side story カミルレ編その4 その町は
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
劇団を辞めた後、親の都合で別の町に引っ越すことになった。4月から新しい学校に通えるようにと、しばし手続きに追われた。その間に、団長が別の町に引っ越す話も出たようで、劇団員の何人かを引き連れていったと、風の噂で耳にした。だから、あの劇団が今どうなっているのかはわからない。
「もし、1つだけ悔いが残っているとしたら、あのとき最後に演じた役をもう一度演じてみたいってことかな。」
誰も何も言わない。空の鳥も黙って通過していく。
「あーなんか、ごめんね、暗い話で。ほら、周りもこんなに暗くなっちゃった。話すの上手じゃないから、だいぶ時間かかっちゃった。ほら、学校に戻ろう。」
「そ、そうだな。帰ろう。」
と、座っていた3人が立ち上がった瞬間。
「ちょーっと待ったー。」
猛スピードで誰かが向かってくる。足裏から炎を吹き出しながら。
「あれは。」
「マー兄!」
超火力でやってきたのはマーベラスだった。
「隊長、どうしたんですか。そんなに急いで。」
良かったーまだここにいて、と一息つくと、とりあえず来てほしい、とすぐに踵を返した。
「カイン、アルメリア、みんなにあの魔法を。」
「了解。」
レツの指示ですぐに後を追う。
強化魔法、ソル・トレンラピド。(光の特急列車)
「それで、一体何があったんですか、隊長。」
いち早く隊長に追いついたアスカが確認する。
「隣の州にあるレムスという町の工場が爆発した。ケガ人多数。火災、未だ鎮火せず。」
「レムスと言えば、教頭先生の。」
「ああ、出身地だ。とにかく、到着後、水と火で火災に対応、光と土と風で市民の安全を確保。」
「了解。」
山を1つ超えると、燃え盛る建物が確認できた。炎は大きくはないが、黒煙がもくもくと上がっていた。
将棋の駒のような五角形の敷地内に、”P”を上下逆さにしたような工場の建物が建っているようだ。
「あれ、この工場、なんか知ってるような・・。」
「どうしたの、カミルレ。」
「ううん。何でもない。」
攻撃魔法、オラ・ダンサー。(波の舞)
到着3秒、レツの魔法から消火活動に加わる。結構時間がかかっているようだった。ちなみに、火属性組がなぜ消火班なのかというと、火元になった炎を自分の力に変えることで、元を断つことが出来るからだ。
その後の活動により、カインたちの到着からおよそ1時間で火は消し止められた。
「やっぱり、私見たことある、この景色。」
焼け焦げた街並みを右から左から眺めてみて、不思議な感覚を覚える。
と、まじか、と頭を抱えた隊長が1年組の所にやってくる。
「どうしたの、マー兄。頭痛?」
「いや、そうじゃなくて。面倒臭い依頼が入ったんだ。」
「面倒臭い依頼って。」
妹の質問に、大きなため息を吐いてから答える。
「この町で来週予定されていたとある劇に、役者として出てくれってさ。」
「劇?ですか。」
「ああ。」
今回の火事で劇団員が負傷してしまったらしい。延期にしてもよかったのだが、楽しみにしてくれていたファンのためにも予定通りに公演を行いたいらしい。
ということで、救護に廻っていた人たちも一堂に集められた。
「今回の台本は、この劇団のオリジナルストーリーだから、すべてのセリフと動きを覚えなくてはならない。」
「全員出なきゃいけないの?」
「いや、数名で大丈夫だ。が、主役も頼まれているんだ。」
「主役も?大変だったらWキャストにする?」
「いや、スタッフ係を含めても人数がぎりぎりだから、どの役も一人に任せたい。」
3年生が作戦を練っていく。1年組はとりあえず静観している。
「というか、なんでマベが説明してるの。普通こういう時って団長が出てくるんじゃないの。」
ベルガモットが呆れる。
「それが、その団長さんが火事の起きた工場の工場長で、ほかの社員逃がすのに必死で逃げ遅れて負傷したんだと。」
「ふうん、悪い人じゃなさそうね。」
なぜか背中がゾクッとした。
「それで、今回の物語の表題は何ですの。」
「えーっと。」
肩掛けの大きめのバックから台本の1冊を取り出し、表紙に書かれたタイトルを読み上げる。
「『Beyond the Light ーアノヒカリノサキヘー』だって。」
泪がツーと流れた。
「もしかして、その主人公の名前は”スイ”ですか。」
「えーっと。」
台本をめくり、香盤表を確認する。
「うん、確かに”スイ”が主人公のようだね。でも、なんで知っているんだい。」
「団長のお名前は。」
「・・トーリー・ムパパメさん。」
久々に聞いた名前に心がえぐられ、すすり泣く。普段と違うカミルレの様子に、隊長も何かを感じたようだ。
「・・変わって、ない。」
そこでアルメリアが気付いた。
「あのぉ、もしかして、前にルーさんが所属していた劇団なんじゃ・・。」
ハッとする1年と、何の話かと頭にハテナを浮かべた3年が、一斉にカミルレを見る。カミルレが大きく頷く。
「トーリー団長は今どこに。」
「そこの病院だけど・・。」
マーベラスが窓の外の大きな建物を指さすと、カミルレはそこに向かって駆け出す。
「ちょっと、カミルレ!」
名前を呼ばれて立ち止まり、くるっと回って笑顔を見せると、こう言い放つ。
「主人公は私がやります。ずっと、やりたかった役だから。」
そして少女はまた走り出す。まるで、迎えに来た親に飛びつく子供のように喜んでーー。
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