第3楽章その1 校長先生の実験
誤字脱字には気を付けていますが、表現が拙い部分は、そういうものだと思って読んでいただければと思います。
=第3楽章=
断罪者と悪魔
次の日、登校して教室に行くと、早く来ていた人たちが何やら作業をしていた。
「おはよう。で、何してるんだ。」
「おはよう、カイン。みんなで”悪魔の書”を作ってたの。」
「入学早々、悪魔、たくさん、遭遇。滅多にない。」
「それ、討伐同行の時の奴だろ。」
「正解。良かった、わかってもらえて。」
お絵描きをしているカミルレとフクシアと話していると、レツが二人の様子を見に来た。
「今後の参考になればと思って、今朝僕が提案したんだ。」
「それはいいけど、女子が絵担当なのか。」
「ああ。実はさ・・。」
「レツ、絵、描けない。」
「ああ、そういうこと。」
見渡すと窓際で悪魔の分類確認をするチームもあった。
「アスカ、イアン、おはよう。」
「おはようって遅いぞカイン。昨日のこといろいろ教えてもらいたいのに。ギリギリ登校かよ。」
「いや、ホントにケガがないか父さんのチェックが厳しくて。」
「で、どうだった。」
「いや、やっぱりなかった。」
「ずるいぞ。俺なんかかすり傷だったのに、シャワーが染みてさ。」
イアンが左肩を押さえる。
「まあ、それは仕方ないからいいけど。昨日のこともっと詳しく聞いていいか。俺、途中参加だからさ。」
「それはいいけど、あと10分くらいで授業始まるぞ。」
「ミスター・トリノの悪魔対処学だから大丈夫だろ。」
黒板の”当番ヴォス”の文字を見つけると、教卓の引き出しから日誌を取り出し、朝の活動のところに”悪魔ノ書作リ”と書き込んだ。
興味を持ったミスター・トリノの助言によってスムーズにまとめられたものの、休み時間を目いっぱい使っても悪魔の書は完成せずに、放課後になってしまった。
「カインくん、本当にケガしなったんですか。」
「ケガ、ない。珍しい。」
「ああ、帰って父さんと二人がかりで確認してみたけど、無傷だった。」
「すごい、丈夫。」
残って続きを作っているアルメリアとフクシアにまた確認される。いろんな人から確認されてる。今日だけで多分20回は聞かれたと思う。実際、流れ弾で手の甲にいくつもの切り傷と左肩に軽い打撲を負ったイアンと違い、直撃した僕には本当に切り傷一つなかったのだ。父さんとの確認のあと、同じく光属性の魔法使いである母さんに報告すると、何か防衛魔法がかかっていたのでは、と言われた。あの時は別にそういう系の魔法は展開していなかったと思うが。うん、使ってなかったと思う。多分。
「あ、校長に呼び出されてるんだった。ちょっと行ってくる。」
「わかりました。」
「気を付けて。」
校長室に行くのに”気を付けて”と言われるのは、昨日の校長からの宣戦布告を知っているからだろう。いってらっしゃい、とのんきに手を振る二人を後ろ手に校長室へ向かう。昨日の今日だから、きっと傷の件だろうと考えながら渡り廊下を進み、階段を上る。
特待科棟から伸びる2つの渡り廊下。一つは体育館へ行くためのもの。1階と3階にあり、さらに廊下を進んでいくと特別教室棟や普通科棟へも行ける道。学食へ行くルートでもある。
そしてもう一つの渡り廊下の先には教授陣のいる研究棟がある。併設されたホールと呼ばれる円形の闘技場では、能力検査や大型イベントが行われる。ちなみに、ホールへ行く渡り廊下はもう1本あるので、普通科の生徒と僕ら特待科の生徒が校内で鉢合わせることはほとんどない。
4階建ての研究棟の4階部分の階段側半分が校長室である。もう半分はジュピター校長の自室で、校長にいわゆる家はないらしい。
「1年特待科、カイン・ヴォストークです。失礼します。」
2回ノックして、決まり文句を口にするが、中から返事はない。
「校長?ジュピター校長?入りますよ。」
扉が少~し開いていたので、入っていいんだと思ったのが間違いだった。一歩、中に入った直後。
「うわああぁぁ。」
突然の5段階攻撃。よく見ると何やら魔法陣を踏んでいたらしい。
いきなり地面から針が飛び出し足をロックされると、トゲトゲの硬水の手錠を掛けられ、閉じられた扉から背中に向けて炎が放射されたと思ったら、わき腹に光の矢が刺さり、とどめには竜巻で飛ばされて壁に激突した。
ぐはああぁぁ。
「痛ってー。」
壁の飾りにほこりがつかないように、とかぶせてあった風呂敷を頭から振りかぶりながら、地面に倒れこむ。そこに、意気揚々と校長が姿を現す。
「なんだ、傷だらけでボロボロじゃないか。昨日のあれは、ただ当たり所が良かっただけだったということか。」
なんでこんな大がかりなことを、と歯向かってみると、校長はほくそ笑みながら腕を組んで呟く。
「魔法使いと耐性の関係についての実験だ。協力に感謝する。」
実験台だったのか、僕は。と呆れ気味に風呂敷をとる。
抑制魔法、ルナ・インシエンソ。(月のお香)
臙脂色の渋めの風呂敷が頭からひらひらと落ちると、校長の光魔法で少し痛みが引いた。明るくなった視界の先には、本来見えてはいけないものの一つがあった。
「校長、この剣は何ですか。火属性のソードとも違うようですが。」
すると、さっきまでの自信はどこへやら。校長は僕から目を背けると、ぼぉっと呟いた。
「魔剣だ。私はその剣で友を斬ったのだ。ただ、それだけだ。」
消え入りそうな、やっと聞こえるだけの声。深く追究するのはやめよう。きっと知らないほうがいい。
校長はそのまま隣の自室へ戻ってしまう。僕は風呂敷を握りながらその背中を見送ると、”魔剣”と言われたその剣と向き合った。
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