第3楽章その4 夏休みはあるらしいよ
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
校長室で魔剣を見たあの日から、不穏な大魔界の会話を聞いたあの日から少しの時が経ち、額から汗が流れ落ちるほどの暑さをつけてきた7月中旬。今まで僕たちが関わった分を書き終え、とりあえず「悪魔ノ書」が完成した。隣で日直のリリーが日誌に『悪魔ノ書、完成ニ至ル』と書き込んだ。
この悪魔ノ書を作ってみて感じたこと。
ーー悪魔の出現率が高い。
担任のミズ・ダリアも過去最多の可能性があるという。ここ3ヶ月だけで6体もの悪魔を実際に成仏させたしな。これに1番反応を示しているのがジュピター校長で、ミズ・ダリアが教師を始めてから数えても今年が1番身構えているという。
そういえば、初の討伐同行で僕らが光化させた”赤のパラサント”と命名されていた悪魔が落としていった爪は覚えているだろうか。あの爪についてだが、一度は校長室にて保管されていたが、学校が運営している魔法についての資料館に特別展示されることになった。
聞いた話によると、爪の内部にはドスのきいた紫色の血液のような液体が残っていたため、丁寧に取り出し、現在最優先で研究が進んでいるという。夏休み明けには報告があると言われてはいるが、まだ分かったものではない。
「それではこれから、みんなに夏休みの特別実習についてのプリントを配ります。」
このヘールボップ魔法学園にも夏季長期休暇はある。大体20日ほどあるらしい。はずなのだが、配られたプリントのカレンダーは、予定でほとんど埋まっている。
「うわっ、調合実践3日もあるよ。」
「単位テストが前半と後半で2回もある。」
「戦闘訓練5日も入ってる。」
完全フリーが3日しかないことに気づき、みんなあれこれと文句を言い始める。普通科だったら丸々フリーのはず。これが特待科の宿命か、ともう諦めるしかないのだろう。
「夏休みには7日間に渡る課外学習、通称”夏合宿”が予定されています。過去に魔法の関わる重大な事件が起きた町へ実際に行ってもらいます。それぞれ、どんな事件が起こってどんな結末を迎えたのか、調べて疑問点を挙げておいてくださいね。」
行き先は主に3か所。王都プラシノス・オケアノスの盆地の町メルキュライ。川向こうのファーロス・リムニ州に属する町ヴェヌス。火山を東側に控えるフィモス・クシラシア州のふもとの町ネプトゥーネ。かなり距離があるが、移動手段は魔法飛行。まぁ、つまるところ自力である。ちなみに、なぜこの3か所かというと、この3か所で起きた事件がこの国の”三大事件”と呼ばれているからである。
下校時刻が近づいていたので、図書館でそれぞれの町の地理に関する本だけ借りて外に出る。廊下ですれ違ったミズ・ダリアが後ろの方で校長に呼び止められていたのを思い出し、建物を振り返って窓を端から見ていると、校長室に入っていくのが遠目に見えた気がした。
その校長室での会話は以下のようだ。
「ミズ・ダリア、あなたのお姉さんにお会いしたい。今度学校に来てもらえるか聞いてくれるか。」
「わかりました。最期・・ですか。」
「だといいんだがな。」
「あの子たちに出来るのでしょうか。」
「何とも言えん。ただ、担任ならば信じてやってくれ。」
「ふふ、そうですね。信じてみます。」
「そのための強化合宿だ。あなたにも苦労をかけるが、よろしく頼む。」
「はい。」
もちろん、この内容を二人以外に知る者はいない。
そして、あっという間に夏季長期休暇、いわゆる夏休みに入り、合宿の時は来た。日程としては、1日目と2日目がネプトゥーネ、3日目と4日目がメルキュライ、そして5日目から7日目の昼頃までヴェヌスを訪れ、最終日の夜までにはここニフタ・ミナスに帰ってくる予定だ。また、4日目のお昼過ぎには王都プラシノス・オケアノスの王族の住む高地エリア・ウラノースにあるマックノート特別高等魔法学園を訪問し、学校長を兼任されているこの国の第2王女ユーチャリス様とお会いさせていただく予定まで組まれている。なんて豪華な。それだけジュピター校長が凄い人だということなのだろう。ちなみに、事前学習でジュピター校長はユーチャリス様のことを”ちびっこ”扱いしてたけどね。
各地で詳しく三大事件を学ぶ。移動は強化魔法なので楽ではないが、同じ町で夜を過ごす場合は宿に泊まれる。そういうときの翌日の朝ごはんって楽しみだよな。特にヴェヌスはその昔は違う国だった地域のため、同じエブリア・ペディアーダでも若干文化が違う。食べ物も、ニフタ・ミナスにはない食材が使われた料理もあり、女子がシェフに質問攻めをしていた。主にデザートを。
この合宿を含めて夏休みの話はまたの機会にする。なぜなら・・何も起こらなかったからだ。3年生の討伐隊の出動要請もなければ、外課題用依頼ボードに悪魔関連の依頼が追加されることもない。ただの学生を過ごした。4月の入学式から夏休みまでの1学期のドタバタが嘘のように静かで穏やかな日々に、時が来るのを待っているかのような不気味ささえあった。
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