第五話 アスタミラ魔導高等学校
学校には車で数十分程で到着した。
殆どの学生が車で登校する。
この日は入学式を控えていて、学校の方針で両親などの参加は禁止されている。
ルナティアは車を降りると、学校の正門に向かった。
「お嬢様。
いってらっしゃいませ。
また、お迎えにあがります。」
「ディアナ。
ありがとう。
いってきます。」
正門は黒と金の金属で植物の蔓のようなものが、天登るかのようなデザインになっている。
校章は真ん中にあしらわれていて、立派な作りだ。
「ルナ〜!」
歩いていると後ろから声が聞こえてくる。
「あ!
ミラ〜!」
2人は幼馴染で両親も仲が良く昔から遊ぶことも多かった。
今回の高校進学も2人で同じ所に行きたいと考えていたが、どちらの両親もアスタミラに進学するように勧めて来たのと、学校側から是非とも我が校にと推薦状まで送られていたので、2人は一緒に行くことになった。
過程はどうであれ、2人の想いは尊重される形となった。
「わぁ〜!
おはよう〜。」
2人は抱き合って喜んでいる。
「ルナ。
とても可愛いよ。」
「ミラだって
凄く可愛い。」
会ったのは久しぶりでも無い。
先週も一緒にショッピングに出掛けている。
彼女の名は、ミラルバ・シストリカ。
シストリカ公爵家の令嬢で、兄と姉がいる3人兄弟の末娘である。
彼女の家系は火属性精霊の加護を受ける家系で、髪の色は炎の如く赤く、長い髪に聡明な美人だ。
公爵家は国内に5人居る。
何も広大な領土と王家の実質運営を行なっている一族だ。
「おい!
あの2人……。」
沢山いる学生達はルナティア達の事憧れにも近い想いで見つめている。
この国で暮らす旧家や貴族の間で、公爵家の令嬢の事を知らない者は居ない。
それ程有名な家系の2人は、五大公爵家の令嬢であり聡明で可愛いとなれば目立つに決まっている。
「これはこれはシルブラット公爵家御令嬢ルナティア様とシストリカ公爵家御令嬢のミラルバ様ですね。
公爵家の令嬢が2人揃ってご入学とは今年は豪華で我々としても喜ばしい限りです。」
校長のラサエルだ。
ルナティアは学校案内で見た事がある。
それに公爵家の云々と言うのも、正直興味はない。
校長はルナティア達の家柄に喜んでいるが、この手の社交辞令には慣れていると言うこともある。
「ラサエル校長先生。
おはようございます。
これからよろしくお願いします。」
2人は元気よく挨拶をした。
「こちらこそ。
シルブラット公爵家のラインハルト様にはいつもお世話になっております。
よろしくお伝えください。」
「はい。
わかりました。」
作り笑顔ではなく素直な笑顔で微笑んで見せた。そう言う事か出せるのもルナティアのいい所だ。
入学式の前にクラス編成がある。
学校には特進クラスと普通クラスの2種類があり、各クラス20人程で、4クラスづつある。
クラス分けは魔力計測と魔法審査によって分けられる。
「わぁ〜!
凄い綺麗な校舎〜。」
学校の中に入っていくと目の前に大きな校舎が現れた。
ルナティアは思わずはしゃいで大声を挙げた。
「凄いね。
楽しくなりそう。」
「うん。
楽しもう!」
2人ははしゃいでいた。
「邪魔だ!」
2人の側を1人の男子学生が通った。
険悪そうに2人を見ている。
「何よ。
迷惑は掛けてないと思うけど。」
男子の言葉が気に入らなかったのかミラルバは言い返した。
「遊びに来るなら、別の所でやってくれ。」
「どうしたの?
どうして怒ってるの?」
その男子の様子を見て、自分達が何か悪い事でもしてしまっただろうかとルナティアは聞き返した。
「あ?
聞こえなかったのか?
遊びに来てるなら、別の所でやってくれ。」
と言い放つと男子はさっさとクラス編成の場所に向かっていった。
「何よ。
偉そうに。」
「ん〜、怒ってたね。
何かあったのかな?」
「ルナは本当にいい子よね。
多分、女の子が2人で楽しそうに騒いでいるのが、気に食わないのよ。」
「そうなんだ。
悪い事しちゃったね。」
「まあいいわ。
ルナ行きましょ。」
2人はクラス編成が行われる講堂に向かった。
講堂に入ると既に計測器に向かって列を成していた。
先程の男子学生も数人前に並んでいる。
「ルナティア様とミラルバ様は計測はしなくても大丈夫です。
魔法審査の方に行って頂いて大丈夫です。
ライザット様よりステータス等紹介状をいただきまして、確認させて頂きましたので。」
列の様子を伺っている教師の一人がルナティアを見つけると近づいて来た。
ルナティアはこの時思い出していた。
ミラルバもライザットが名付け親でルナティア同様、誕生の日にお祝いをしている。
「先生!
どうしてこいつらは免除なんですか?
それって不公平ですよね?」
並んでいた先程の男子が近づいてきて、教師に威圧的な態度で言葉をぶつけている。
「君は確か、アインラット君だね。
ルナティアさんとミラルバさんはご紹介状でステータスが事前に申告済みなのだよ。
なので、計測の必要が無いだけなんだ。」
「へぇ〜、てっきり公爵家様だから優遇されたのかと勘違いしてしまいました。」
話をしている教師に向かってと言うよりはルナティアとミラルバに向かってその言葉は投げかけているように目線を送っている。
「ルナティア行こう。」
「う、うん。」
2人は講堂を出ると運動場に向かった。
運動場では、魔法を使用した審査が行われている。
2箇所で審査員が生徒の使う魔法を見ている。
見ていると、ファイアーボールを使うものもあれば、水を出すものと様々だ。
殆どの生徒が、まだ魔法の使用に慣れていないのが見て取れる。
中にはスムーズに魔法を使う者も居て、この様子だけでも初心者で有るかどうかの選別ができてしまう。
「ミラ。
魔法って何でも良いみたいだね。」
「そうね。
じゃあ、あれじゃ無い?」
「そうね。
あれよね。」
列に並んで10分くらい待つとルナティアの番が回って来た。
「ルナティア・シルブラットさんだね。
どんな魔法でも良いので見せもらえますか?」
「はい。
そよ風よ
渦巻け。」
詠唱するとルナティアの手の上でつむじ風が小さく巻き起こる。
そのつむじ風は何時迄も消える事なく存在している。
「見事ですね。
持続時間はどれくらい出来ますか?」
「はい。
そうですね。
何時間でも大丈夫です。」
「わかりました。
見事ですね。
とてもスムーズで安定している。
感心いたしました。」
ルナティアがミラルバの方見ると、魔法を駆使して火の玉と言う浮遊する火球を作っていた。
つむじ風と同様に魔法遊びの一つだ。
「ミラ〜。
どうだった?」
「上手く出来たよ。」
その言葉を聞いてルナティアはホッとすると同時にこれから始まる学校生活を思うと緊張するのだった。
「ふん!
何だあれは?
あんなが魔法と呼べるのか?」
2人で楽しく話をしていると、背後からアインラットと言う男子が近づいてきた。
「何よ。
じゃあ、あなたはどんな魔法を見せてくれるのかしら。
楽しみね。」
挑戦的な発言にミラルバは強気な姿勢で睨み返した。
「ミラ〜、やめなよ。
私達は終わったんだから行こう。」
「ルナ。
この人がどれ程の魔法を使うのか見てあげましょうよ。」
気の強いミラルバは腰に手を当ててアインラットに含みのある笑みを見せた。
「ミラったら。
別にいいけど。
お父様が以前おっしゃってたわよ。
魔法に優劣はない、有るとすれば想像力の無さだ。
って。
どんな魔法でもそれ自体に意味は無いよ。
想像力の具現化が魔法だとするなら、私達の見せた魔法は楽しい魔法。
それが私達らしいでしょ。」
「そうね。
私達らしいか〜ルナの言う通りだけど。
彼の魔法もどんな魔法なのか、気になるのよ。」
「ふん。
俺の魔法が気になるか。
じゃあ、見せてやるよ。」
アインラットと言う男子生徒は私達の横を歩いていくと、魔法審査の場所に向かっている。
審査員に名を告げると。
「赤き勇猛なら炎よ。
荒ぶる刃となって
切り裂き燃やし尽くせ。」
詠唱が終わると赤い炎が燃え上がり三日月方の刃が目標物に向かって飛びはなった。
炎の刃は目標物に当たると爆発を起こした。
「わぁ〜、凄いね。」
炎が弾け飛ぶ様子にルナティアは手を叩いて笑顔を浮かべている。
「中々やるじゃ無い。」
笑顔のルナティアと違って、依然としてミラルバは表情は硬かった。
素直に認められると言う所までは行かないようだ。
それに反してルナティアはアインラットの側に愛らしい笑顔で駆け寄った。
「な、何だよ。」
「アインラット君は火属性魔法を使うんだね。」
「ああ、俺の家系は火の精霊イグニスの加護を受けているからな。
シルブラット公爵家は風の精霊シルフィードだったよな?」
「うん。
そうだよ。
私はルナティア・シルブラット。
よろしくね。」
こうして入学前の魔力計測と魔法審査は終わった。
再び全員が講堂に集められるとクラス編成が行われようとしていた。