、未だに戻っていない。
僕らは博物館の担当者の計らいで、その当時の館長が撮っていたという映像を見せてもらっていた。宝物を抱え込んで逃げ出す盗賊二人組。追い駆ける警備員。盗賊の一人が悪魔を召喚すると、しばらくして魔法警察官が到着する。駆けつけた魔法警察官があと一歩のところまで二人を追い詰めるが、悪魔の力で盗賊二人に逃げられてしまう。
その後、盗賊団の二人がどこへ行ったのかは知れたものではない。数年後に多少戻ってきたものの、多くの宝物の行方が未だにわからない、未解決の事件となっている。
今の館長さんは、自分のおばあさんからこう言われたという。
ーーメルキュライの由来になった言葉には、”盗賊の守護神”という意味があるんだよ。だから、仕方のないことなのさ。
今はもう、残りの宝物の返還を諦め、魔法警察も事件から足を洗っているという。
外で雨が細く降り始めた。朝のレツの発言が思い出される。
「今朝の精霊様、めっちゃイライラしてて怖かったな。」
それはつまり大雨になる可能性を示唆している。しかし、僕らの心の中は、すでに洪水を引き起こしていた。
「類似事件だとくくった場合、今回の事件にも悪魔を操っている人間がいるってことになるが。」
「いや、悪魔発見装置が反応しなかったことを踏まえると、悪魔に操られた人間がいたと考える方が自然だろう。」
実際の現場に行けないもどかしさと、考えれば考えるほど泥にはまってしまうような難しさに、まだ1年生だという事実が悔やまれる。現場に近づけるのは討伐隊である3年生のみで、討伐隊補佐であるカインたち1年生には立ち入り禁止令が出されているのだ。
事件のことで男子が頭を抱える中、空気を変えようと女子がアルメリアに詰め寄る。
「そういえば、アルメリアの後遺症ってどんなものだったの?」
「ああ、頭痛のちょっとひどいやつですね。」
アマリリスの質問を、流すように答えるアルメリア。
「でも、あの時は急に倒れたからさすがに不安になったよ。」
「持病、あるの?」
皆に聞かれて、アルメリアは少し考えると、困ったように言った。
「すみません。詳しく話すかどうか、少し考えさせてください。」
「そ、そうだよね、ごめん。」
「雨がひどくならないうちに帰りたいので、私はこれで帰りますね。」
「あ、うん、バイバイ。」
教室を出ていく小さな背中を見送った後、4人は顔を見合わせた。
「あたしたちも帰ろっか。」
男子にまた明日と声を掛けると、4人も教室を後にした。
「このことについては一旦忘れよう。変な考えかもしれないけど、次の事件が起きるのを待ってみない。」
イアンも帰宅を促す。
「確かに。次に事件が起きた時に、手口がわかるかもしれないからな。」
レツの言葉に、カバンを手に取ったジャンがかぶせる。
「仕方ないね。今日はもう帰ろう。」
「そうだな。」
この日を境に、混ざらないはずの2つの世界の境界は不具合を起こし始めたのだが、そのことに僕らが気付くのはもう少し先の話だった。
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