第六話 クラス編成
講堂に集められた新入生は総勢182人となった。
男女比率は男子100人、女子82人となっている。
名門と呼ばれる魔導士の家系が約半数、親が魔導士や冒険者、資産家などが半数となっており、例年に比べて貴族階級の子供達が多くなっている。
「新入生の諸君。
入学おめでとう。
今年は魔力計測と魔法審査ともに優秀な人材が多く、教師一同楽しみな結果と聞いている。
これよりクラス編成を読み上げる。
呼ばれた者は、起立して入学証書を渡しますので壇上に上がって受け取るように。
先ずは特進クラス一年一組を読み上げる。
一組の一番初めに読み上げられた名前の者は、特に優秀であり、今回の入学に於いて首席の者となる。
それ以降、次席、三席と続く。
一組で呼ばれた者は特に将来期待される優秀者で有ると心得るように。
それでは、名を読み上げる。
一年一組首席。
ルナティア・シルブラット。」
会場がその名を聞いた瞬間、わぁっと歓声が起きた。
「はい。」
ルナティアは元気よく返事をするとスッと立ち上がって会場の中央から壇上に上がった。
「ルナティア・シルブラット。
其方を成績優秀と認め、この証をもって首席で有ることを証明するもので有る。
今後、更なる努力と勤勉に励み、皆の手本となる事を望みます。」
校長から賞状とバッチの入った箱を受け取った。
「ありがとうございます。
この証に恥じぬよう努力します。」
校長に向かって深々と一礼をした。
「それでは、ルナティアさんには一言挨拶をして貰いましょう。」
校長がルナティアに壇上のマイクの前に来る様に促すとゆっくり生徒達に向かい合う形でマイクの前に立った。
「ルナティア・シルブラットと申します。
アスタミラ魔導高等学校は私の兄や姉も卒業している学校で、よく話を聞いていました。
その当時から私はこの学校に何れ入学したいと思って過ごして来ました。
これからの学校生活がとても楽しみです。
沢山の人達と大好きな魔法について学べるなんて、想像しただけで笑みが溢れてしまいそうです。
そして、生涯の友人と沢山出会えたら嬉しいです。
お父様が仰っておられました。
魔導に極みなしと。
決して今の状況に満足する事なく、沢山の人達といろいろな事を学んで立派な宮廷魔導士になって沢山の人達を幸せにする事が私の夢です。
どうか、よろしくお願いします。」
話し合えると沢山の拍手に包まれた。
ルナティアは会場に向かって一礼をすると壇上を降りて席に着いた。
「ルナ!
やったね。」
「うん。
ありがとう。」
一番喜んでいるのは隣に座っているミラルバだった。
それがルナティアも嬉しかった。
「それでは、次、一年一組次席。
ミラルバ・シストリカ。」
ルナティアの時と同様に会場が騒ついた。
「はい。」
名前を呼ばれるとミラルバはその場に立ち上がった。
「ミラ!」
立ち上がったミラルバにルナティアは嬉しくて思わず声をかけた。
「うん。
行ってくる。」
凛として背筋を伸ばしてミラルバは壇上に向かった。
「ミラルバ・シストリカ。
其方を成績優秀と認め、この証を持って次席で有る事を証明するものである。
首席同様、魔法の技術に於いて卓越した才能を発揮した。
今後、皆の手本となっていかれる事を望みます。」
ルナティアと同様に賞状とバッチの入った箱を受け取った。
「それでは、ミラルバさんにも挨拶をお願いします。」
促されてマイクの前に立った。
「ミラルバ・シストリカと申します。
私と首席のルナティアとは幼馴染で昔から2人とも魔法が大好きで、ルナティアは5歳の時に魔臓器が覚醒して私より先に魔法が使えるのを見て羨ましいとよく思ったものです。
私も10歳の時に魔臓器が覚醒して、ずっと気になっていた魔法遊びを覚えました。
私の兄弟もこの学校の卒業生で、憧れの学校でした。
いつかここで学べる事を夢みたものです。
将来は宮廷魔導士として、沢山の人達を導ける人になりたいです。」
会場から割れんばかりの拍手が起こる。
ミラルバは壇上から降りると自分の席に戻って来た。
「ミラ。
とても素敵な挨拶だったよ。」
「うん。
緊張した。
ありがとう。
ルナも素敵だったよ。」
ルナティアはミラルバの手をそっと握ると震えているのを感じて、両手をぎゅっと握った。
「それでは次、一年一組三席。
シャーリン・アストロイカ。」
名前を呼ばれると会場は至る所でざわめきが起こる。
「はい。」
立ち上がると壇上に向かって歩いていく。
とても、凛としていて背筋が伸びている。
聡明で茶色い髪型長く靡いている。
「もしかして、アストロイカって
………。」
「そうよ。
宮廷近衛師団長ゼクロス・アストロイカ様よ。」
ボソボソと至る所で会話が聞こえてくる。
「シャーリン・アストロイカ。
其方を成績優秀と認め、この証を持って三席と…。」
「ラサエル校長先生!」
大きな声でラサエル校長の言葉を遮った。
「ん?
どうしましたか?」
会場ざわめき立っている。
あまりにも急に大きな声が講堂に響き渡ったので、先生達も何事かと険悪な空気が流れている。
「私は納得がいきません。
何故私が首席ではないのか。
ルナティアさんより私の何が劣っているのか。
このままでは父上に申し開きができません。
上位三席に関しては意義ある場合、決闘での証明も可能と伺っていますが、可能でしょうか?」
「そうですか。
決闘による証明を希望と言うことは、ルナティアさんと決闘という事ですか?」
「はい。
ルナティアさんと決闘をして勝てば首席と認められるのであれば、そうしたいです。」
「わかりました。
ルナティアさんは如何ですか?」
壇上のラサエル校長とシャーリンの視線、生徒達の視線がルナティアに集まっている。
黙ったままルナティアは立ち上がった。
「ルナティアさんには2つの選択者があります。
決闘を拒否するか、受けるか。
拒否すれば首席は守れますが、名誉は失うかもしれません。
受かれば勝つことで首席は守れる。
負ければ奪われて三席となります。
如何しますか?」
「受けていただけますよね?
それともシルブラット公爵家では、魔法の決闘は禁止されていますか?」
自信に満ちた口調でルナティアを挑発している。
余程自分の魔法力に自信があるのだろう。
「お父様が仰っておられました。
売られた喧嘩は全力を持って受けるが筋と。
わかりました。
決闘を受諾します。」
「わかりました。
我が校では対人の決闘は禁止していますので、魔法早撃ちによる決闘とします。
5枚のマトが50メートル先に並んでいます。
その5枚を早く射抜けたものの勝利とします。
依存は有りませんか?」
「はい。」
ルナティアとシャーリンは同時に大きな声で返事をした。
舞台は運動場に移された。
首席をかけた決闘は過去にもあるが、久々の決闘に上級生も興味津々で集まり始めた。
運動場から教室のベランダや窓から2人の決闘は注目の的である。
「ルナティアさん。
手加減などしたら一生恨みますから、全力でお願いしますね。」
「シャーリンさん。
わかりました。
全力でいかせていただきます。」
2人は運動場の真ん中で向かい合うように立ってお互い視線を逸らすことなく見つめ合っている。
「ルナ。
頑張って!」
人集りの中からミラルバの声が聞こえて来た。
ルナティアは視線の先にミラルバを見つけると微笑んでみせた。
「それでは、首席をかけた決闘を開始します。
より早く的を射抜いた者の勝利で負けた者も勝った者もこれ以後その結果に遺恨なきように。」
「はい。」
ルナティアとシャーリンはお互い決して視線を晒すことなく元気よく返事をした。
そして、決闘の立ち位置に円形のサークルが地面に書かれていて、その中に入ると中心にお互い立った。
「それでは、始め!」
その合図と共に決闘の開始が告げられた。
「風よ。
矢を放て。」
ルナティアは両手を肩幅くらいに広げると一瞬で目の前に5本の矢を展開して一気に的に向けて放った。
「大地よ。
…。」
シャーリンが詠唱を始めた時にはルナティアは5枚の的の丁度中心を風の矢で完璧に射抜いていた。
「そこまで!」
勝負は一瞬で終わりを告げた。
シャーリンはその場に膝から崩れ落ちた。
「見事ですね。
5本の風の矢を展開するスピード、そして、同時に的に飛ばす正確さ、そして、速詠唱とは。
文句の付けようが無いですね。」
これ程早く決着が着くとは見ている誰も想像できなかったであろう。
ラサエル校長はルナティアの側に寄って決闘の勝利をつけるのだった。