表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

10 囮作戦

 ティムという若者が魔族に変貌してから、街のいたるところで殺人事件が起きている。

 男女ともに被害にあっている。

 ただし両者の死体には、著しい違いがあった。


 女性の死体は念入りに解体され、そして手足を逆に繋ぎなおしたり、皮膚を全部裏返したりと、異常な殺され方をしていた。悪趣味極まるが、どこかアートじみた思想さえ感じる。


 一方、男性の殺され方は雑だ。急所を一撃で貫かれている。目撃されたので仕方なく殺したという様子だ。


 魔族の行動パターンは、素体になった者に影響されるという説がある。

 そして今ほどのペースではないが、魔族出現以前から猟奇殺人が起きていたらしい。

 ならば、その犯人はティムで、魔族になったことでエスカレートしたのでは……パトラはそう思ってしまった。が、証拠はなにもないし、口にすればクリフトンを怒らせるだけだろうから、黙っていることにした。


 レイラウドの街には立派な美術館がある。

 早朝。女性の猟奇死体が展示(、、)されているのが発見された。

 パトラは、自分が到着してから起きた殺人事件に心を痛めた


「いや、だからってパトラが囮になることはないだろう!」


 ヘリック王子は必死の形相で言うが、パトラは考えを改めるつもりはない。


 作戦を端的に言い表せば、新聞を使った『挑発』である。

 まず、パトラ・アルビオンという魔法庁の職員が、王都から事件解決のために派遣されたことを、大々的に新聞記事にする。写実的なパトラのイラストも載せてもらう。


「女性ばかりを狙って猟奇殺人を繰り返す魔族は、いかに魔力が強かろうと精神的には弱者であり、変質者だ。しかも猟奇死体を芸術だと思っているようだが、ただ残酷ならそれでいいという下劣な感性で、美意識の貧困さを感じる。あのような死体を美術館に飾ったところで、ほかの美術品の素晴らしさが際立つだけ。アンダーグラウンド・アートを好む者でも、興味を示さないに違いない。魔法庁は幼稚な感性の魔族に後れを取ったりしない。今夜からパトラ自らパトロールを行い、速やかに魔族を見つけ、殲滅する」


 と、インタビューに答えてやった。

 魔族が死体の芸術性にこだわっているなら、そこを突けば絶対に反応するはずだ。


「そりゃ反応するだろうさ。このパトラのイラストは素晴らしすぎる……切り取って額に入れて飾りたいくらいだ。せめて目の下のクマを強調するとか、髪をボサボサに描くとか……」


「クマはファンデーションで誤魔化しましたし。髪はちゃんととかしましたし。そもそも、魔族を誘き寄せるのが目的なんですから、本物よりも綺麗に描くのは当然じゃないですか」


「なにを言っている! 本物のパトラのほうが十倍は綺麗で可愛いぞ! 逆に言うと、このイラストはパトラの魅力を一割も表現できている……この絵を描いた人を宮廷画家としてスカウトしようか……」


「ヘリック様。論点がズレてます」


 パトラはつとめて冷めた声色で指摘した。そうしないと嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだったのだ。


「パトラを危険な目に合わせたくない……よし。俺が女装して囮になるというのはどうだろう?」


「落ち着いてください。お顔は大変美しいので問題ありませんが、首から下がたくましすぎます」


 ヘリック王子の提案は全て却下し、刷った新聞を街中にばらまいた。

 そして夜。

 パトラは予定通り、一人で大通りを歩く。

 もちろんヘリック王子や、クリフトン率いる魔法師隊、衛兵たちが影ながら見守っている。


 十二時を告げる鐘が鳴る。

 その瞬間、膨大な魔力の気配が、時計塔の上からパトラへと襲い掛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です↓↓↓↓

嘘つき……絶対に許さない!

こちらも読んでいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ