表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

04 八時間睡眠という拷問

 アータートン子爵の妨害がなくなると、一ヶ月もしないうちにミスリル採掘は軌道に乗った。

 そのせいでアルビオン伯爵家は注目を集め、見合い話が向こうから来るようになった。

 だがパトラはその全てに「私より強い人」という条件を出し、試合で返り討ちにする。


「アータートン子爵と違ってよさそうな相手だったのに、なんでやっつけてしまうんだ!」


「そうですよ、パトラ。あなた、まさか一生独身でいるつもりなの!?」


「もう借金の心配がないので、私が結婚を急ぐ理由はありませんし。魔法の研究ができなくなるなら一生独身のほうがいいです。なので『私より強い人』という条件を撤回するつもりはありません」


「お前より強い男なんているかぁっ!」


 パトラの強さが知れ渡ると、見合いと関係なく、道場破り感覚で勝負を挑んでくる者も出てきた。


「うちは魔法の道場じゃない!」


 ミスリルで儲かっているのに、両親は頭を抱えていた。




 アルビオン家が伯爵になってから、そろそろ一年が経つ。

 パトラは相変わらず女性職員から容姿に関する悪口をあびながら、マイペースに魔法の研究を続けていた。

 それは幸せな日々のはずだった。

 だが、大きなものがぽっかりと欠けていた。


 ヘリック王子が顔を見せなくなったのだ。


 以前は毎週のように来ていたのに、月に一度になり、三ヶ月に一度になった。

 寂しい。

 風の噂では、騎士団の訓練所にこもり、剣技と魔力を徹底的に鍛えているとか。

 国を守るための向上心が凄いとパトラは感心する。

 けど寂しい。

 ヘリック王子は別にパトラのものではないのに。


 そんなある日。

 両親から呼び出されたパトラは、王都に新しく建てたアルビオン家別邸に行く。

 また見合いらしいが、いつもと様子が違う。

 相手が誰かと聞いても「先方から直前まで秘密にして欲しいとお願いされた」と不思議なことを言う。

 その見合いは失敗できないから気合いを入れねばならないとか。


「はあ、気合いですか……私はいつものように返り討ちにするだけですけど」


「試合でどう戦うかはパトラの自由だ。しかし今日から見合いまでの一ヶ月、お前はアパートメントではなくここで私たちと暮らしてもらう」


「生活習慣を徹底的に改善してもらいますからね!」


「え」


 両親が手を叩くと、メイドの軍団がずらりと現われた。

 そして風呂に連れて行かれた。念入りにトリートメントを施され、全身にマッサージオイルを塗り込まれる。

「一日最低八時間の睡眠」「バランスのいい三度の食事」「適度な運動」「スキンケア」。

 あまりにも忙しくて魔法庁を休みがちになった。たまに登庁しても定時で上がるしかない。


 パトラにとって拷問のような日々だった。

 なぜ毎日風呂に入る必要があるのか。ドラゴンは風呂に入らないけれど、とても強靱だ。ゆえに人間だって風呂に入らなくていいはずだ。

 肌が艶やかになり、目のクマが消えるにつれ、精神的に病んでいく。

 体調がよすぎる。軽やかすぎて逆に歩きにくい。

 空がこんなに青いと久しぶりに思い出した。眩しい。もっと灰色になってほしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です↓↓↓↓

嘘つき……絶対に許さない!

こちらも読んでいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ