一歩
カルディヴァ・ゴールドランド
焼死。
スターリリー・フライアー
行方不明。
これは彼と彼女の生前の物語である。
そして彼らの犯した大罪を二度と起こさないための、戒めの物語だ。
トップ五〇三年
都クラウゲート。王立ガーディア学園。入学試験当日。
「これより王立ガーディア学園入学試験の案内を始める。開始の合図後、伏せられた問題用紙の記入を良しとする。各位、裏面に記載されている、戦闘学部、機構学部、衛生学部に誤りが無いことを確認せよ。誤りがある者は挙手を。---無いことを確認した。
本試験は前もっての届出を除き魔法及び魔道具の一切を禁ずる。如何なる理由があれ魔力反応を検知後その者の試験を即刻中止、不合格とする。
九十分の筆記試験終了後、六十分の昼食、終了時刻未定の実技試験を行う。実技試験は入学試験案内状に従い試験場へ向かうように」
教卓を取り囲むように設置された千人収容の階段教室。私たちの視線を一身に受けて立つ彼女に刻まれた皺は長く築いてきた経験と信頼と苦労を物語っている。
一目見た時大木の様だと思った。
ぴっと一本の芯が身体の中心を貫いているように自身の精神性を表しているようだ。
周囲に立つ彼ら彼女ら三人は補助監督者なのだろう。彼女の背後で静かに整列し指示を待つ。
「---宜しい。質問はないようなので、これより筆記試験を開始する。各位、伏せられた問題用紙を捲り解答を開始せよ」
私の周囲にいる人間や獣人は皆一様に複数枚の束ねられた問題用紙を翻し、筆を走らせ始める。彼女の周囲にいる補助監督者三人も彼女の指揮のもと放射状に広がる机の各位置に散らばった。
第一問。
鉱物魔石と生体魔石の違いを答えなさい。
第二十三問。
今日に至るまで獣人は我らが人間よりも下位に位置するが、その理由を三〇七年の出来事と母体生存率を交えて答えなさい。
思わず筆が止まる。
驚いた。王立の公的機関でヘイデシア教『選人思想』に寄った問題を目にする機会があるとは。今の学園派閥はヘイデシア教徒が強いのだろう。
第四十八問
我らが隣人である使い魔の契約魔方陣を記述せよ。
白紙の上を黒い線が幾つも交差する。この魔方陣は特徴的な部分がある。基礎となる魔方陣が存在するのだ。使い魔を使役する魔方陣の為に、一から作られたのではない。既存の魔方陣を改良することで魔方陣は強大な力ですら御することが可能なのだろう。
「止めっ、これより問題用紙を回収する」
学園一帯に響き渡る鐘の音が鳴るのを確認した彼女は、合図と共に声が私たちの筆を縛り付ける。文字通り今私が持っている筆を縛り付けた。筆からゆっくりと手を離せば、天から垂らされた糸の疑似餌のようにぶら下げられた筆。
その筆がふわりと漂い始めると、問題用紙に張り付きころりころりと回転し筒状に一人でに巻き付いた。
白い筒が一斉に教卓に用意された箱に整然と積み重なるのを彼女は確認すると、「以上を思って筆記試験を終了する、昼食後、実技試験の開始時刻に遅れた者は不合格とする。解散」の号令と共に、彼女と解答用紙の箱を携えた三人の補助監督者が両開きの扉から姿を消した。