第七話 さっきの敵は、今は親友
首席を掛けた決闘はルナティアの圧倒的勝利で終わった。
シャーリンは決定的な実力差を見せつけられてその場に膝から崩れ落ちたのだった。
「見事だな。
私は魔導課程主任のハルニベル・ロンシュタッドだ。
これから君達一組の担任を任されることになった。
ルナティアだったな。
先程矢を放った瞬間と的を射抜いた時の魔法力に差があったようだが、何かしたのか?」
その男性は黒いローブを纏っていて、ガッチリとした体格と黒い短髪、彫りの深い顔をしている。
「はい。
あ、それは矢を多重展開した時、魔力量の調整まで行うと時間がかかると思ったので、放った後微調整をしました。
的に当たった時大きな破壊だと周りに飛び散る可能性があるので、的の真ん中を射抜く程度に抑えて、その調整と共に的の真ん中を射抜く様に方向も調整しました。」
「なるほど。
だが、ウインドスピアーは単真魔法による展開が基本なはず、放った後で魔力調整は出来ないはずだが。」
「はい。
単真魔法なら調整は出来ません。」
ハルニベルとルナティアの会話を聞いている周りの生徒達はその内容を聞いて呆気に取られていた。
周りの状況とは反して2人は魔法における考察の様な会話を交わしている。
「せ、先生!
私はシャーリン・アストロイカと申します。
ルナティアさんと何の会話をしていらっしゃるのですか?」
周りの生徒達の気持ちを代弁するかの様にシャーリンは立ち上がって声を挙げた。
「今日の決闘の考察を授業でやろうと思ってな。
ルナティアは全て理解している様だな。
これは楽しみな生徒がいる様だ。
ルナティアよ。
ウインドスピアーの件、後日授業で聞かせてくれ。」
「あ、は、はい。
わかりました。」
少し話しただけでハルニベルは校舎の方に歩いて去って行く。
「ルナティアさん。
私の完全な敗北です。
多重展開からの速詠唱とは、その時点で私に勝ち目はありません。
あなたは凄い人です。」
去って行くハルニベルを見送りつつシャーリンはルナティアの側に歩み寄った。
「ありがとう。
シャーリンさんに褒められちゃいましたね。
とっても嬉しい。
お父様が仰っておられました。
同じ信念を持つ者は、それだけで親友になれると。
私も魔法の事では誰にも負けたく無いと思ってる。
だから、シャーリンさんの気持ちよく分かるよ。
だから、友達になって!」
満面の笑みでシャーリンに右手を差し伸べた。
「え?
今日会ったばかりなのに、もう友達ですか?」
「シャーリン。
観念した方がいいよ。
ルナは諦めが悪い。」
2人の様子を伺いつつミラルバはそっとシャーリンの肩に手を掛けた。
「そうなのね。
仕方ないわね。
友達になりましょ。」
「やった〜!
私の事はルナって呼んで良いよ。
シャーリンって呼んで良い?」
ルナティアはシャーリンの手を握ると飛び跳ねて喜びを表現した。
「ええ、良いけど。
仲の良い友人は皆私の事をリンと呼ぶけど。
どちらでも良いわよ。」
「リンか〜、そっちの方が可愛いね。
じゃあ、私達もリンって呼ぼう?
ねぇ、ミラ。」
入学式初日で仲良くなって友達が出来てルナティアはとても嬉しかった。
あだ名で呼び合えるようになるなんて夢にも思っていなかった。
「私の事はミラって呼んで。
リンに一つお願いが有るんだけど。」
「わかったわ。
ミラって呼ばせてもらうわ。
それで、お願いって何かしら?」
「私と決闘して欲しいの。
ルナとリンだけやって私がやってないなんてズルい。
私の次席を掛けてルナと同じ決闘しましょ。」
自信があるのかミラルバは腰に手を当てて挑戦的な目でシャーリンを見ている。
「先生〜!
ミラとリンが決闘したいですって!
良いですか?」
ルナティアとシャーリン、そしてミラルバの様子を少し離れたところからラサエル校長は微笑ましく見ていた。
「わかりました。
準備しますよ。」
そう言うと職員達が目標の的を新しい物と交換し始めた。
「ちょっと!
ルナ!
私はまだやるとは言ってないよ!」
「え?
やらないの?」
悲しそうな顔でルナティアはシャーリンを見ている。
友情を深めることができるのに。
とルナティアは思っている。
「………。
わかったわよ。
やりますよ。」
「リン。
ルナの親友を長くやってる私が教えてあげる。
あの子は純粋で無垢、だけにタチが悪い。
だけど、とても良い子よ。
空気は読めないけど。
だから、観念なさい。
もうルナから逃げられないよ!」
「ちょっと!
ミラ!
それじゃぁ〜私が何かしてるみたいじゃない。
私はミラとリンが私とリンが決闘して親友になれたように2人にも親友になって欲しいの。」
反論というよりは正当性の主張と言うべきか、ルナティアは腕組みして得意げに話している。
「はいはい。
さあ、リンやろう!」
「もう〜、ミラ〜、聞いてよ〜。」
「ふふふ、仲が良いのね。
これからどんな学校生活が待ってるのか楽しみだわ。
ルナには毎日新鮮な体験を提供されそうね。」
「もう〜、リンまで。」
「そうなのよ。
って、リンも少しわかって来たわね。
学校生活はそりゃ〜楽しくなるわよ。
ねぇ〜ルナ!」
「任せてよ!
皆んなで楽しい学校生活にしましょ」
ルナティアはシャーリンをミラルバはルナをそっと手を取って3人で抱き合った。
「さて、ミラルバさんとシャーリンさんの決闘を始めますか?」
2人は先程と同じようにサークルの中に立つと決闘が始まった。
魔法展開はミラルバの方が若干早く、シャーリンも負けまいと的を射抜いた。
実力はほぼ同じ位だったが、結果は5枚先にミラルバが抜き終わった。
決闘が終わると、2人は硬く握手をしてお互いを称え合った。
こうして、トップ三席の決闘は終わりを告げた。
入学式も終わり各クラスに分かれて教室へ移動が始まった。
一年一組は22人で男子10人女子12人となった。
教室は本校舎一階にあり、下駄箱からすぐの場所が大きな広間になっていて階段もある。
一組は左の一番手前の部屋で白を基調とした綺麗な教室だ。
冷暖房完備で各机にはモバイル端末も設置されている。
「ミラ〜、席決まってるのかな?」
教室と扉を開けるて生徒達は中に入って行く。
「席にあるモバイル端末に名前が出てるから、それを見て座ってくれ。」
後ろから担任のハンニバルが入ってくると黒板の前の壇上に資料とバインダーを置いた。
「ミラ〜、私ここだ。」
ルナティアの席は丁度中央にあった。
「私はここね。」
ルナティアの前の席がミラルバだった。
他のクラスメイトを見ても仲の良い子同士近くて、学校側も最初は席に関しても考慮しているような配置になっていた。
「リンはどこ?
あ、ちょっと離れちゃったね。」
周りを見渡したルナティアは一番前列の真ん中にシャーリンを見つけた。
「さあ、席につけ。
私はハルニベル・ロンシュタッドだ。
君達の担任を任された。
明日から本格的に授業が始まる。
それに当たって注意点を話すぞ。
授業で使う教科書等は机のモバイル端末に入っている。
使い方は明日教える。
魔法実技もあるからな、体操着も忘れるなよ。
朝は8時半から朝の会をするから、それまでに来る事。
授業は8時50分から開始する。
時間割はモバイル端末から自分の携帯端末にでも入れておくと便利だぞ。
この後男子と女子に分かれて学校内の施設を案内するから準備しとけよ。
男子は俺が、女子は副担任のマニル・エルブラッドが案内する。」
流石は一流の魔導学校だけあって机一つとっても最新式のようだ。
ルナティアは机の引き出しを開けると荷物を入れられるようにっていて、指紋認証で鍵が掛けられるのを見て早速登録していた。
携帯とハンカチ位を制服のポケットに入れると、副担任に案内されながら学校内を見て回った。
食堂や売店、特別教室、ロッカー、屋内プールなどなど充実した設備が整っていた。
こうして入学式初日ルナティアはこれからの学校生活に希望を感じながら終了した。