第三話 恐るべき真実
ルナティアは店を出るとセシリア達と合流して、屋敷に戻った。
早速自分が品定めした魔装具をゼルスに見せたくてウズウズしているのだ。
「お父様〜。」
屋敷に入ると走ってゼルスがいる自室に飛び込んだ。
「ルナティア。
ノックをしなさい。」
「あ、ごめんなさい。
お父様に私が選んだ魔装具を見て欲しいの。」
屋敷に入ると広い空間があり天井まで吹き抜けになっている。
入ってすぐのスペースは来客や応接に伴い待合の場所ともなっている。
すぐ目の前には2階への階段があり、一階は応接室やリビング、キッチンや水回りなど皆が使う部屋があり、2階にそれぞれ家族の部屋がある。
ゼルスの部屋は階段登って左側の廊下を進んで一番奥に扉がある。
「わかった。
見せてごらん。」
購入したローブと腕輪、杖、魔導士用の軽装などを装着してゼルスの前で回転してみせた。
「お父様。
どう?
似合うかな?」
「ミスリル銀を繊維にして編み込んであるのか。
素晴らしい仕上がりだな。
ミスリル銀の腕輪も良いな。
それにしても、その杖は凄い魔装覇気を放っておるな。
名を刻んで貰ったのか?」
特に杖に興味を持ったゼルスは手にすると隈なく見定めている。
「はい。
私しか扱えないだろうからと、ルナティアの杖と名を刻んで貰いました。」
「良い品を選んできたな。
流石我が娘だ。
父は誇らしいぞ。」
杖をルナティアに渡すと、頭を撫でて微笑んでいる。
以前からゼルスは末娘のルナティアを溺愛していて、セシリアからも甘やかしすぎだと叱られる事も珍しく無い。
誰が見ても、微笑ましい親子の様子なのだろう。
コンコン!
ドアがノックされた。
「ディアナ参りました。」
「入れ。」
部屋に入って来たのは、ルナティアの護衛兼公爵家の用心棒として雇われている剣士のディアナ・マトランディスだ。
公爵領で冒険者としても活躍している。
領内でもズバ抜けて腕の立つディアナをゼルスはスカウトしてルナティアの護衛役として据えた。
それと言うのも、ルナティアが冒険者登録したいと言い出した事に端を発する。
「ディアナ〜。
どう似合う?」
「ルナティアお嬢様。
よくお似合いです。」
「お父様もディアナも褒めてくれたからとても嬉しい。」
褒められてルナティアは嬉しいのであろう、クルクル回って微笑みながら自分の姿を2人に見せている。
「ディアナ、いつも娘の護衛役ご苦労だな。
礼を言う。
ルナティアの冒険者の真似事まで付き合わせて世話をかけるな。」
「いえ。
苦労などと言うほど私は何もしておりませんので。
それに冒険者の仕事と言っても採取クエストしかやらせてませんので。」
実際はこうだ。
ゼルスからルナティアには採取クエスト意外冒険者の仕事は無いと伝えるように言われている。
ルナティアは素直なので、そうなんだと疑いもしなかった。
「お父様。
冒険者の仕事も、私はちゃんとやれてますのよ。」
「おお、そうか。
頼もしいな。」
「しかし、以前から気にはなっていたのですが、領内でもジルンバ周辺地域には魔物が居ないのですね。
なので、クエストと言ってもこの辺りだと採取クエストしか無いですね。
少し地域を広げれば討伐クエストもありますが。」
「確かにこの地域には10年前くらいから魔物が居なくなって見かける事も無くなったな。
それもディアナ達冒険者の活躍があっての事だろう。
感謝しているよ。」
「お父様。
魔物とは何ですか?
猪や狼のような獣のことですか?」
ゼルスとディアナの会話を聞いていたルナティアが不思議そうな顔でいる。
「お嬢様は魔物を見た事が無いのですか?」
「確かにルナティアが物心ついた頃には魔物が見かけなくなったからな。
見ていないかも知れんな。」
「お嬢様。
魔物とは猪や狼とは違って魔力を持った獣の事です。
種族の高位には魔族と呼ばれる人と姿の似た者たちも居ります。
出会う事が有れば警戒せねばなりません。」
ディアナの言葉をルナティアは興味津々で聞き入っていた。
「ルナティアはこれから魔法を学んでいく時に魔物の討伐実習もあるであろうからな。
幸いにも5歳の時魔臓器が覚醒して以来、私が魔力の使い方や魔法の手解きをして来たからな。
高校に通っても他の同級生に遅れをとる事は無かろう。」
親バカな発言にディアナは感心している。
いつもルナティアの事になると自慢が始まる。
そして、ルナティアは嬉しそうに喜ぶと言った感じだ。
「しかし、この世界に居て魔物を見た事が無いとは珍しいですね。
そう言えば、採取クエストで違う地域に赴いた時も全く魔物に出くわす事なく採取できていましたね。
大抵は弱い魔物程度なら姿くらい見るのですが、お嬢様は運が素晴らしく良いのかも知れませんね。」
ディアナもルナティアの護衛でクエストをしていて、ずっと気になっていた事だった。
採取クエストでも野生のキラーマウスや一角ラビットくらいは遭遇する。
「ハハハ、ディアナの覇気に魔物達も恐れをなしたのでは無いか?」
「そうかも知れませんね。
兎に角、この地域には魔物が居ないのはルナティアお嬢様にとっては良き事です。
旦那様のご心配事も少なくなりますしね。」
剣士としての仕事は無いかもせれないが、ディアナにとっても仕事が楽な分護衛に集中できるのは有り難いと思っている。
「それにしてもお嬢様。
立派な杖ですね。」
「そうよ。
ラディーさんのお店でカウンターの奥に置かれていた杖なんだけど。
この杖を見た時凄く綺麗に光ってたの。
ラディーさんは「それは辞めとけ!」って言ったけど、どうしても欲しくて売ってもらったの。」
嬉しそうにディアナにルナティアは杖を見せている。
「ラディーと言えば魔装具では名工と呼ばれている職人ですね。
彼は何故辞めておけとお嬢様におっしゃったのですか?」
「ん〜。
何だったかな〜、この杖は凄いから私には扱えないとか言ってたような気がしたけど。
あ!
そうそう、魔力変換率が8000マルス/秒くらい無いと扱えないんだって言ってた。」
「………!
魔力変換率が8000マルス/秒………。
ご冗談を、そんな数値あり得ませんよ。
天聖魔導士クラスでもそんな数値を出せる強者は聞いた事がありませんよ。
何かの間違いでは無いですか?」
戦々恐々とした顔でルナティアの話を解読していた。
腕組みして顎を手で抱えて思案しているのが判る。
「ん〜。
よくわかんないけど、リング化出来たし使えそうよ。
それにこの杖、私に会えて嬉しいって泣いてたし。
親友に巡り会えた感じで、私は気に入ったわ。」
サッとルナティアは杖をリング化して見せた。
その様子にディアナは開いた口が塞がらないほど驚いている。
そうだ!ラディーさんの勘違いに違いないと無理にでも納得しないと考えに収まりがつかない。
「ハハハ、そ、そうですね。
良かったでは無いですか。
まあ、魔力変換率が8000などあり得ませんからね。」
「ん?
ルナティアの魔力変換率は13000だからな。
8000ならば、使えるのでは無いか?」
「はい。
ちょっとだけライトニングアローを空に向かって打ってみたのですが、凄くスムーズに打てるので、私と杖の相性はバッチリだと思う。」
ゼルスはルナティアの話に頷きながら褒め称えている。
その様子を見ているディアナは違和感しか感じていない。
「ちょ、ちょっとお待ちください。
魔力変換率13000という事は、魔力はどれほどなのですか?」
「ルナティアの魔力は確か1500万マルスだったかな。
流石我が娘だ。
桁外れの実力だ。」
父は娘の頭を撫でて、親バカの極みのような表情で嬉しそうだ。
だが、ディアナはその場に膝を突いて倒れ込んだ。
顔は固まり表情は硬い。
この時、ディアナは悟った。
この地域に魔物の姿がない事。
別の地域に行っても魔物に遭遇しない事。
10年前から魔物が目撃されなくなった事。
疑問に思っていた事が、全てこの親子の会話で明らかになった。
そうである。
ルナティアの魔力があまりにも強すぎて、恐らく魔物の方がこの地域から逃げてしまったのだと。
採取クエストでも魔物の姿がないのは、ルナティアが行く先々で魔物は恐らく血相を変えて逃げていたのだろう。
ディアナは思った。
ルナティアに護衛の必要はないかも知れない。
あるとすれば、人間に対する警護くらいだろう。
衝撃の事実が判明したのだ。