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雑記  作者: 入江晶
4/15

あるキャッチコピーについて(2/2)

・「"ロリータ"を見る目が変わる」とは?

 上記の通り、「ロリータ」は中年男性が十代の少女を手籠めにする話である。正直言って話はこれで尽きていると思うのだが、なぜこのような筋書きが背景にあって、「君は僕のロリータ」というような言葉がロマンチックに聞こえるのだろうかと思う。これが、例えば「シンデレラ」とか「ジュリエット」とかであれば分かるのだが。

 「ロリータ」は基本的にハンバートの視点で綴られており、自分の行いを正当化したり装飾したりする記述は多い。だが同時に、ハンバートは自分を「野獣」と表現したり、自分の欲望が浅ましいもの、異常なものであるとも書いている。むしろそちらの方が目につくと思うし、そもそもそういった記述の態度に関係なく、出来事を追って行けば、まして女性であれば、普通には嫌悪するのではなかろうか。

 筆者には、惹句の対象となっている本において、「女子学生はロリータを読んだことがあり、その時点ではロマンチックな物語だと感じたが、その後読み直した結果、違う解釈にたどり着いた」ということだと思えた。しかし、上記の通り、一回読んで、女性に好意的な話だと感じるのは難しいのではなかろうか。


 確かに、終盤のロリータとの再会においては、ハンバートは少女愛から解放されて真にロリータを愛するようになった、というように読むことはできる(少なくとも、ハンバートはそう読めるように書いている)。その点ではロマンチックな雰囲気もある。しかし、そこの記述によって、それまでにハンバートがロリータに対してしてきたこと、積み上げてきたそんな記述をを帳消しにすることができるのだろうか。さらに、結局ロリータはハンバートの思いを受け入れることもない。これを、例えば苦境を乗り越えて自立した少女の話、と見るのに比べて、ロマンチックな男女関係の話と見るのは、あまり自然ではないように思われる。


 惹句の対象となっている本では最終的に、少女が陰惨な目にあった話、として「ロリータ」を読むことになるようだが、それでなぜ「見る目が変わる」ことになるのか、理解しがたい。普通に読めば、最初からそうでしかないからである。

 もっとも、それは立場によって異なることもあるかもしれない。例えば日本で最初に「ロリータ」が翻訳出版されたときには、幼い少女を手籠めにすることを大して問題ではないと言う、今ではとても信じられないような書評が新聞に出たりもしている。

 しかし今時、いくら上記のようにそう読める部分があったとしても、「ロリータ」をロマンチックな彩りに満ちた作品などと考える人がどれだけいるのだろうか。まして女性の読者であれば、なおさらそれは少ないだろう。



・「ロリータ」の周辺から

 想像できるのは、「ロリータ」という作品の厄介さである。その恐ろしく複雑で多様な文学的な仕掛けは信じられないほどであり、最高の文学作品と言ってよいと思う。そしてナボコフのその他の作品からしても。しかし、その表面的な主題は、出版当時もアメリカでは複数の出版社が拒否するようなものだったし、今ではなおさらだろう。そんな作品を、技巧やあるいは逆説的なモラルといった観点で扱うことすら、もう難しいのかもしれない。

 惹句の前提となっている「"ロリータ"を見る目」とは、要するに、内容についてあまり理解せずに、名作とか古典とかいった程度のラベルでしか知らない人が想像するものなのかもしれない。そこではつまり、内容が社会的な規範に反するはずがないと認識されているのだろうか。


 作者ナボコフのロシアにある旧家は現在、ナボコフについての博物館となっているが、「小児性愛者を顕彰している」という理由で嫌がらせを受けたことがあるという。ナボコフは同年配の女性と結婚して子供もいるのだが、それは偽装のためだったとでも考えるのだろうか(妻のヴェーラはナボコフの創作において陰に日に多大な協力をしており、「ロリータ」についてもそうである)。

 ついでに言えば、「ロリータ」は、別にハンバートのような人間にとって愉快な話でもない。少女はハンバートにとって全く都合がいい人間ではなく、結局ハンバートは強引に振る舞うことしかできず、これで欲望が満たされたのかどうか疑わしいと思われる。従って、ナボコフの意図は、目立つ題材を、反語的に扱うことではなかったのかと思われるのだが、その程度の自然に思える読み方は、「"ロリータ"を見る目」として惹句で想定されていたものではないようである。


 これが筆者の思い違いであればよいのだが。

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