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DRAGON+CROSS  作者: 黒姫美奈
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side story カミルレ編その5 少女一人分

誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。

 カミルレが部屋を出ていったあと、一気に静かになったところで。

「ずっとやりたかった役・・。そうか、卒業公演の。」

 途中まで言って口に出すのをやめるレツ、を見る1年。


 1年の様子を伺っていた隊長が決断する。

「よし、今回頼まれているのは男女5人ずつ10人だ。配役は1年に任せる。残りはスタッフな。」

了解(ラジャー)。」


 少女は病院に一直線。看護師に病室の前まで案内してもらう。

 扉の取っ手に手を掛ける。


 よし、入ろう。


 少女はもう片方の手でノックをし、扉を開けた。

「失礼します。」

 閉めた扉の前で一礼する。

 小さな一人用の個室に6人ほどがいたが、誰も何も言わない。

 カミルレも、何も言わずに寝ている男性の横に着いた。


 男性は、頭を少しずらすと、こう言った。

「おかえり、カミルレ。」

 その言葉に思わず(なみだ)がこぼれる。

「ただいま、トーリー団長。」


 団長の言葉に、周りにいた人々が驚く。

「カミルレ・・って、まさかあの伝説の子役、水の妖精、カミルレ・ベオグラーディオですか。」

「まじかよ。」

「本物なのか。」

 周りの反応に戸惑うカミルレに、団長は語り出した。


 お前の最後の公演の次の日、お客様から集めたアンケートの集計に、皆が集まった。もちろん、お前はもういない。

「”主演のカミルレが凄い。””主役のカミルレさんの演技に圧倒された。””カミルレさんに元気をもらった。”カミルレ人気が本当に凄いわね。」

 受付でアンケートを扱っていた女性がカバンから大量の用紙を取り出しながら読み上げる。

「ここまでくると、もう伝説だな。」

「いや、レジェンドだろ。」

「どっちも同じだろ。」


「どうせなら、なんか(かんむり)付けようぜ。」

 小道具を大きな荷物から取り出しながら、背の高い男性が提案する。

「そうだな。じゃあ、”水の巫女(みこ)”でどうだ。」

「なんか違うわね。」

「そうかあ。」

 衣装をいじっていた女性が反論する。そんな様子を周りの人はクスクスと笑いながら見ている。


「何がいいかな。」

「だったら、”妖精(ようせい)”は?”水の妖精”!」

「それいいな。じゃあ、次からはその冠付けて演じてもらおう。」

 おーっと歓声が上がる。

「で、そのご本人様はどこに。」

 見渡してもその”水の妖精”はいない。


「一人、二人、三人・・・。」

 誰かが怪しげに数え始める。ぽかんとする人の中で一人が叫んでツッコむ。

「皿屋敷か。」

 納得してどっと笑いが起こるが、すぐにみんな悟って黙ってしまった。


 そんな部屋に団長が入ってくる。

「・・辞めちゃったんですね。」

 誰かが問う。

「あぁ。」

 静まり切った室内に暗い声だけが響く。

「辞めたい気持ち半分、辞めたくない気持ち半分、といったようだった。」


 この劇団に所属する劇団員の中で、入団時と比べて一番変化があったのが、ほかでもないカミルレだった。はじめは、暗くネガティブで誰かに引っ張ってもらっていた彼女が、たった3年で、明るくポジティブになり誰かを引っ張っていく(さま)は、劇団内の雰囲気を明るく照らしていた。カミルレは、劇団の希望であり、劇団の光だった。カミルレを中心に出来ていた輪を、本当は崩したくなかった。


「あの、団長。」

 カミルレと同じく水属性の魔法使い、クレソン・バナコが口を開く。

「お許しを頂けるなら、私にスイをやらせてください。」

 クレソンはカミルレの一番弟子だ。これまで何度もカミルレの技や演技を一番近くで見てきた一人だ。


「カミルレさんにその気があるなら、いつか戻ってきてくれると思うんです。その時にもうやってないと言われたら・・。だから、この演目を続けさせてください。」

「僕からもお願いします。」

 みんな頭を下げていた。たった一人の少女のために。


 自分としても、あの子の笑顔をもう一度見たい気がして、承諾することにした。


 あの日から5年、手を変え品を変え、あの物語を演じ続けていた。でも、音沙汰なし。カミルレが戻ってきてくれそうな気配はなかった。

「そろそろ潮時か・・。」

 次で最後にしようと、そのあとは新作にしようと、そう決めて稽古に励んだ。


 そんな矢先に大火事が発生した。火事の火元は自分の工場。何人かの劇団員も務めていて、みんな死にはしなかったが負傷してしまった。かくいう自分も、従業員を避難させるのに必死で逃げ遅れ、瓦礫(がれき)に足を(すく)われてこの有り様だ。


 新作は出来ている。これなら演者も少人数でいい。今から稽古しても間に合うだろう。

 もう、諦めよう。あの子に期待するのは。

 自分ではそう思ったのだが、団員がそれを許さなかった。学生さんたちに依頼したいと言い出したのは自分じゃない。劇団員たちが言い出したんだ。自分の中にも諦めきれない思いも多少あったから、好きにしろと言った。それで、団員の一人が依頼をしたんだ。自分たちの、最後の望みを掛けて。


「それがどうした、また会えた。こんなにうれしいことはない。声だけでもわかったよ。そして今、目の前にいる。素晴らしい奇跡を、どうもありがとう。」

「トーリー団長・・。」


 知らなかった。そんなに思われていたなんて。みんなを裏切ったのは私の方だというのに。みんなを傷つけたのは私の方だというのに。

ページの最後まで読んでいただきありがとうございます。少しでもおもしろいと思ったら、評価や感想を残して頂ければ嬉しいです。これからもマイペースに投稿していきますので、続きが気になった方はブックマークをしていただければと思います。

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