side story カミルレ編その3 最後の公演
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
「それが私の役者デビューの話。」
カラスが鳴き始めた空にも関わらず、学校に帰らずにカミルレの思い出話を聞いていたみんなが、凄いなと表情を明るくする。
「なんか、ドラマでも見ているみたいだな。」
「確かに、テレビスペシャルが1本できそうなサクセスストーリーだな。」
イアンやアスカが興奮する。
「ううっ。涙がでてくるよぉ。」
ジャンが目をウルウルさせている。ほかのみんなもわくわくした表情を見せる中、ふとアルメリアが気付く。
「あれ、でも今は別に役者じゃないですよね。もう、辞めちゃったんですか。」
その言葉にみんなの視線がまたカミルレに向く。カミルレは、うん、と小さくつぶやく。
「本当は役者続けたかったんだけどね。いろいろあって辞めちゃった。今でもたまに後悔してるんだけどね。」
そしてまた語り出す。サクセスストーリーのように見えた筋書きの、正しいエンディングを。
その劇団、マチェッタ・マゼッタには3年ほどお世話になったの。学校でのストレスを、いつも稽古で発散してた。魔法も演劇で使ってたから、学校では制御できるようになっていった。先生や友達も少しずつ警戒を解いてくれてちょっとずつだけど仲良くしてくれるようになっていった。
でも、事件はまた起きた。子供学校6年生の12月だった。
私は自分の力を制御しきれず、観客に怪我をさせてしまった。病院に運ばれたその方は、全治3ヶ月の骨折だと診断された。私は演劇の楽しさに魅了され、重大なことを忘れていたの。
魔法は凶器にもなり得る。
楽しんでもらうべきお客様に悲しい思いをさせてしまったこと。自分の力を制御しきれなかったこと。みんなを裏切るようなことをしてしまったこと。
後悔の波に襲われた。
親に相談したら、私が入りたくて入ったんだから、辞めたいのなら辞めればいい、と言われた。
私がこれ以上後悔しないように、自分で決めなさいと言われているようだった。
公演後の反省会。いつもの稽古場で。いつもと同じような流れで同じように反省点を挙げていく。いつもなら次回のために集中して反省点を確認していくところだったけど。さすがにそんな気になれなくて、みんなの会話をぼんやりと聞いていた。何が反省点としてあがっていたのかなんてもう覚えてないけど、気を遣ってなのか、誰も怪我の話題は出さなかったことは覚えてる。
反省会が終わってちらちらとみんなが帰っていく。台本の表紙に書かれたタイトルを指でなぞる。それで、心を決めて、1番最後まで残った上で、団長に話しかけた。
「団長・・。」
「どうしたんだい、カミルレちゃん。」
「あの、私。」
「うん。」
「・・辞めます。」
「どうして、急に・・。いや、野暮ってモンか。」
「これ以上お客様を傷つけたくないんです。」
「ああこの間の。でも、ちゃんと力を制御してくれれば何の問題も・・。」
「できません。」
「え。」
「もう、制御できる自信がないんです。」
「そうか・・。」
日に日に力が増大していくのは目に見えてわかっていた。公園の壊れて止まっているハズの噴水から、ありえないほどの水を噴出させていたり。田んぼの側を歩いているだけで、用水路を壊すほどの水を出現させてしまったり。子供学校の空のプールから水をあふれさせたり。
「だから・・、劇団辞めます。」
「そうか・・。わかった、認めよう。ただし。」
条件つき。でも、第2の被害者を出さないためなら。
「あと1作、あともう1作だけ。1月の舞台には出てほしい。新作の初演なんだ。辞めるならそのあとで好きに辞めてくれ。どうだい、やってくれるだろう。」
これには断り切れず、それを最後の舞台に、卒業公演にしよう、と決心した。
驚くべきことに主役は私だった。意図して書かれたのか偶然なのかはわからないけど、最後にふさわしい役だと思って全力で演じた。
全日満員御礼。全14公演。お客様の中には、あれほど私を嫌がっていたみんなも来てくれていた。
千秋楽。14公演目。暗転から一人だけピンスポットを浴びる。
『すべての生き物はみんなどこかで繋がっている。お互いを必要としている。忘れないで。あなたが一人じゃないってこと。よく耳を澄まして。あなたを待っている人の声を。ね、見えるでしょう。一緒に行こう。アノヒカリノサキヘーー。』
暗転。拍手。そっと袖に戻る。
ーー終わった。
舞台が明るくなる。順番に出て行って最後のカーテンコール。
「本日はお越しくださいまして、誠にありがとうございました。」
ありがとうございました。
ここに来て、3年の月日が去った。
笑った。泣いた。怒った。
うまく出来た日。失敗した日。悩んだ日。
もう、いまさら後悔なんてない。
お客様がいなくなり、静まり切った客席。何度も立った、ステージのセンター。そこに、客席に背を向けて立つ。
「お世話になりました。」
小さくつぶやいて深く頭を下げる。走馬灯を思い出していたら、床に泪がぽたぽたと落ちるのが見えた。
団長以外は、私が辞めることを知らない。ポケットから取り出したハンカチで泪を拭い、笑顔になってから顔を上げる。堂々と上手の袖に戻ると、機材を入れた大きなカバンを、みんなで車に積み込んでいるところだった。
「おー、主役お疲れ様。」
「皆さんお疲れ様でした。私も手伝いますよ。」
「いーっていーって。主役は早く帰って休みな。」
「そーそー。男手あるし、大丈夫よ。」
「わかりました。これで上がります。」
最後と悟られぬように、いつも通りに。誰にも何も言わずにその場から立ち去る。
自分の荷物を手に、会場を後にしようとすると、出口の扉に団長が寄りかかっていた。私に気づいて黙って近づいてくると、すれ違いざまに頭をくしゃくしゃっとして、また黙って通り過ぎていった。私は、泣きたいのを我慢して口を一文字に引き結ぶと、後ろを振り返らずに劇場を去った。
子供学校6年の1月のことだったーー。
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