あるキャッチコピーについて(1/2)
※以下は、特に検証も情報収集もしておりません。ただの感想、妄想に近いものです。
・きっかけ
ある本の帯(だったと思う)に、「あなたの"ロリータ"を見る目が変わる」というような惹句が書かれていた。その本を読んではいないし、内容についても全く情報を得ていないが、カバーなどに書いてあったことから読み取る限りは、大学だかで、男性講師が女子学生に言い寄ったことに関するドキュメントらしく、そこでその男性が学生に対して「君は僕のロリータ」と言っていたのだという。女子学生は当初はその男性との付き合いを、その男性の言葉とともにロマンチックなものと考えており、「ロリータ」についてもそう思っていたが、後で自分の扱いの意味を悟り、また「ロリータ」の内容も当初思っていたようなものではないと気づいて愕然としたそうである。
この本の詳しい内容については何も知らないし興味もないのだが、疑問に思ったのは、惹句である。たぶん海外で出版されたときのものをそのまま使っているのだろうが(新聞か何かでそう評された、と書いてあったかもしれない)、上記のような内容で、なぜ「"ロリータ"を見る目が変わる」のかが、どうしても分からなかったのである。
・「ロリータ」と題する書物について
(1)概要と出版の経緯
「ロリータ」(Lolita)は、1955年に最初に出版されたロシア出身で当時アメリカ在住のウラジーミル・ナボコフによる小説である。言わずと知れた「ロリータコンプレックス」の語源となった作品だが、それが20世紀における最高の英文学の一つと言われることも珍しくないということは、少なくとも日本ではあまり知られていなさそうである。
出版前後の経緯や作者の経歴などについては大変興味深い逸話が満載なのだが、本稿の趣旨には関係しないので、大方は省く。当初はアメリカで出版できずフランスで出版された。その後あるきっかけで注目された後、諸問題が解決してからようやく1958年にアメリカの出版社から刊行され、ベストセラーとなり、作者ナボコフに名声をもたらすこととなった。
日本でもそういった評判からか早くに翻訳されており、現在も文庫で簡単に入手できる。この翻訳についても話題は尽きないのだが、省略する。
(2)「ロリータ」の梗概
ヨーロッパ出身のハンバートは、幼少期に成就せずに終わった初恋の影響からか、幼い少女にしか性的魅力を感じないという性癖を持っていた。ハンバートはそれを徹底的に隠し、直接的な行為には及ばず、文学研究に従事していた。
渡米したハンバートは、下宿先で母親のシャーロットと暮らす少女ドロレス(ハンバートによる通称がロリータ)と出会い、魅了されてしまう。善良な人間を装うハンバートに対して、ロリータは気まぐれに振る舞いつついくらか懐き、ハンバートは彼女の目を盗んで自分の欲望をこっそりと満たす。しかし、ロリータのわがままに手を焼いていたシャーロットは、教育のためにロリータをサマーキャンプに送ることを決める。ロリータとの一時的なとはいえ別離に愕然とするハンバートだが、シャーロットが自分に強く好意を抱いていることを知り、ロリータとの生活を手に入れるためにシャーロットと結婚するのだった。
しかしその後のある日、シャーロットはハンバートの日記を盗み見て、ハンバートの欲望を知った。ハンバートは慌ててシャーロットをなだめようとするが、衝動的に家から飛び出したシャーロットは、自動車に轢かれて死んでしまう。ハンバートは葬式などを済ませると、車をサマーキャンプへと走らせ、母親が入院している病院に向かうと偽ってロリータを引き取り、宿泊したホテルでついにロリータと性行為に及ぶ。だがそこではハンバートが計画したことは全くうまくいかず、ロリータもハンバートが考えているようなウブな少女ではなかった。翌日、シャーロットが死んだことを告げると、アメリカ中を駆け回る二人の旅が始まる。
一度はある街に居を構えたものの、結局再び始まった旅の最中、ロリータが熱を出してしまい、入院することとなる。ハンバートも高熱に伏せるが、回復して病院に向かうと、ロリータはそこにいなかった。親戚を名乗る人物が連れて行ったのだという。ハンバートはロリータを探し、あちこちで手がかりを探そうとするが、杳として行方は知れない。
数年が経ってから、ハンバートの下に、窮状を訴え、金銭の援助を求めるロリータからの手紙が届く。ハンバートが手紙の情報からロリータの居場所を見つけ出すと、そこには、みすぼらしい生活を送る、身重のロリータがいた。ハンバートは愕然としつつも、彼女を連れ去った男の名前を聞き出し、そして、すでに少女ではなくなったロリータを今もなお愛していると語り、もう一度ともに暮らそうと呼びかけるが、ロリータはすげなく拒否する。求められていた金を渡したハンバートは涙に暮れながら去っていくのだった。
そしてハンバートは、ロリータを自分から奪った張本人である男、自分と同じ欲望の持ち主であり、度々物語に影を見せていた男クイルティを殺害し、その後逮捕される。ハンバートは程なく獄中で病死し、それまでに記したものが、本作であるという設定となっている。