side story カイン編その7 人々を癒す音色
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
終始笑いの絶えないマジカルショーが終わっても、話は尽きなかったのだが、藍色に染まり出した空をオリーヴさんが見上げたところで、ようやく話が途切れる。
途切れたところで、最後に話題が竪琴に向く。
「あの竪琴、まだとってあったんですね。もう処分されているかと思っていました。」
わざとらしく触れられてこなかったその竪琴を、遠い目で見る。
「捨てるわけないでしょう。あなたの親友を。」
「あの竪琴を見るといつも、ライラがいたことを思い出すの。」
「私のことなんて忘れてくれて良かったのに。」
二人のお姉さんの言葉を、嫌そうに流そうとするが、母親に止められる。
「そんな悲しいこと言わないで。あなたは私たちにとって、かけがえのない大切な家族の一人なんですから。」
膝に抱えて座って演奏するタイプのその竪琴は、普段は王宮の居住エリアの玄関に、透明ケースに入れられて飾られているという。
「1曲、頼んでもいいか。」
父親であるボレリアス14世のリクエストに、少し悩んだ後、下手になっていると思いますけれど、と前置きをしてから立ち上がった。すると、いつものことだと言わんばかりに、メイドさんが窓を開け放ち、そのすぐ横に椅子を設置した。
ライラはそこに静かに座り、竪琴を抱え込む。ポロロンと何度か音を確かめた後、深呼吸をする。次の瞬間、顔つきが変わり、空気まで変わる気配がした。1秒ほど窓の外を見やってから、慈しむように演奏が始まった。
鎖国中のこの国の国民の農耕歌『太陽は大地の友達で、月は歌の友達で』だ。きちんと習ったのは音楽の授業で世界各国の民衆歌について扱った時だが、それ以前からこの曲のことは知っていた。なぜなら。
「これ、子守歌だ。」
「そうなの?」
「ああ。小さいころ、寝る前によく歌ってくれた曲。」
「いい曲だね。」
「ああ。」
カインのつぶやきを女子が拾う。気づくと、開けた窓のふちに小鳥が数羽止まって聞いていた。
この時、王宮の中にいた彼らには知る由もないことだが、この音色を聞いて涙を流した国民もいたらしい。
ちなみに、1番泣いていたのは、部屋の外で待機していた軍隊の隊長の青年だったりする。
演奏が終わった後、拍手も忘れて余韻に浸っていると、竪琴を床に置いて姿勢を正したライラが真剣なまなざしで父を捉える。
「お父様。」
「どうした、ライラ。」
「カインは渡しませんし、私もこちらに留まる気はありませんので。」
急に名前が上がり、ビクンと反応する。
「ライラ、心配しなくてもいいわ。私に婚約者がいるから。」
シグナスの発言でやっと会話の意味がわかった。どうやら後継者についての話のようだ。それについては、今の内容だとどうやら解決しているらしい。
「今回のパーティーは、カインくんが考えてくれたんだ。」
ほっとしたのも束の間、また名前を呼ばれて背筋を伸ばす。
「確かに、企画したのは僕ですが、準備をしてくれたのはほとんどが同級生の友人らです。」
誤解させないように補足をする。
「カインも、あなたも、皆さんも、いろいろありがとう。久しぶりの我が家は、とてもあたたかかったわ。」
シャンデリアにのったキャンドルの炎が、嬉しそうに揺らめく。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか、母さん。」
「ええ。」
大団円の会はお開きになり、王宮の外に出る。そこには先ほどと同じ御者のいない箱だけの馬車があった。
「じゃあ、リリー、ジャン、よろしくね。」
「了解。」
カンナの合図で火属性の二人が魔法を自らに展開する。
特殊魔法、ハポネス・アサル、馬。(日本語を焼く、馬。)
宙に書いた”馬”の文字を炎で炙って、自らの体を馬の姿に変える。
「では、オリーヴさんは馬車にお乗りください。」
アスカに案内されて馬車に乗り込む。
「お父さんも一緒に乗ってくださいね。」
「いいのか?二人となると重さが・・。」
「火力上げるんで平気です。」
カインの父親の心配をよそに、馬になったアマリリスが元気いっぱいに答える。ちなみにレツとカインはボレリアス14世らと最後の挨拶をしている。
「もうお別れか。チョットさみしいかな。」
先に乗り込んでいたオリーヴさんが、外の景色を眺めながら感傷に浸る。
「また来ればいいさ。」
後から乗り込んだカインの父親が、あっけらかんと言う。それを聞いて、目を合わせてニコリと笑うと、嬉しそうに付け足した。
「そうね。」
そして馬車は去ってゆく。響き渡る鐘の音に送られながら。
「僕らも帰るか。」
「うん。」
レツが残ったメンバーに声を掛ける。
「アル、カイン、強化魔法、お願い。」
「了解。」
今日中に帰るために、二人でみんなに強化魔法をかける。
強化魔法、ソル・トレンラピド。(光の特急列車)
モシコ・ダッソスを囲む壁が見えてきたころ、アルメリアがカインに声を掛けた。
「カインくん、良かったですね。」
その嬉しそうな声色に、カインも微笑む。
「ああ。」
僕ら魔法使いにとって、自らの魔法で人々を喜ばせられることは、”誇り”である。
「魔法使いで良かったな。」
後ろに見える鐘の、柔らかな音色が魔法使いらの背中を押す。
輝く月夜の下、僕らはそれぞれの家に帰る。そして、こう言うのだ。
「ただいま!!」
そう言える場所があることの喜びを噛み締めながら。
ちなみに、このパーティーが後に歴史を大きく動かすきっかけになるのだがーー。
それはまた、別のお話。
=side story カイン編 Fin=
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